ORGANIC STONE

私達は地球を構成する生命を持った石に過ぎないのですから。

僕は目覚めている。:ミリオンダラー・ホテル(2002)

2006-10-15 07:46:58 | 映画:ミニシアター系
The Million Dollar Hotel(2002)

U2のボノ原案、「ベルリン天使の詩」のヴィム・ベンダース監督、「現代の悲しい寓話」とか「魂の救済の物語」とか気恥ずかしい言葉で表現される映画。少々頭の弱い青年と、心を病んだ女の子の純愛物語と簡単に言い切っても語弊はないのです・・・商業的に成功しなかったのですが、それは仕方の無い事、出演者は豪華ですが、誰もに受け入れられるストーリーではありません。私自身、公開当時は2の足を踏んでいましたから。純愛好きなベンダースらしいラブ・ストーリー&ミステリーに、コメディの要素とファンタジー(スキナー捜査官の腕ね)を加えた「奇妙な」映画。「ベルリン天使の詩」が好きならコンセプトも問題なく理解できるでしょう。ヴィム・ベンダース監督好きにはお勧め。この映画を酷評した方々は、出演者から「アメリカ映画」として鑑賞したのではないでしょうか?基本のトーンは、あくまでヨーロッパ映画の血筋です。

←トムトム(ジェレミー・デイビス)とエロイーズ(ミラ・ジョボビッチ)

ダウン症の青年と疲れたサラリーマンの交友を描いたフランス映画「8日目」、少々「とろい」女の子の話トリアーの「奇跡の海」等、実は私はこの手の映画に「弱く」て、見た後暫く立ち直れなかったりします。この映画と「8日目」、結末が同じ(というか見せ方まで同じ)なのは御愛嬌でしょうか?「8日目」の主人公は本当にダウン症の青年ですが...

LAのミリオンダラー・ホテルに、奇妙な住民たちとともに住むトムトム(ジェレミー・デイビス)は、少々頭の弱い青年。トムトムはエロイーズ(ミラ・ジョボビッチ)を好きなのですが、エロイーズは心を病んでいます。自分は存在しないのだと思い込み、まるで自我が無いような生活を送っています。ある日トムトムの親友イジーがホテルから飛び下りて死んだことから、真相を見つけにFBIのスキナー捜査官(メル・ギブソン)とベスト(ドナル・ローグ)がやって来ます。イジーは実は大金持ちの息子で、その死を機会に住民は一致団結、イジーの同居人ジェロニモ(ジミー・スミッツ)の描いた絵をイジーが描いたことにして、大儲けしようと計画します。が、ジェロニモがスキナー捜査官に逮捕されてしまった事で、事態は思わぬ方向へ・・・

ジェレミー・デイビスは年令を見ると結構歳いってる(1969年生まれ)のですが、この映画では20才位に見えます。彼の演技がこの映画の全てだ、といっても異論を唱える方は居ないと思います。主人公のトムトムの純粋さ、無垢さ、壊れやすさを、少年のような笑顔で、やり過ぎずそしてやり無さ過ぎずに演じるこの人、凄いです。成人でありながら、子供や子犬のような純粋で愛らしい生き物になり切っちゃってます。他出演作はソラリスの良く喋る青年くらいしか記憶にないもので・・・(どちらかというと薄幸顔ですね。実はこの人若いころのボノに似ています。)ミラ・ジョボビッチも神経質なエロイーズをそつなく演じて余裕に見えます。初見で全然気付かなかった(あの変装では判らないよ~)ピーター・ストーメアも変なミュージシャン役で出ています。歌が旨いのにびっくり。やっぱり怪人。メル・ギブソンはかっこいい役では有りますが、芸達者ぞろいのこの映画のなかでは埋もれてしまった感があります。スキナー捜査官の腕のエピソードは、必要なんでしょうか・・・

←自分はビートルズのメンバーだったと信じる変な人、ピーター・ストーメア。
←FBIのスキナー捜査官(メル・ギブソン)。笑える悪役ってところ?

トムトムが読み上げるイジーの詩、印象的な使われ方でした。

"「愛」は心を目覚めさせる。心は目覚めるのを待っている。
だから、眠る心へと向かわなければならない、なぜなら心は、「目覚める夢」を見ているだけだから。"

原案がU2のボノ。ボノの詩では「目覚める」というキーワードが良く出て来ます。この映画のコンセプトにもボノらしさはあちこちに見られます。思い出したのはU2ファーストアルバム「BOY」。少年の目で見た世界の、不思議さ、美しさ、瑞々しさをテーマにしたこのアルバム、少年の目はそのままこの映画のトムトムの視点に繋がります。しかしトムトムは決して大人になりません。彼の精神は無垢なまま。

"I Will Follow"(1980)

I was on the inside
When they pulled the four walls down
I was looking through the window
I was lost, I am found

"彼らが四方の壁を崩した時、僕は内側に籠っていた
僕は窓から外を見、道を見失い、そして見つけた"

ロスト&ファウンド、失い、そして見つける。"I Still Haven't Found What I'm Looking For" に代表されるように、見つける/探すはもう一つのボノのテーマ。映画では「大事なのは自分自身を見つけること」とトムトムに言わせています。

"BAD"(1984)

If I could through myself
Set your spirit free
I'd lead your heart away
See you break, break away
Into the light
And to the day

I'm wide awake
I'm wide awake
Wide awake
I'm not sleeping
Oh, no, no, no

"もし君の魂を解き放てるのなら、僕は自分がどうなってもいい
君の心が明るい日の光の中に消えるのを手伝おう

僕は目覚めている、しっかりと
決して眠ってなんかいない"

後述のBADの歌詞は、この映画のラストそのまま。この曲は私がもっとも好きなU2の曲の一つ。この曲の基本にはアイルランド紛争が有りますが、紛争だって元を辿れば人間の心によって引き起こされるもの。「閉ざされた魂」と思われるエロイーズの精神、そして「眠ったままの魂」の私達の心。それを導けるのは少年=トムトム、世の中の物事を単純に、そのままにしか受け取れない彼は、生と死の境目さえも、曖昧なものだったのに違い有りません。彼にとって「死」とは、あたかもバスに乗り隣町へ行くかのような感覚でしょうか。境目の低さはそのまま、もっとも「死」に近い存在としての生者であることの証明であり、彼が読む詩の中の「目覚めた者」とは彼ただひとりだったのではないでしょうか。残念ながら、彼自身その事実に気付いた時にはもう遅かったのですが。

←夜明けの全力ダッシュ。あ~切ない。彼の肉体には羽根は有りませんでしたが、精神にはきっと羽根があったに違い無い。

コメント    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« ストーメア爆弾炸裂:グリム... | トップ | ショーン・ビーン特別企画:... »
最新の画像もっと見る

コメントを投稿

映画:ミニシアター系」カテゴリの最新記事