下記の記事は週間女性プライムからの借用(コピー)です。
日本の総人口は減り続けているが、65歳以上の人口は増加の一途をたどっている。2025年には国民の3割以上が65歳以上、5人に1人が75歳以上になるというデータも。どこを見てもおじいさん、おばあさん……という状況は目前。そんな中、シニアを取り巻く深刻な問題が発生している。高齢者の犯罪が増え続けているのだ。
犯罪も高年齢化
法務省が発表した「2020年版犯罪白書」によると、1年間に検挙された刑法犯は約75万件と17年連続で減少し、戦後最少を更新した。しかし、65歳以上の割合は過去最悪に! 増加傾向にあったものの、ついに4万人を突破し、全体の22%、犯罪者のおよそ5人に1人が高齢者となってしまった。しかもその7割以上が70歳以上というから驚きだ。
「高齢者の犯罪は、30年ほど前は全体の2.1%程度に過ぎませんでした。高齢者が罪を犯すというケースは極めてまれだったわけです。ところが右肩上がりに増え続け、2020年には過去最悪の22%に上っています」
65歳以上の刑法犯・検挙人員の割合は令和元年に過去最高を記録した
というのは犯罪心理学に詳しい法政大学の越智啓太先生。
「高齢者の人口増加と比例して、高齢者犯罪の割合も増加しているというのが現状です」(越智先生、以下同)
女性は万引き、男性は暴行
ではどんな犯罪が多いのだろう。
「高齢者犯罪の70%以上が罰金刑で収まるような、比較的軽微なものが多いです」
中でも特に多いのが窃盗。全年齢でみた検挙数の40.2%が高齢者だ。窃盗というのは、いわゆる万引きが当てはまり、高齢者犯罪の種類別に見ても、万引きが半数以上を占めている。
万引きというと10代の青少年が犯しやすい犯罪というイメージがあるが、実際はシニアが大多数を占める。特に女性が多く、女性万引き犯は全体の4分の3にもなる。
次いで多いのが、傷害・暴行。これはほぼ男性高齢者によるもの。
「駅で駅員を殴るとか、道でトラブルになって殴りかかるというような、いわゆるキレる老人です。計画性はなく、その場の怒りに駆られて、衝動的に暴力をふるう場合がほとんどですね」
年齢を重ね、分別があるはずの高齢者なのに、なんとも嘆かわしい話だ。さらに高齢者は、再犯率も高い傾向にある。
高齢者なので会社をクビになる心配はないし、友人や家族との関係が薄ければ、周囲の目も気にならない。またほとんどが軽犯罪なので、逮捕されても注意を受ける程度か、せいぜい罰金を科せられるくらい。
何度も罪を犯したり、超高額なものを万引きしたとしても、ほぼ執行猶予ですむ。刑務所に入ることはごくまれなのだ。
「犯罪後に生活が変わることはなく、失うものもないので反省もしない。だから再犯率も高く、常習化していく人が多いと思われます」
背後に潜む“孤独”問題
万引きをする高齢者は、やはり経済的不安をかかえている人なのだろうか。
「実は、経済的に貧しいという人はあまりいません。普通の生活を送れている人がほとんど。万引きをするのは、節約のためという人が多い」
昭和生まれの高齢者は節約志向が高く、万引きする商品も、食品や日用品が主。宝飾品やブランド品はまずないという。
「そして主たる原因として考えられるのが、“社会的孤立”です」
万引きに関する有識者研究会の報告書によれば、65歳以上の万引き犯のうち、「独居」が56.4%、「交友関係を持つ人がいない」と答えた人は46.5%を占め、日常生活の中で孤独を抱えている人が多数いることが判明した。
同報告書では、日常生活の中で孤独や不安、ストレスの増加などが引き金になって、万引きのような問題行動につながるのではないかと指摘している。
「万引きが唯一のコミュニケーション手段になっている可能性が高いですね。“見張られている”という状況は、社会とのつながりを感じられるし、つかまって店長や警察官に叱られれば、それ自体がコミュニケーションとなる。
怒られても罰にならず、むしろ楽しみや高揚感を感じている人が少なくありません」
また孤独感は「キレる老人」を生む元凶にもなっている。
「孤独で話し相手がいない状態が続くと、気持ちの切り替えがしにくくなるので、嫌なことがあると、常にそのことが頭を巡ってしまいがち。時間をかけて怒りが増幅していって、ずっとイライラしているという状態になります。
そんなときに、道で足を踏まれたりすれば、怒りが限界点に達して、殴る、暴言を吐くといった問題行動につながるのです」
「コロナ禍でステイホームしていた間は、老人犯罪も多少は減っていたでしょう。しかし、室内にこもって孤独と怒りをため込んでいたかもしれません。ステイホームもほぼ明けたいま、危ない老人が一気に街に出てくる可能性があります」
高プライド老人に要注意
孤独な老人ほど犯罪に手を染めやすいのなら、周囲の人間としては、小まめに声をかけるなどしてあげるのがよいのだろうか。
「そうとも言い切れません。おじいちゃん元気? なんて声をかけると、子ども扱いしやがって……と怒りを買うこともあります。いちばんいいのは、習い事や老人会に参加するなど、本人が自分で環境を変える努力をすることです」
カルチャーセンターや町内会の集まりなどに出かける老人の中で、罪を犯すような人はまずいないという。
しかし孤独に陥っている老人は、プライドが高い人が多く、「年下にものを習うなんて」「ジジババの集まりなんか行っていられるか」などと自分から垣根をつくってしまいがちなのだ。
昔は高齢者の知識や経験が重宝され、子どもや孫たちに頼られていた。けれども今や知りたいことはすべてインターネットで知ることができる。老人の知恵など必要とされなくなってしまったのだ。
「とはいえ、老後は20年以上もあるので、プライドを捨てて新しいことにチャレンジし、豊かな余生を送ってほしいですね。それを社会が後押しすることがシニアの犯罪抑制へとつながるのです」
82歳老人ストーカーの末路
20代の女性会社員に付きまとったとして逮捕されたのは、熊本県に住む82歳の男性。
女性が働くお店に客として訪れた際、親切にされたのがきっかけで、自宅や勤務先を訪れては交際を迫るなどの行為を頻繁に繰り返した。
警察からも警告が行われたが、ストーカー行為がなくならないため、逮捕に至った。
これは2010年の事件で、越智先生が印象に残っている高齢者犯罪のひとつ。
「高齢者のストーカーは意外と多いんです。“最後の恋”だと思っているので必死だし、ラブレターや花束を渡す、電話をかけるなどの行為なので、逮捕もされにくい。
けれども、金も時間もあるからどこまでも追いかけてくる。ストーカーとしては、高齢者はかなりタチが悪いともいえます」
教えてくれたのは●越智啓太(おち・けいた)先生●警視庁科学捜査研究所、東京家政大学心理教育学科助教授などを経て、法政大学文学部心理学科教授。犯罪捜査への心理学の応用、プロファイリングなどが専門