スターフライヤーに初めて乗った。黒が基調のこの航空会社、なかなか振るっている。飛行機に乗ると必ずある、あの安全の説明 ---シートベルトの締め方とか、救命具の付け方とか--- あれを忍者たちが説明してくれる。かなりクールだ。いっぺんで気に入ってしまった。
さて、滑走路に入った機体はいよいよ離陸だ。私はこの瞬間が大好きだ。前世は鳥だったのかもしれない。ふっと体が宙に浮くと機体は徐々に傾き、東京湾に浮かぶ「海ほたる」を見せてくれた。今日は曇天。あいにく海は鉛色だが、波頭だけはキラキラと光っている。下層の黒雲を抜けると真っ白な雲海。上空は青空。まるでラピュタの世界だ。綿菓子でできた雲海の左手には、モクモクと盛り上がった雲の山が朝日を浴びて輝いている。きれいだ。それは巨大な樹氷のようでもあり、泡でできたスノーマンのようでもある。その手前には巨神兵が横たわっている。ウサギもいればクジラもいる。雲の世界は賑やかだ。機体を出てこの雲海の上を歩きたい衝動に駆られる。
暫くすると雲が切れ、広大な関東平野の一部が見えてきた。すごいなぁ。こんな狭い所に一千万人以上が暮らしているんだ。日々の営みがとても儚く小さなものに思えてくる。雲海のはるか向こうに山脈が頭を出している。あれは何山だろう。登山の時は一日かけて登り下りするが、飛行機だとほんの数分で通り過ぎてしまう。人の足でたどり着ける範囲が何と限られていることか。人間の小ささを実感する。でもこの飛行機を設計したのも作ったのも、そして操縦しているのもその人間だ。
少しの間ウトウトしていたら、窓の向こうに日本海が見えてきた。もうじき関門海峡だ。時速532キロは素晴らしく速い。シートベルトを締めるようにとアナウンスが聞こえてきた。さあ、もうじき着陸だ。旧友が福岡空港で待っていてくれる。黒い機体が大地に向かって急降下し始めた。小さな空の旅ももうじき終わる。