日本で貧困・孤立問題が注目されるようになったのは1990年代に増え始めた孤立死・餓死事件からである。その後事例が増えるにつれて社会的に問題化されていき、無縁社会なる言葉も誕生していくことになる。
2010年ころ民主党政権の時代に3人の専門家がかかる状況に対処すべくセーフティネット案を提案している。以下に紹介してみたい。
1.第一の提案:湯浅誠氏(当時、反貧困ネットワーク事務局長)
パーソナルサポーター制(寄り添い型支援)案
○パーソナルサポーター制が必要になった背景
血縁・地縁・会社縁が弱くなり、孤立して無縁になってしまう社会の変化に、それらに代わる“縁”が必要とし、それを“パーソナルサポーター制”とした。
○自己責任論との関係
貧困は自己責任と言う人がいる。
日本は例えば女性子育て世帯の失業率は約1%(オーストラリアは約9%)と低い一方、貧困率は約14%(オーストラリアは約11%)と逆に高い。働けど所得が低いワーキングプア状態で、自己責任で片付けるのは偏見であり、構造的な問題が残る社会が日本である。その問題に対処する必要があると考えたい。
○パーソナルサポーター制はどんな形態が望ましいか
湯浅氏は、かかる状況下生活困窮者の抱える問題全体を構造的に把握した上で当事者のニーズに合わせた制度横断的なオーダーメイドでの支援策の調整、開拓等のコーディネイトを行うパーソナルサポーターが必要とし、サポーターは当事者の状況変化に応じて継続的に伴走型で支援を行っていく形が望まれるとした。
○民間主体から官と共同化へ
湯浅氏は2010年に菅政権の内閣参与となり、政策作りに参画している。その結果紆余曲折しつつ現在各地方自治体に“パーソナルサポートセンター”が設置されており、一応は稼働中と思われる。
○ワンストップサービスデイと年越し派遣村
そもそも湯浅氏の活動が注目されたきっかけが、2008年11月から始まった金融危機に端を発する製造業で起こった大規模な派遣契約の打ち切りによる解雇・雇止めを受けての、それに対処するための実効ある年末年始の生活や居住場所の確保を狙った運動であった。
年末年始に住む場所すら確保が困難な多くの人が発生する事態に、ボランティアの動きは活発化する背景ではあったものの、実態は民間の温もり・気合いと国や役人のお座なり感・やってる感の温度差から不充分さが残る、後日の教訓になりうる点を抱えての官民一体の支援活動であったようである。
以下この経緯について興味深い点があるので要点を列挙したい。
1) 効果的な支援策として求職支援・居住支援を含む生活福祉支援・医療支援等の支援を一か所で対応可能なワンストップサービスが望ましいと考え、その常設化・実現化を目論むも常設化は断念。ワンストップサービスデイの実施を11月30日と12月21日に行う事で実現はした。
しかし広報活動を意識的に遅らせているのでは、と思えるようなことがあったり、求職支援活動に注力しているハローワークで生活保護の相談も出来るとなったら求職意欲を失うことになり、反対するという地方自治体の首長も出たりという有様であったようだ。
2) 国と地方自治体の関係を示す好例として、その後の動きがある。ワンストップサービスを国なりに形作ろうとして厚労省は“生活福祉・就労協議会の設置について”という文書を都道府県と中核都市にだして、各都道府県にある労働局単位で“生活福祉・就労支援協議会”組織を作るよう要請した。地方自治体を枠外においての施策化で旨く機能していくか疑問であるが現在も組織は一応は残っているようである。
3) 東京都の“公設派遣村”については官が入ることで「風すさぶテントでの寒さはしのげるといったハード面は確かに良くなったが、”年越し派遣村“で感じられた助け合い・支えあいといったような”温かみ“のような、ソフト面は悪くなった」と感じている。
4) 就労するためには住所が定まっている事が条件となり、その住居に入るためには現状では生活保護を申請するやり方が唯一の方策となっている。しかし住所がないことで良い仕事に就けない人を調査してみると、かなりの人が生活保護までは必要なく住居さえ支援してくれれば後は自分でやるという。
そんな要望からセーフティネットとして住宅手当制度が出来たのは良いけれど、残念ながら要件が煩雑で審査期間も長く給付条件も厳しいという現実的には使えない状況と言う。この点は今後も注視していくべきポイントと思う。
5) 貧困支援活動と自己責任論者との確執は今後も永く続く問題点だろう。
2.第二の提案:結城康博氏(当時、淑徳大学准教授)
おせっかいの復権
この提案は後で触れるとして第三の提案を紹介する。
3.第三の提案:河合克義(明治学院大学社会学部長)
公的ヘルパー制
