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最もリラックスする
お風呂の温度とは
熱いお風呂が恋しい。休みの日には温泉旅行に出かける人も多いだろう。温泉や銭湯で広いお風呂に入るとリラックスできると感じる。これは単にイメージではなく、本当にリラックスできる。
鈴鹿医療科学大学の研究で、成人男性10人に大浴槽(約1700リットル:アルカリ性単純温泉)と家庭浴槽(約300リットル:0.1%人工塩化物泉)に10分間入浴してもらい、上がってから深部体温と最高動脈血流速度の上昇を調べた(家庭浴槽では約300リットルのさら湯でも実験しているが、ここでは省く)。
その結果、大浴槽に入浴中の深部体温と最高動脈血流速度の上昇は家庭浴槽より高かった(深部体温は大浴槽で0.75℃に対して家庭浴槽は0.5℃)。
その理由は単純である。家庭浴槽は人が入ると温度が0.5~1℃下がるが、大浴槽は湯舟が大きい分だけ温度は下がらない。だから体温も上がるわけだ。
ところで、お風呂の湯は熱い方がいいのか、ぬるい方がいいのか。
銭湯について厚労省がまとめたデータによれば、一般的な東京の銭湯の湯温42~43℃は高すぎるという。38℃以上になると心拍数、心拍出量などが増加、42℃以上の高温浴は交感神経を緊張させる作用があるのだそうだ。
交感神経が緊張すると、血管を収縮させ、急に血圧を上げてしまう。つまり、熱いお風呂では体はリラックスせず、緊張してしまうのだ。血圧が20~40mmHgぐらい上がるそうなので、高血圧や動脈硬化の心配がある中高年以上は要注意である。
リラックスするには交感神経が働かず、血液循環は高くなる38~40℃付近が良いとのこと。東京都浴場組合でも38~40℃のお湯に15分程度の入浴を勧めている。
ストレスを最大に解消する入浴方法は何か。
入浴剤メーカー大手のバスクリンの研究では、そのポイントは体温にあるとのこと。
同社は男女58人を対象に40℃の湯に15分間の入浴をしてもらい、5分ごとに舌下温度を測定。また、試験前後には唾液中のストレスマーカー、αアミラーゼの活性を調べた。αアミラーゼが活性化するとストレスを感じている。ストレスがなければ、活性度が下がる。
そして、体温の変化とαアミラーゼ活性の関係を調べたところ、体温が平均1.14℃上昇した人たちだけでαアミラーゼ活性が下がった。体温上昇がそれ以下のグループでもそれ以上のグループでもストレスの改善はあまり見られず、逆に約1.6℃以上体温が上がった人たちは息苦しさを訴えた。つまりストレスが上昇したわけだ。
この結果からわかることは、一番リラックスできる入浴は、体温が約1.1℃上がるように入ればいいということだ。
バスクリンの実験では、40℃の湯温での入浴で体温が1.14℃上がるまでにかかった時間は、男性が13.60分、女性が16.41分だった。だが、性別や年齢、体形で体温上昇にかかる時間は変わるため、あくまで目安とすべきだろう。
ただのお湯より温泉の方が
体が温まり湯冷めしにくい理由
温泉が本当に体にいいのか、疑問に思ったことはないだろうか?
特に、ただのお湯(さら湯)よりも体を温めたり、湯冷めしにくいという話は本当なのか?
