10億円遺産に群がった8人の面妖
突如男のもとに転がり込んだ10億円の遺産。ライオンに襲われたことで知られる落語家や「コロンボ」を自称する税理士、大物政治家の元秘書らさまざまな男たちが群がった―
突如転がり込んだ10億円もの遺産が、人生を狂わせた。和歌山県の社会福祉法人に遺産を寄付したように装い、相続税約5億円を脱税したとして、相続人や仲介役ら8人が昨年末、大阪地検特捜部に逮捕された事件。大阪の歓楽街・北新地の高級クラブで夜な夜な豪遊していた相続人のもとに、「俺が節税を助ける」とさまざまな男たちが群がった。芸能関係者、税理士、議員…。各界の人士が入り乱れた〝遺産狂騒曲〟を追った。
一晩で数百万円
「そりゃビックリしたよ。一昨日まで来ていたお客さんが、ニュースになってるんだもん」
北新地のキャバクラに勤める20代女性は屈託のない表情で、常連客だった大阪府東大阪市の不動産管理業、高木孝治被告(73)=相続税法違反などの罪で起訴=のことを語ってくれた。「たくさんシャンパンを入れてもらうつもりだったのに」と少し悔しそうだ。
高木被告が北新地に連夜繰り出すようになったのは平成25年11月以降のこと。資産家だった兄が死亡し、10億円超の遺産の相続人となってからだ。
遊び方を教えたのは、高木被告とともに逮捕され、起訴猶予処分となった男性落語家(65)だった。昭和52年のテレビ番組でライオンのいる檻の中に放り込まれ、襲われてけがをしたというエピソードが有名だ。
周囲によると、2人はもともと数十年来の友人で「互いに金のない時期を支え合う関係」だったという。落語家のプロフィルは逮捕後、所属先だった吉本興業の公式ホームページから削除された。
2人は毎晩のように、多くの知人を引き連れて高級クラブをハシゴ。同席した人は「100万円や200万円、とんでもない金額が一夜で消えていった。途中からは落語家自身が『身が持たない』と嘆くほどだった」と明かす。
税逃れの〝秘策〟
夜の社交界でにわかに有名になった高木被告に、そのころから〝海千山千〟のブローカーらも接近を始める。
彼らの一人は「高木さんは5000万円貸してほしいと頼めば7000万円貸してくれるような、本当に『いい人』だった」と語った。高木被告自身が使った飲食・遊興費のほか、億単位の金が明確な貸借契約も交わさないままに周辺に流れたとみられる。相続した現金はみるみるうちに目減りしていった。
当然問題となってくるのが、税金の支払いだ。捜査関係者によると、土地・有価証券を含めて10億円を超える巨額の相続に対し、正規の税額は約5億3600万円。「国を喜ばすだけや」と苦虫をかみつぶしながら、納税のために土地の売却も考え出した高木被告に対し「俺が節税を助けてやる」と持ちかけたブローカーの一人が、落語家らを通じて知り合った帖佐(ちょうさ)勝也被告(37)だった。
目をつけたのは公益性の高い法人に遺産を寄付すれば、非課税になるという規定だ。10億円超の遺産のうち高木被告が2億円だけ相続し、残りを寄付したことにすれば、国に納める税金は4600万円で済む計算だった。
もちろん寄付した遺産は高木被告の手を離れることになるが、起訴された被告の一人は逮捕前の取材に対し「寄付先の法人理事に就任させて給料を渡したり、事業収益の一部を流す形で高木さんに還元する計画だった」と明かしていた。
2人の「バッジ」
この計画に携わったグループの中には、いわゆる「士業(サムライ業)」のバッジを持つ人物もいた。
「いつも漂う辣腕刑事のムード。そう、税理士会のコロンボと人は呼ぶ」
事務所のHPに、こんな自己紹介文を載せていたのが、税理士の岩上順被告(63)だ。帖佐被告から相談を受けており、特捜部は脱税の指南役だったとみている。
もう一人のバッジ保有者は現職の和歌山県議、花田健吉被告(57)。グループの依頼を受けて遺産の寄付先となる同県内の社会福祉法人を探し、その後自ら法人理事にも就任した。
「私が政治を志したのは31年前、当時、新進気鋭の青年政治家だった二階俊博代議士との出会いでありました」
逮捕前の昨年9月の県議会の一般質問で強調したように、花田被告は自民党の二階俊博総務会長の秘書として長年活動し県議に転身した。
地元で知名度も高く、当選4期を数える花田被告を次期県会議長に推す声も大きかったという。
ある県幹部は「脱税への関与などもってのほかだが、そもそもブローカー連中と交際している時点で議員として脇が甘すぎるのでは」と憤りを隠さない。
横やり、内紛、虚実入り乱れ…
税務のプロや有力政治家も味方につけ、問題なく完了するかにみえた「節税」スキーム。しかし昨年末、話を聞きつけた会社役員が「不正寄付を告発する」と横やりを入れたことで事態は一転する。寄付先となるはずだった社会福祉法人も外部から不正の指摘を受ける事態に、寄付の受け入れを取りやめることにしたのだ。
起訴された仲介役の1人は逮捕前の取材に「(会社役員から)『不正をばらされたくなければ自分にも数千万円寄越せ』と脅迫された」と説明。会社役員は「計画に問題があるのは明らかだったので高木さんに助言しただけ。脅迫や金銭受領の事実はない」と否定した。
この会社役員を含む関係者らが一堂に会し、話し合う場も持たれた。産経新聞が入手したそのときの録音記録には、高木被告がともに歩んできたはずの親友の落語家を追及するような、生々しいやり取りも残されていた。
落語家「俺は一銭だってカネ使うてへんで」
高木被告「よっしゃ分かった。俺が告訴して、(捜査に対し)うたわんかったら(自白しなかったら)うたわんでええから」
落語家「コウちゃん(高木被告)を裏切るようなことを、俺これっぽっちも裏切るようなことないで!」
社会福祉法人への寄付計画が頓挫した後、高木被告は別のルートを通じて相続した土地を売却した。
この土地取引に絡んで、今度は別の芸能関係者の名前も浮上。この関係者は「高木さんの相談に乗っていたのは事実だが、自分は不動産会社との橋渡しをしただけ。1円ももらっていない」と強調した。
落語家だけでなく、あらゆる関係者が「自分は高木さんを助けたかっただけ」「見返りは一切受け取っていない」と口をそろえた今回の事件。ただ、特捜部の一連の捜査では帖佐被告や花田被告らが、高木被告側から数百万~数千万円の報酬を受け取っていたことも明らかになっている。
また、高木被告は土地を売却したにもかかわらず、修正申告して相続税を支払う金が手元になかったという。
巨額遺産は一体どこに消えたのか、全容はいまだ明らかになっていない。
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