これは行政が主体となって、声を上げない人、助けてと言わない人にも接触していける権限を持たせた専門家によるサービスである。行政が所管することで個人情報を扱う事が出来、地域から孤立し関係を拒絶している人にアプローチできるシステムである。
この制度は提案者の河合氏が港区の政策創造研究所の所長に就任している利点を生かして特に港区で実績を上げてきている。
○“ふれあい相談員“によるアウトリーチ調査
港区では2011年度から一人暮らしの高齢者支援のため“ふれあい相談員“事業を始めていた。この制度は対象を介護保険や福祉サービスを全く利用していない一人暮らしの高齢者とし、その数は調査から3476人であった。また75歳以上の高齢者のみの世帯(1548世帯)も合わせて対象として調査した。
サービス内容は相談員が一軒一軒訪問して区の福祉サービスに繋げるなどの支援を行うものである。アポイントなしに行政側からアプローチしようとする新たな試みである。
2014年度の活動実績は次のようである。
面会できた人数は一人暮らしの世帯が3272人で訪問率は94.1%、75歳以上の高齢者のみの世帯が1509人で訪問率は97.5%といずれも高い割合で会えており、調査活動が円滑に出来ていることがわかる。
また繰り返し訪問の必要のある高齢者数が228名いる事が把握できたり、介護保険や区の高齢者サービス等に繋げる事が出来た人が1904名、家族・近隣住民・民生委員・関係機関等との相談まで行けた件数が6880件だったりと、孤立しがちな高齢者に寄り添う活動が可能な事が判明した。今回の調査活動から“高齢者買い物弱者支援事業”が政策化されたことも特筆されることであるだろう。
以上、湯浅氏のパーソナルサポーター制と河合氏の公的ヘルパー制について紹介してきたが、最後に表題に掲げた第2の結城氏の提案にも通じる“控えめにお節介を焼く老人の会”について触れたい。
実は背景は正に現在進行中のコロナワクチンの予防接種予約に関する話題です。予約通知葉書が届いたもののスマホやパソコン等のネット環境を持たないデジタルデバイトの高齢の方は、当然ながら家の固定電話を頼りに予約作業を試みることになる。が繋がらず困っているという話題が頻繁に聞こえており、例えばこんな当たりの手助けを考えた場合に表題のお節介を焼く人や組織があっても良いのではと思った事で思いついたネーミングです。
幸いと言うか同じ気持ちを持った人達が実際出てきているようで、今日のネット情報では、ある自治会はその地区のお年寄りの為に代行して予約作業をしてあげているとか、神戸市や福島市が大学生をお助け隊として募集し、その作業を手伝うという報道もあります。
こんな動きをする老人の会もあっても良いのでは、と考えたわけです。但しお節介も“過ぎたるは及ばざるがごとし”、ほどほどにで、ある程度の節度をもつことが大切との思いで“控えめに”を前に付けたわけです。特に時に外から見て問題ありげに見える場合でも、当人及び家族は問題ありません・余計なお世話です、になりかねない微妙な事柄に接することでしょうから。この点は充分に配慮をしていく必要があると考えます。
結城先生もほぼ同じ思いで“おせっかいの復権”と言ったのではと想像します。
やはり孤立して困惑している人々がいるのも事実です。自身途方に暮れるシングル子育て世帯、老齢世帯、不安定な非正規状態の世帯があるのも事実です。精神的にも追い詰められていく人々がいるのも事実です。死んでしまいたい、死んだ方が楽かな、とふと思う心の動きがある人がいるのも事実です。
いろんなヒトや組織が各々の考えで、一つ一つは小さいながらパッチワーク的にセーフティネット作りを目指して世話を焼きあう社会が今必要であり求められているのでは、と思います。官の既製服サイズの種類を増やす触媒になる事も期待できるでしょう。
基本は自助だとする国・政府の考え。一方、共助も公助も必要だと主張する民の動き。
国政府の手は温もりを感じない。やはり差し出す手は温かくあってほしいとする民の動き。
既製服サイズに拘る国・政府 対 セーフティネットもオーダーメイドだとする民の動き。
コスト対効果意識は大切だし、おんぶに抱っこの依存体質を醸成しないか、と心配する声もあります。当然の心配だが、それを承知の上で、やはりいろんな人が、組織が、勝手連的に困った人の為に動き回る事が大切であり、世の中に潤いを与える一助となると思います。
もう一つ大切な視点は、個々の活動が孤立し、ばらばらになるのでなく、互いに刺激し合えるような情報交換・情報発信の場を作ることでしょう。
資金の面では、無駄な所から必要な所へ効率的に移行したい。これは人にも言える事柄でしょう。働く場を作って提案して行くことも必要でしょう。智恵を出して資金を作って行く作業も考えてみたい所です。
