日本で発売された韓国サムスン電子の新型スマートフォンで「サムスン(SAMSUNG)」のロゴの文字が消えた。社名はブランド力を誇示できる刻印に等しいだけに、そのメリットを捨て、あえてサムスンの名をふせる狙いは何か。米アップルと中国新興メーカーとの狭間で熾烈なスマホ販売競争が繰り広げる中、まるで「名を捨て実をとる」ような大胆な奇策が関心を集めている。
サムスンの“アップルハンター”「S6エッジ」登場
フランス通信(AFP)や韓国メディアなどによると、サムスンのロゴをなくすのは日本市場に限っての対応だ。4月23日に日本で通信会社を通じて発売された最新型「ギャラクシー(Galaxy)S6エッジ」「S6」には社名が入っていない。スマホブランドの「Galaxy」のロゴが前面に打ち出されている。
S6は、高級感のあるデザインが人気の米アップルの「iPhone(アイフォーン)6」の対抗機種にほかならない。
本体の素材から見直して、従来のプラスチックから、強化ガラスやアルミニウムなどに変えたことで質感はぐっと高まった。S6エッジは両端を湾曲させた有機ELディスプレーを採用。画面の縁が薄く、映像が浮き出るように鮮やかに見えるのも特徴だ。
家電メーカーらしく、カメラにこだわり、高性能レンズを搭載。薄暗い室内でも鮮明に撮影でき、手ぶれを防止する機能を充実させた。
共同通信によると、東京都内で4月8日に行われた発表会では、アイフォーン6で撮った写真との仕上がりを比較して優位性をPR。日本担当の幹部は「製品展示や販売員の説明でアップルに見劣りしないよう全力を挙げる」と述べたという。
前門のアップル、後門の中国…板挟み
サムスンの足元での最大の課題は、スマホ市場での世界首位の座のアップルからの奪還にある。
長く世界シェアトップを走ったきたサムスンの変調は、昨年末から鮮明になってきた。それはさまざまなデータが示している。
2014年10~12月期にサムスンのスマホ世界販売台数(米調査会社ガートナー調査)はアップルに抜かれ2位に転落。ロイター通信によると、アップルがサムスンを抜いたのは2011年以来のことだ。
サムスンの13年の通年業績は、営業利益、売上高とも過去最高だったが、14年は9年ぶり減収、3年ぶりの減益を記録した。
4月7日に発表した15年1~3月期の連結決算(暫定値)でも、営業利益が前年同期比約31%減の約5兆9千億ウォン(約6500億円)。営業利益は前期(14年10~12月期)に比べれば、12%程度増加しているが、本格回復にはまだ遠い。
中国の北京小米科技(シャオミー)や華為技術(ファーウェイ)など新興メーカーの追い上げはきつくなるばかりで、前にはアップルが立ちふさがる。主力スマホのギャラクシーの牽引力が弱まりは、業績に直結している。
反韓感情で勢いを失う?
そんな中で、鳴り物入りで投入するスマホに自社のロゴを入れない意味は何か-。欧米や韓国メディアも関心を寄せた。
AFPは、社名のロゴを消した理由について、サムスン側は明らかにしていないと報じた一方、最大のライバル、米アップルが支配的な地位を占め、日本勢が一定の勢力を持つ市場で「苦戦してきた」と指摘し、これまでのサムスンの日本でのビジネス状況と関連付けた。
朝鮮日報(日本語電子版)も、サムスンが12年に「ギャラクシーS3」を日本で発売した際は、富士通、アップルに続く3位の14・8%のシェアを占めたが、反韓感情を背景に13年以降は勢いを失ったと分析。14年は5%台に低下していると紹介した。
ロゴは、イヤホンや変換器などの付属品からも消えた。
同紙は「異例の動き」と指摘。そのうえで、同紙は、サムスンが唯一苦戦する日本市場で、「その攻略をするため、社名を捨てたことになる」との見方を示した。
一方、4月23日付の経済金融専門紙フジサンケイビジネスアイは、サムスン電子ジャパン首脳は「ギャラクシーというブランドをもっと理解してもらうためだ」と説明したと報じた。
とはいえ、「ギャラクシー」ブランドは十分に日本市場で浸透している。わざわざ、宣伝にもなる社名を外すほどのメリットは何か。アップルファンが多く、ニッポンブランド贔屓の強い日本市場にあって、やはり、サムスンという企業イメージをできるだけ薄くする“ステルス”戦略なのか。その思惑を巡っては、さまざまな観測を呼びそうだが、確かなことは、ハイスペックな新製品を携え、日本市場の攻略に本腰を入れてきたということだ。