米西部にエクスプレスウエストが計画している高速鉄道のイメージ図(AP)。中国が世界各地で手がける高速鉄道計画は、頓挫や延期などに追い込まれるケースが相次いでいる
米西部ネバダ州ラスベガスとカリフォルニア州ロサンゼルスを結ぶ高速鉄道計画で、米企業が中国企業との合弁解消を発表した。ベネズエラなど中南米各地で中国の鉄道計画が頓挫しているが、時速240キロで走る米国初の高速鉄道を手がける夢も崩れた。中国の高速鉄道網はいまや世界最大とされる。にもかかわらず海外で続く失敗の背景に、社会主義下で染みついた“中国版ガラパゴス”体質を指摘する識者もいる。
中国側は「寝耳に水」
米企業エクスプレスウエストは6月8日、高速鉄道計画で中国国有の鉄道会社「中国鉄道総公司」を中心とする中国企業連合との合弁を解消すると発表した。合弁は昨年9月、習近平国家主席の訪米に先立って発表され、国家戦略の色彩が強いプロジェクトだった。
エクスプレスウエストは解消の理由として、中国企業側が米当局の認可を取り付けるのに手間取り、計画遂行に支障をきたすことなどを理由にあげた。エクスプレスウエストは新たな提携先を探すとしており、今秋予定だった工事開始を来年に延期する見通し。
発表は中国では9日で端午節の祝日。ロイター通信などによると、中国側幹部は交渉が行われている最中に一方的な発表を行うのは「無責任で契約違反だ」だと非難した。エクスプレスウエストの発表は寝耳に水で、中国にとっては面目を失する事態だったようだ。
相次ぐ頓挫
中国企業は2014年、トルコのアンカラ~イスタンブール間で初めて海外受注した高速鉄道を開通させた。計画や構想はその後も次々と出てくるが、実施ベースでは問題続きだ。
ベネズエラでは南米初の高速鉄道になるはずだったが、原油安による財政難などのため工事途中で頓挫。メキシコの高速鉄道は落札後にキャンセルされ、計画自体も無期限延期となった。日本に競り勝ったインドネシアでの高速鉄道建設も、書類不備などさまざまな問題が表面化している。
米国での事業はこれら負の側面を払拭し、先進国で鉄道技術をアピールできるチャンスだった。ところが発表からわずか9カ月で米国側から決別を申し渡され、むしろ事態の深刻さを見せつけることになった。
中国鉄道開発の“特殊性”
香港紙サウスチャイナ・モーニング・ポストで北京特派員などを務めたマーク・オニール氏は香港経済紙サイトのコラムで、これら失敗の背景に、国家主導で独自の進化を遂げた中国鉄道開発の特殊性を見る。
17000キロという世界最大の高速鉄道網は過去12年、市場原理とかなり違う環境下で伸長したという。
「土地買収の費用は予算の8%を占めるにすぎない。なぜなら農民は買収価格を拒めないからだ」
資本主義社会では極めてやっかいな用地取得での負担の軽さをこう指摘する。また国有銀行から無制限の低金利ローンも得られるなど、採算を度外視して国が全面的にバックアップ。世界銀行の調査では、欧州企業と比べて建設費は半分ほどで済むという。
「ゲームのルール、わかっていない」
こうした国丸抱えの体質は、厳しい経済原理にさらされる海外進出では弊害にもなる。また政治的にも、企業と国との近さは海外では逆作用に働く。オニール氏は、交通システムの戦略的な重要性から外国企業のコントロールを警戒する国が多いとし、政治色が強い中国の鉄道会社には不利になることを示唆した。
「中国の政府や企業はまだ、海外市場やゲームのルールをよくわかっていない」。同氏は自らの意見を代弁させるように、中国シンクタンク研究員のコメントをこう引用した。(6月19日掲載)
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