「ゼロ戦製造で有名な三菱重工が手がける」。三菱航空機が開発する国産初の小型ジェット旅客機「MRJ(三菱リージョナルジェット)」の初飛行成功について、中国共産党機関紙の人民日報系の人民網(電子版)が伝えた国営新華社通信の記事の小見出しだ。日本が旅客機市場に参入することへの焦りか、「安倍晋三首相は武器輸出の原則を放棄し、日本の軍需産業の強化に乗り出した」とも書く。反日の立場で韓国メディアも中国に同調するかと思いきや、「韓国は第一歩も踏み出せずにいる」などの自虐的な論調が目立つ。
「日本など相手にしていない」
MRJは11月11日、愛知県営名古屋空港で離着陸し、初飛行に成功した。国産旅客機の初飛行は昭和37年のプロペラ旅客機「YS-11」以来、53年ぶり。初号機は平成29年4~6月にANAホールディングスに納入される予定という。さらに初飛行を成功させたことで、今後の受注拡大にも弾みがつきそうだ。
こうした日本の旅客機市場参入の動きに、中国メディアは敏感な反応を見せている。
新華社は、MRJは中国の小型ジェット旅客機ARJ21「翔鳳」と乗客定員がほぼ同じの70~90席クラスと指摘。そのうえで、「翔鳳」の初号機が中国商用飛機有限責任公司(中国商飛)から成都航空公司に間もなく納入される予定であることを強調。実際、11月29日に引き渡された。
一方で中国国有企業が開発を進めている国産中型ジェット旅客機「C919」の初号機が11月2日、上海で公開された。基本設計の座席数は158席。標準航行距離は4075キロとされている。
こちらはエアバスA320やボーイング737と競合するとしており、「日本など端(はな)から相手にしていない」と言いたげだ。
日本の技術力の高さに危機感?
それでも、激しい市場の争奪戦を前に、中国もおとなしく黙っていられないのだろう。官製の中国メディアはMRJを「中国商飛に新たなライバル登場」と持ち上げつつも、その揚げ足取りに忙しい。機体や性能などについて正攻法で取り上げるのならよいが、どうも“別次元”であげつらっているのではないかと勘ぐってしまう。
というのも、例えば新華社は第二次世界大戦中の話まで持ち出す。三菱航空機の親会社の三菱重工業を取り上げ、「三菱重工は第二次世界大戦中、零式艦上戦闘機(ゼロ戦)を製造したことで有名だ。戦後も引き続き日本の軍需産業の巨頭であり続け、自衛隊の戦闘機F-15やその他の兵器を製造している」と強調する。
さらには、「安倍晋三氏が再び首相に就任した後、日本は数十年来守り続けてきた武器輸出の原則を放棄し、日本の軍需産業の強化に乗り出した」とも書く。
中国が日本の高い技術力に危機感を抱くのは理解できる。だが、ここまで書かれてしまうと、悪意があると感じざるを得ない。
永遠に『二流国家』に甘んじるしかないのか?
一方、MRJの初飛行成功に対する韓国の受け止め方は複雑だ。
韓国の経済専門紙、韓国経済新聞(電子版)は「中国と日本がジェット旅客機市場で迅速な動きを見せる中、韓国は第一歩も踏み出せずにいる」と自虐的に指摘する。
同紙は経済紙らしく、今後の世界旅客機市場を「欧州のエアバスと米国のボーイングに二分化された市場で、中国には影響力を拡大し『3強構図』を形成するという意図がある。日本もMRJ技術のノウハウを活用し、いつかは収益性が高い中大型機市場に参入する可能性が高いと予想される」と分析する。
だが、そこに韓国の名はない。同紙によれば、韓国の旅客機開発事業は20年以上も漂流しているという。金泳三(キム・ヨンサム)政権時代の1993年に、「新経済5カ年計画」で中型航空機開発計画を含めて推進したが、共同開発国の中国が手を引いてしまい、事業が中断された。航空機製造業界の関係者からは、「スローガンではなく、航空機開発のための実質的な計画を政府が出さなければいけない」との声も聞かれる。
そんな中、朝鮮日報(電子版)は「日本のMRJ成功、韓国製造業も奮起を」と前向きな社説を掲載している。
「航空・宇宙産業は先進経済国に仲間入りするための最終関門だ。見知らぬ道で誰も技術を教えてくれないとためらっていては韓国は永遠に『二流国家』に甘んじるしかない。自動車、半導体産業で未経験の壁を突破したからこそ、韓国経済をここまでリードできたのだ」と鼓舞した。
「一流国家」を目指すのならば、謙虚さも必要だということか。(2015年11月30日掲載)
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