ようこそホテルカリフォルニアへ(Welcome to the Hotel California)の部分は、少しチープな広告のような言葉を使って、第一節の歌詞とのギャップを作っています。しかしここでも、「豊富な部屋があり、あなたは(何かを)見つけることができる。」という暗示めいた言葉を含んでいます。
彼女の心はティファニーのねじれ、彼女はメルセデスの曲線を持っている(Her mind is Tiffany-twisted, She got the Mercedes Bends,)の部分は、「ニューヨーク5番街の有名な宝飾店ティファニーの洗練されたデザイン、高級車メルセデスベンツの美しいライン」に象徴される内面的な気品と「女性の持つ腰のくびれやボディラインが高級品のようにゴージャス」というイメージがあります。(the Mercedes Bendsはthe Mercedes Benzのもじり・洒落)そしてもう一つ、ジャニス・ジョプリン(Janis Joplin、1943-1970)が最初に歌ったサンフランシスコのサイケデリックバンド、ビッグブラザー&ホールディングカンパニー(Big Brother and the Holding Company)に影響を与えたティファニーシェード(Tiffany Shade)とジャニス・ジョプリンの曲「メルセデスベンツ」を連想させて、ジャニス・ジョプリンへのオマージュともとれます。そしてこのホテルが、そんな女性を中心とした、かわいい少年たちが踊り、「思い出す」「忘れる」という過去に囚われている一種のコロニーであることが分ります。(女王に支配された蜂や蟻の巣のようなイメージです。)
次に、主人公は理性を保つため、あるいは現実に戻るために、ボーイ長(給仕長)にワインを頼みますが、「私たちは1969年以来のスピリット(魂)をここには置いていないんです」 (We haven’t had that spirit here Since nineteen sixty-nine”)と言われます。1969年はウッドストックで大規模な野外コンサートがあった年。また、アメリカがベトナムから最初に撤退を始めた年でもあります。サイケデリック・ムーブメントによる自由な共同体という意識が、当時の若者の間でピークに達した年ですが、衰退の始まった年とも言えます。ジャニス・ジョプリンは1970年に亡くなっています。とにかく音楽の世界も、社会の動きや人々の考え方も変っていった時代です。ですから、このホテルがそれ以降の新しいスピリットがない場所ということになります。スピリットは蒸留酒のアルコール分(ワインは蒸留酒ではありませんが)と魂の二重の意味を含んでいます。そして、過去に捉われているこのホテルの住人たちが、「彼らはホテルカリフォルニアで生きてくのさ、なんて素晴らしい驚き、なんて素晴らしい驚き」「あなたのアリバイを持ってきて」と呼びかけます。「アリバイ(不在証明)を持ってきて」(Bring your alibis)は一般社会からの離脱を意味しています。
最期の節で主人公は、現実へ戻るために出口を探しますが、夜警の男たちに、チェックアウトは何時でもできるが、二度と離れることは出来ないと言われます。(programmed to receive)ですから、戻れない仕組みになっているということです。ここではチェックアウトはホテルを離れる意思を示すことはできる、しかしこのホテルカリフォルニアが実際に立ち去ることは出来ない迷宮だと言っているようです。
私がキーワードと思うのは、(Bring your alibis)、(they just can’t kill the beast)、(programmed to receive)です。つまり、過去や思い出、失望や後悔などの後ろ向きな感情が心に宿って、社会や自分の属するコミュニティから一度離れた心はもう二度と戻せないという寓意だと思います。人間は記憶を頼りに、過去に縛られる動物なので、そうした負の感情を拭い去ることはできない。その負のイメージを象徴したものがホテルカリフォルニアで、誰もが客になる可能性があるということだと思います。
[Chorus: Don Henley] “Welcome to the Hotel California 「ホテルカリフォルニアへよく来たな Such a lovely place (Such a lovely place) この素敵な場所に Such a lovely face あんたのような人が来るとは They living it up at the Hotel California 誰もがホテルカリフォルニアで人生を謳歌してるんだぜ What a nice surprise (What a nice surprise) こいつは驚きだ Bring your alibis” どうしてお前はここに?」
[Verse 3: Don Henley] Mirrors on the ceiling 鏡張りの天井に The pink champagne on ice 氷で冷やされたピンクシャンパン And she said: “We are all just prisoners here Of our own device” 彼女が言った「私たちは自分の意思で捕らわれた ただの囚人」 And in the master’s chambers They gathered for the feast ご馳走にありつこうと 皆が支配人の部屋に集まり They stab it with their steely knives 鋼鉄のナイフでご馳走を突き刺すが But they just can’t kill the beast あいつらに獣を殺せはしない Last thing I remember, I was 最後に覚えてるのは Running for the door ドアへ走って逃げたこと I had to find the passage back To the place I was before 元いた場所へ戻ろうと 私は通路を探した “Relax,” said the night man 「落ち着け」と警備が言った “We are programmed to receive 「誰だって歓迎することになってる You can check out any time you like チェックアウトは好きに出来るが But you can never leave!” 決して離れられないのさ!」