市立札幌大通高等学校と健康保養地医学研究所などが共同で行った実験がある。110リットルの浴槽2つにさら湯と天然温泉(ナトリウム塩化物泉)を入れ、入浴中の脳波と入浴後の皮膚温度変化を測定した。すると温泉に入ったときの脳波の方が、さら湯よりも入浴後の皮膚温度も下がり方がゆるやかだった。
ナトリウム塩化物泉は海水の成分に似て、温泉中に食塩が多く溶けている。こうした塩類は皮膚の表面のタンパク質や脂肪と結びつき、塩被膜というごく薄い膜で体の表面を覆う。要するに全身をパックしているようなものである。
そのために熱が逃げにくく、保温効果が高くなる。さらに食塩水の浸透圧効果で皮膚が刺激され、自律神経が活発に働いて血管が拡張、血流が増えて保温力が増す。
入浴剤の中にはお湯に溶かすと炭酸ガス(二酸化炭素)を発生させるものがあり、温泉にもお湯の中に二酸化炭素が溶け込んでいる炭酸泉がある。
二酸化炭素が溶けたお湯には血管を拡張させる効果がある。人間は酸素を吸って二酸化炭素を吐くが、二酸化炭素の溶け込んだお湯に入ると皮膚から二酸化炭素が吸収され、組織中の二酸化炭素濃度が上昇する。
体からすれば、急激に体内の酸素や栄養が消費され、二酸化炭素が発生したことになる。そのため、早急に二酸化炭素を排出して新たに酸素と栄養を組織に送ろうと血管が拡張して血流が増加、そのために体温が上昇するわけだ。
炭酸泉に入るとさら湯よりも短時間で血流が増えて体温が上昇する。二酸化炭素濃度が濃くなれば、それだけ血管の拡張が起きて血流が増加する。血管が広がると副交感神経が刺激されて神経はリラックスする。
炭酸が含まれたお湯ではさら湯よりも短時間で体温が上昇する 画像引用元:「人工炭酸泉の基礎と医学的効果・美容効果」(国際医療福祉大学大学院 リハビリテーション学分野 教授 前田眞治)
腰痛や関節痛などの痛みに温泉が効くのは、体温が上昇すると鈍い痛みの神経は信号が弱くなるためだ。血流が良くなると老廃物や痛みの原因物質がスムーズに取り除かれる。
また市販の入浴剤よりも温泉の方が体が温まる。これは二酸化炭素の濃度が違うためで、入浴剤の二酸化炭素濃度は100~150ppm(一般的な家庭用の浴槽の場合)になるように作られている。対して温泉の同濃度は1000ppm以上(40℃のお湯での最大濃度が1000ppmだ)であり、入浴剤では到底及ばない。
炭酸を含む温泉は、おおむねぬるめの湯である。ぬるい湯にゆっくり入浴した方が、炭酸ガスの効果を得ることができる。温泉ならいつでも炭酸ガスが溶存しているが、入浴剤は溶かして2時間以内に入浴した方が良い。
温泉には美肌の湯と呼ばれる温泉もある。入ると体がぬるぬるする。美肌の湯は泉質が弱アルカリ性であるため、皮脂や汚れを落とす作用があり、それゆえに肌がぬるぬると感じる。極端に言えば、肌の表面が溶けてぬるぬるになっているのだ。
皮膚表面の汚れやあかが溶けて美肌になるわけで、当然、長く入ればその下の皮膚まで傷んでしまう。たいていの美肌の湯には、15分以上入らないようにと注意書きがある。それは皮膚が傷むためなのだ。
眠る1~2時間前の
入浴が安眠につながる
では、お風呂はいつ入るのがいいのか?
アメリカ・テキサス大学らが快適な睡眠について5322の関連記事や論文を精査した結果、40~42.8℃のお風呂やシャワーが睡眠の質を向上させ、眠る1~2時間前の入浴によって眠るまでの時間は10分間短縮すると発表した。人は眠るときに手のひらや足から熱を放出して体温を下げ、眠りに入る。入浴は外から熱を加えることで血流の循環が活発になり、眠る前の放熱がスムーズに行われるのではないかと考えられている。
ちなみに、スキンケアは入浴後、10分以内が良い。
風呂に入ると皮脂が流されて水分が角層に吸収されるため、肌が潤ったかのように錯覚するが、実際は風呂から出て約10分後には、入る前の水分量に戻り、水分は減り続けて肌は乾燥してしまうからだ。
温泉ついでにサウナについても触れておこう。
最近はサウナ好きをサウナーと呼ぶ。サウナは入浴と同じくストレス解消効果があるが、どのくらいの時間、汗を流せば、サウナーが言う「ととのう」状態になるのだろうか?
東京工業大学、労働科学研究所などが行った研究で、被験者に入浴時間と回数を変えながら70℃のサウナに入ってもらい、入浴の前後に体重、全身反応時間や膝蓋腱反射閾値、垂直跳びにおけるジャンプ時最大出力パワーなどを測定、サウナで運動能力が上がるかどうかを調査した。
その結果、5分入浴・1分冷水浴を3回繰り返す入浴では、入浴前より運動能力のスコアが向上したという。文字通りの疲労回復が起こったわけだ。
したがって、疲労回復に最も効果的な入浴時間は、5分入浴・1分冷水浴といえる。
ただし入り慣れている人ほど入浴時間が延びる傾向があるため、そういう人たちについては、自分の慣れたスタイルでの入浴が一番スコアが上がったそうだ。
いずれにせよ、のぼせないように気をつけて、冬の入浴タイムを楽しんでいただきたい。
(サイエンスライター 川口友万)