
いまの娘さんは、たいそう活発でございますから、
いろいろと、あれこれと、えぇ、経験なさっておりまして、えぇ、そのォ、
モノを知らないなんてぇことはあまりありませんが、
昔の娘さんは押し並べてたいそうウブでございました。
ことにお屋敷の奥深くに住むという「お姫様」などというものは、
それこそ、下世話な話しは何も知らない。
そういうお姫様がヘンなことを耳にした、という小噺を二つほど。
毎日まいにち、お城ンなかにこもったきりじゃ身体によくない、
気分も晴れないてぇんで、野行きでございます。
お姫様、お駕籠ン乗って田舎の方へとお出かけンなりまして、
小さな湖のほとりでご休憩でございます。
すると、渡り鳥がギャァ、ギャァと鳴きながら飛び立ちました。
お姫様、それを見て
姫 爺、あれを見やれ、ガンが飛ぶぞ
爺 姫様、ガンと申すは下世話の言葉。
やんごとなきお方様は「雁(かり)」と呼ばれるがよろしかろう
姫 ...さようか...
しかられて、しょぼんとしております。
さて、爺が一服つけようてぇんで、煙草入れを取り出し、キセルに刻みを詰めまして、
スパスパッと煙草を吸います。
この灰を、コンコンッとやって落とそうとすると、
キセルのガン首が緩んでおりましたものと見えまして、ポロリと取れた。
姫 爺、あれ、カリ首 ?! が落ちた!
えぇ...まことに困ったもんでございます。
このお姫様がお駕籠に乗って道を行きます。
春も真っ盛りでぽかぽかと暖かく、お駕籠の御簾をおろしていては暑苦しいほどで、
ちょっと開けて涼をとっている、その様子を見て、
沿道で若いものが云いたいことを云っております。
甲 おぅ、見てみなよ...お姫様だよ...
ヘェッ! いい女だねぇ...
いゃぁ、うちのカカァたぁえれぇちげぇだ
乙 そりゃぁあたりめぇだ。
おめぇのカカァなんぞと一緒にすることがどだいまちげぇってぇもんだ。
拵えからしてぜんぜん違うぜ
甲 おめぇ、それはねぇだろ...とはいうもんの、
いゃぁ、やっぱ、いい女だ。
ああいうおんなといっぺんでいいから、やってみてぇもんだ
乙 へっ、なにをいってやがんでぇ。おめぇなんぞ、
そんないい女とやれるようなご面相かよ!
うちへけえってせんずりでもかきゃぁがれ!
云いたい放題ですな。
これを聞いたお姫様、せんずりをかく??
と、これがなんだか分からない。そこで奥女中のひとりに聞いてみた
姫 これ、あやめや、あやめ
女中 はい、こちらに
姫 さきほど沿道のおのこが、「せんずりをかけ」と申しておった。
あれはいかなる意味かえ?
お女中も、これには弱った。
女中 は、はい...あの...うちへ帰りまして...
あの、ゆっくりと休息することを、下世話にてそのように申します
と、その場はうまくごまかした。さて、翌朝でございます。
ご家老の三太夫さんが登城して参りまして、姫様の前にてご挨拶
三 姫様には麗しき御尊顔を拝し奉り、三太夫、恐悦至極に存じ奉ります
姫 む。そなたも、老体の身で、毎日の登城、大儀である。苦しゅうない。
次の間に下がって、せんずりをかけ
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