「護憲+BBS」「メンバーの今日の、今週の、今月のひとこと」より
yo-chan
2010年ころ民主党政権の時代に3人の専門家がかかる状況に対処すべくセーフティネット案を提案している。以下に紹介してみたい。
1.第一の提案:湯浅誠氏(当時、反貧困ネットワーク事務局長)
パーソナルサポーター制(寄り添い型支援)案
○パーソナルサポーター制が必要になった背景
血縁・地縁・会社縁が弱くなり、孤立して無縁になってしまう社会の変化に、それらに代わる“縁”が必要とし、それを“パーソナルサポーター制”とした。
○自己責任論との関係
貧困は自己責任と言う人がいる。
日本は例えば女性子育て世帯の失業率は約1%(オーストラリアは約9%)と低い一方、貧困率は約14%(オーストラリアは約11%)と逆に高い。働けど所得が低いワーキングプア状態で、自己責任で片付けるのは偏見であり、構造的な問題が残る社会が日本である。その問題に対処する必要があると考えたい。
○パーソナルサポーター制はどんな形態が望ましいか
湯浅氏は、かかる状況下生活困窮者の抱える問題全体を構造的に把握した上で当事者のニーズに合わせた制度横断的なオーダーメイドでの支援策の調整、開拓等のコーディネイトを行うパーソナルサポーターが必要とし、サポーターは当事者の状況変化に応じて継続的に伴走型で支援を行っていく形が望まれるとした。
○民間主体から官と共同化へ
湯浅氏は2010年に菅政権の内閣参与となり、政策作りに参画している。その結果紆余曲折しつつ現在各地方自治体に“パーソナルサポートセンター”が設置されており、一応は稼働中と思われる。
○ワンストップサービスデイと年越し派遣村
そもそも湯浅氏の活動が注目されたきっかけが、2008年11月から始まった金融危機に端を発する製造業で起こった大規模な派遣契約の打ち切りによる解雇・雇止めを受けての、それに対処するための実効ある年末年始の生活や居住場所の確保を狙った運動であった。
年末年始に住む場所すら確保が困難な多くの人が発生する事態に、ボランティアの動きは活発化する背景ではあったものの、実態は民間の温もり・気合いと国や役人のお座なり感・やってる感の温度差から不充分さが残る、後日の教訓になりうる点を抱えての官民一体の支援活動であったようである。
以下この経緯について興味深い点があるので要点を列挙したい。
1) 効果的な支援策として求職支援・居住支援を含む生活福祉支援・医療支援等の支援を一か所で対応可能なワンストップサービスが望ましいと考え、その常設化・実現化を目論むも常設化は断念。ワンストップサービスデイの実施を11月30日と12月21日に行う事で実現はした。
しかし広報活動を意識的に遅らせているのでは、と思えるようなことがあったり、求職支援活動に注力しているハローワークで生活保護の相談も出来るとなったら求職意欲を失うことになり、反対するという地方自治体の首長も出たりという有様であったようだ。
2) 国と地方自治体の関係を示す好例として、その後の動きがある。ワンストップサービスを国なりに形作ろうとして厚労省は“生活福祉・就労協議会の設置について”という文書を都道府県と中核都市にだして、各都道府県にある労働局単位で“生活福祉・就労支援協議会”組織を作るよう要請した。地方自治体を枠外においての施策化で旨く機能していくか疑問であるが現在も組織は一応は残っているようである。
3) 東京都の“公設派遣村”については官が入ることで「風すさぶテントでの寒さはしのげるといったハード面は確かに良くなったが、”年越し派遣村“で感じられた助け合い・支えあいといったような”温かみ“のような、ソフト面は悪くなった」と感じている。
4) 就労するためには住所が定まっている事が条件となり、その住居に入るためには現状では生活保護を申請するやり方が唯一の方策となっている。しかし住所がないことで良い仕事に就けない人を調査してみると、かなりの人が生活保護までは必要なく住居さえ支援してくれれば後は自分でやるという。
そんな要望からセーフティネットとして住宅手当制度が出来たのは良いけれど、残念ながら要件が煩雑で審査期間も長く給付条件も厳しいという現実的には使えない状況と言う。この点は今後も注視していくべきポイントと思う。
5) 貧困支援活動と自己責任論者との確執は今後も永く続く問題点だろう。
2.第二の提案:結城康博氏(当時、淑徳大学准教授)
おせっかいの復権
この提案は後で触れるとして第三の提案を紹介する。
3.第三の提案:河合克義(明治学院大学社会学部長)
公的ヘルパー制
これは行政が主体となって、声を上げない人、助けてと言わない人にも接触していける権限を持たせた専門家によるサービスである。行政が所管することで個人情報を扱う事が出来、地域から孤立し関係を拒絶している人にアプローチできるシステムである。
