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脂肪細胞は、ただのエネルギー貯蔵庫ではない。ホルモンを放出し、脳やほかの臓器の働きぶりをコントロールしています。女性にとってとても大切な月経や妊娠機能とも深く関わる、隠れた「司令塔」なのだ。そんな脂肪細胞のマルチな働きぶりを紹介しましょう。
脂肪細胞のすごさがわかる、3つの事実!
白色脂肪細胞の本領は、単なる“貯蔵庫”を超えた働きぶりにある。さまざまなホルモンや生理活性物質を放出し、脳や性ホルモンなどの働きをコントロールしているのだ。
「代表例は、レプチンです」と東京大学先端科学技術研究センターで脂肪細胞の研究をする酒井寿郎教授は言う。レプチンは、下記に挙げたようなマルチな機能を持つホルモン。その分泌量は、細胞にたまった脂肪の量に応じて、増減する。
【すごい事実1】
白色脂肪細胞は“レプチン”というホルモンを出す
レプチンは、白色脂肪細胞が分泌するホルモンで、「食欲」「代謝」「性成熟」といったさまざまな機能をコントロールする重要なホルモン。
無謀なダイエットなどで体脂肪が極端に減ると、レプチンが欠乏し、無月経や不妊につながることも。
レプチンの主な働き
●食欲を抑える
レプチンは脳の食欲中枢に働き、食欲を抑える。体脂肪が増えるとレプチンが増えて食欲低下、体脂肪が減るとレプチンが減って食欲増進、といった具合にコントロールされている。
●交感神経を高める
交感神経は血圧を高め、筋肉への糖の取り込みを進める。脂肪の蓄積が増えると、レプチンが増えて交感神経を活性化。エネルギーが十分な今こそ活動!と、スイッチを入れるのだ。
●性ホルモンの分泌を活性化
レプチンは脳の視床下部に働きかけて、性機能に関わる一連のホルモン分泌を活性化させ、妊娠しやすい状態を作る。適度な脂肪は、性ホルモンが分泌するためにも必要なのだ。
例えば性ホルモンへの作用を考えてみよう。食べ物が十分あるときは、脂肪の蓄えが増える。するとレプチンの量も増え、性ホルモンが活性化されるので、体は妊娠しやすい状態になる。だが食料不足に陥ると、脂肪量が減りレプチンも減少。すると性ホルモンの働きも低下し、体は妊娠しにくい状態になる。
妊娠・出産は、野生の動物にとって大きな負担を伴う営み。だから飢餓に直面したとき、体は一種のリスク管理として、妊娠を避けようとする。逆に食料が十分なときは「今こそ産めよ増やせよ」と転じるわけだ。
現代に生きる私たちは、飢餓に直面するリスクは極めて低い。でも「極端なダイエットをすると、体はそれを飢餓と判断し、レプチンが低下します。それで無月経や不妊になることもあるのです」と酒井教授は指摘する。ここでも、本来はサバイバルのための仕組みが、ざんねんな結果をもたらしているようだ。
もうひとつの作用の「発熱」に関しても、脂肪細胞のすごい働きぶりを紹介しよう。
体が長期間、寒さにさらされると、白色脂肪細胞の中から、褐色脂肪細胞と同様の発熱作用を持つ新たな細胞が、生まれてくるのである。
【すごい事実2】寒さで新たに「ベージュ脂肪細胞」ができる
寒い環境に長くさらされていると、白色脂肪細胞の中から、褐色脂肪細胞と同様の発熱能力を持つ「ベージュ脂肪細胞」が、新たに生まれてくる。寒さに適応すべく、体の発熱能力が後天的に強まる仕組みがあるわけだ。
「ベージュ脂肪細胞」と呼ばれるこの細胞は、褐色脂肪細胞よりも長期的なスパンで働く(下図)。
【すごい事実3】
「褐色」は急な寒さに。「ベージュ」は長期間の寒さに対応
褐色脂肪細胞とベージュ脂肪細胞の違いは何か。「褐色」は生まれたときから身に備わっており、寒さを感じたときにまず働く。一方、「ベージュ」は、寒さが長期間続くと新たに生じ、寒さに強い体質へと切り替える。
いわば「褐色」が急場の寒さ対策なのに対して、「ベージュ」は、寒さに強い体質へと体を変えるのだ。
ベージュ細胞が増えた人は、脂肪がどんどん燃え、肥満やメタボになりにくいという。そのため現在、ベージュ細胞を人工的に増やすことを目指して、世界中で研究が進んでいる。そんな技術が開発されれば、脂肪細胞が抱えているざんねんな状況も、変わっていくかもしれない。
酒井寿郎
東京大学先端科学技術研究センター 代謝医学分野、東北大学大学院医学系研究科 分子代謝生理学分野 教授
1988年、東北大学医学部卒業。2009年から東京大学教授。2017年から東北大学教授を併任。遺伝子の後天的修飾「エピゲノム」が、生活習慣病や肥満の形成に深く関わっていることを突き止め、研究を進めている。