『ありがとう』
悟史の今後や、北条家の村八分など、本編で作者が本編内で決着を付けなかった事柄は少なくない。
『祭囃し編』で実体化した羽入の後日についても、その内の一つだ。
何せ、原作の後日談『賽殺し編』の時点で既に矛盾が発生しているのだから。
『祭』と『賽』は直接つながってないというのが公式回答だが、それを敢えてつなげるなら、一旦実体化した羽入が何らかの形で消え去ったと考えれば成立する。
その「何らかの形」を具体的にまとめ上げた力作が、この『ありがとう』である。
年を経た部活メンバーの日常と、何者か(=羽入)の日記とが繰り返された末、彼らは非情な別れを遂げる。
無理を重ねて実体化し続けるも、最終的には「最初から居なかった」事になっていく羽入の様は、ひどく切なく、そして潔い。
個人的には好みの文体で、総じて読みやすかった。
印象に残ったのが、ト書きで女性陣を独特の表現で呼ばれていた事。
「鉈姫」「ポニーテールの少女」「八重歯の少女」「黒髪の少女」、そして「有角の少女」。
固有名詞を出さないこういう表現、好物です。
それでは。また次回。