この制度は提案者の河合氏が港区の政策創造研究所の所長に就任している利点を生かして特に港区で実績を上げてきている。
○“ふれあい相談員“によるアウトリーチ調査
港区では2011年度から一人暮らしの高齢者支援のため“ふれあい相談員“事業を始めていた。この制度は対象を介護保険や福祉サービスを全く利用していない一人暮らしの高齢者とし、その数は調査から3476人であった。また75歳以上の高齢者のみの世帯(1548世帯)も合わせて対象として調査した。
サービス内容は相談員が一軒一軒訪問して区の福祉サービスに繋げるなどの支援を行うものである。アポイントなしに行政側からアプローチしようとする新たな試みである。
2014年度の活動実績は次のようである。
面会できた人数は一人暮らしの世帯が3272人で訪問率は94.1%、75歳以上の高齢者のみの世帯が1509人で訪問率は97.5%といずれも高い割合で会えており、調査活動が円滑に出来ていることがわかる。
また繰り返し訪問の必要のある高齢者数が228名いる事が把握できたり、介護保険や区の高齢者サービス等に繋げる事が出来た人が1904名、家族・近隣住民・民生委員・関係機関等との相談まで行けた件数が6880件だったりと、孤立しがちな高齢者に寄り添う活動が可能な事が判明した。今回の調査活動から“高齢者買い物弱者支援事業”が政策化されたことも特筆されることであるだろう。
以上、湯浅氏のパーソナルサポーター制と河合氏の公的ヘルパー制について紹介してきたが、最後に表題に掲げた第2の結城氏の提案にも通じる“控えめにお節介を焼く老人の会”について触れたい。
実は背景は正に現在進行中のコロナワクチンの予防接種予約に関する話題です。予約通知葉書が届いたもののスマホやパソコン等のネット環境を持たないデジタルデバイトの高齢の方は、当然ながら家の固定電話を頼りに予約作業を試みることになる。が繋がらず困っているという話題が頻繁に聞こえており、例えばこんな当たりの手助けを考えた場合に表題のお節介を焼く人や組織があっても良いのではと思った事で思いついたネーミングです。
幸いと言うか同じ気持ちを持った人達が実際出てきているようで、今日のネット情報では、ある自治会はその地区のお年寄りの為に代行して予約作業をしてあげているとか、神戸市や福島市が大学生をお助け隊として募集し、その作業を手伝うという報道もあります。
こんな動きをする老人の会もあっても良いのでは、と考えたわけです。但しお節介も“過ぎたるは及ばざるがごとし”、ほどほどにで、ある程度の節度をもつことが大切との思いで“控えめに”を前に付けたわけです。特に時に外から見て問題ありげに見える場合でも、当人及び家族は問題ありません・余計なお世話です、になりかねない微妙な事柄に接することでしょうから。この点は充分に配慮をしていく必要があると考えます。
結城先生もほぼ同じ思いで“おせっかいの復権”と言ったのではと想像します。
やはり孤立して困惑している人々がいるのも事実です。自身途方に暮れるシングル子育て世帯、老齢世帯、不安定な非正規状態の世帯があるのも事実です。精神的にも追い詰められていく人々がいるのも事実です。死んでしまいたい、死んだ方が楽かな、とふと思う心の動きがある人がいるのも事実です。
いろんなヒトや組織が各々の考えで、一つ一つは小さいながらパッチワーク的にセーフティネット作りを目指して世話を焼きあう社会が今必要であり求められているのでは、と思います。官の既製服サイズの種類を増やす触媒になる事も期待できるでしょう。
基本は自助だとする国・政府の考え。一方、共助も公助も必要だと主張する民の動き。
国政府の手は温もりを感じない。やはり差し出す手は温かくあってほしいとする民の動き。
既製服サイズに拘る国・政府 対 セーフティネットもオーダーメイドだとする民の動き。
コスト対効果意識は大切だし、おんぶに抱っこの依存体質を醸成しないか、と心配する声もあります。当然の心配だが、それを承知の上で、やはりいろんな人が、組織が、勝手連的に困った人の為に動き回る事が大切であり、世の中に潤いを与える一助となると思います。
もう一つ大切な視点は、個々の活動が孤立し、ばらばらになるのでなく、互いに刺激し合えるような情報交換・情報発信の場を作ることでしょう。
資金の面では、無駄な所から必要な所へ効率的に移行したい。これは人にも言える事柄でしょう。働く場を作って提案して行くことも必要でしょう。智恵を出して資金を作って行く作業も考えてみたい所です。
「護憲+BBS」「メンバーの今日の、今週の、今月のひとこと」より
yo-chan
