2007年4月7日土曜日 曇り。
小雨と雨雲の中にあった焼山寺から平地に戻ると、薄っすらとした曇り空で気温も高かった。
第十三番礼所「大日寺」からは、再び徳島市内に戻り短い距離間隔で
第十四番「常楽寺」、第十五番「国分寺」、第十六番「観音寺」、第十七番礼所「井戸寺」と続く。
バイク遍路だと、この短距離移動は結構面倒だった。
バイク遍路全般に言えることでもあるが特に排気量が大きかったり、
荷物の積載量が多すぎると乗り降りだけでも気を使う。
駐車場が砂地や砂利敷きの場所も少なくなかったので、
私の相棒であるKLEは立ちが強く腰高で荷物満載時は特に勝手が悪く不向きと言えるだろう。
KLEで良かったと思えたのは、中間排気量のデュアルパーパス車が生み出す機動性走破性の高さだろうか。
現在流行中の大型アルプスローダーではその車格を持て余すだろうし、
パンチのない小型排気量だと「荷物多いと、この坂上れないだろう」という場所も少なからずあるし、
移動距離を稼ぎたい時にもやはり物足りなかったに違いない。
KLEユーザーだから相棒の肩を持つのは当然だけど、まぁ、スーパーカブ110とかセローとかの方が断然バイク遍路向きの車両だ。
朝方の天気が嘘のように温かく、曇りながらも明るく感じる春の陽気となった。
第十七番礼所「井戸寺」を打ち終わると、徳島市街地を抜け国道55号を南下し第十八番礼所「恩山寺」へ向う。
お遍路二日目の前半は、藤井寺と焼山寺以外の印象が薄く、只々お遍路の作法とお経を読むことを覚えるのに必死だった。
周りの先達の方々を見よう見真似でとにかく集中していた。
しかも、先走る気持ちが逸り次へ次へという思いになってじっくりお寺を観察する余裕などなかった。
時間的にも心境的にも余裕がなく、機動力があるがゆえのバイク遍路の弊害が今回のお遍路を通してあった様に思う。
今から思えば非常に勿体無いことだが、当時の私にはそういう余裕は一切なかった。
第十八番礼所「恩山寺」、第十九番「立江寺」を打ち終わると、再び県道で山道を登ることになる。
道中の山岳路で自転車遍路や、リヤカー遍路を見たが、あれはあれで大変そうだった。
第二十番礼所「鶴林寺」を経て第二十一番礼所「太龍寺」へ至る。
太龍寺には近くの道の駅「鷲の里」よりロープウェイがあるが利用せず。
道の駅とロープウェイからの印象からなのか、観光地然としていたように記憶する。
太龍寺を打ち終えると、国道195号を東に向かい県道264号を経て第二十二番礼所「平等時」へ。
開けた石段の上に本堂があり、見上げると今朝の雨が嘘のように青い空が広がっていた。
午後4時を少し過ぎた頃に後にし、国道55号を南下する。
第二十三番礼所「薬王寺」へ辿り着いたのは午後5時少し前で、本日のラストとなった。
多くの納経所受け付け時刻が午後5時までなので、自然とこの時間帯の礼拝者は少ない。
境内からは夕刻の日和佐の街並と港湾を望み、「さて、今日はどこで寝ようか」という不安が頭を過ぎる。
ここ「薬王寺」で徳島県最後の礼所となりこれから高知県へ向うことになるが、
第二十四番礼所「最御崎寺」は遥か南の室戸岬まで行かねばならない。
距離にして約80km程であり、歩き遍路だと2~3日ほど、バイクなら2時間弱というところだろうか。
午後5時、今から走れば午後7時過ぎには辿り着けると考えマップルを見る。
室戸岬には国民宿舎が管理するキャンプ場あったが、この当時国民宿舎の整理が進められていて閉鎖されていた。
他に心当たりがあるのは昔一度利用したことのある「ライダーズイン室戸」だった。
このライダーズインという施設は、高知県内の各自治体が設置している簡易宿泊施設で、当時県内5箇所が営業していた。
ライダーズインという名の通り、ライダー利用を考慮した作りとなっていて個別の屋根付き駐輪場を備えている。
寝具などの有料貸し出しもあるが、寝袋持参が基本となる。
電話をすると年配の男性が受話器の向こうに立っていた。
今日は利用者1名だけで部屋は幾らでも空いているけど、管理人のその男性が午後7時までしかいないのでそれまでに来れるか?と聞く。
7時は過ぎそうだけど7時半までにはなんとかと言うと、じゃぁお宅が来るまで待っているとの事だった。
宿が決まったので、一気に国道55号を南進する。
左手に闇に沈みかけた太平洋を望み、午後7時というのが頭にあるせいか気持ちも逸りアクセル開度が大きくなる。
途中、歩き遍路を5人ほど見かけ、更に砂浜のあるちょっとした公園らしきスペースにムーンライト型の小型テントが3つほど建っており、
その住人達が白衣を羽織っていることから彼らがお遍路さんであることが窺えた。
歩き遍路だと、この海岸線をじっくり自己を見つめながら堪能して歩を進めることが出来るだろう。
バイクだと、走ることに集中している間に1~2時間などあっという間に過ぎ去ってしまう。
目的の「ライダーズイン室戸」へ到着したのは午後7時を少し過ぎたくらいだろうか。
管理棟に入ると、20代前半、大学生風のハンサムな青年と60代後半以降と思しき男性とがテーブル席に腰を掛けて話していた。
私が現れたことで彼らの会話は中断し、年配の男性が「電話した方?」と聞く。
先ほど電話口で対応して戴いたのはこの男性だった。
電話での印象より、ずっと若い。
若いライダーとも目が合い、軽く会釈してくれたので私も丸坊主にしたばかりの頭を下げた。
受付で料金3,150円を支払い、鍵を貰い、この施設の利用上のルールという口上を一通り聞く。
午後7時半までここは開けているが、その後は施錠するからという。
朝も管理人が来るまで時間があるようで、誰も居ない時は鍵は閉めた上で所定の場所に鍵を入れてチェックアウトしてくれとの事だった。
管理棟を閉めるという時間まで少し間があったので利用者が寄せ書きをしているノートとか観察していると、
先ほどの若いライダーと管理人さんが再び会話を始めた。
盗み聞きするような悪趣味は持ち合わせていないが、自然と聞こえてくるのでなんとなしに聞きながら館内を散策する。
一人旅で他人と話すことに慣れている感じの好青年は、聞き上手でもあった。
管理人さんも話し上手とは言わないが、地元の訛りが混じりながら自身の半生を青年に話していた。
長い間遠洋漁業の漁師さんで海外まで漁に出ていたとか、最近歳をとって陸に上がりここの管理人をしているという。
ポツリポツリと土佐の方言交じりで語る管理人に、良いタイミングで合いの手や頷き、驚嘆の声をあげる青年。
会話という会話を暫くしていない私も、少し話しに参加したい欲に駆られたが止すことにして自室に向った。
部屋の前に屋根付きの駐輪場がありそこへKLEを停め荷物を下ろす。
中は薄暗く、簡素なシャワー室で汗を流しコッヘルを出して棒ラーメンを作って夕食とした。
部屋にはTVはなく、持参のラジオで野球中継を探しているうちに眠気が襲ってきた。
銀マットの上に広げた寝袋の中に身を滑り込ませて目を閉じれば、そのまま闇の中に落ちていった。
・本日の走行距離 350km
・本日の旅費 ¥6,878-