こもれび

悩み多き毎日。ストレス多き人生。でも、前向きに生きていきたい。だから、自然体で・・・

篁牛人展 at 大倉集古館

2021年12月26日 | Weblog

今、大倉集古館で篁牛人展が開催されている。「篁牛人(たかむら ぎゅうじん)」の名前は、今回TVで紹介されるまで全く知らなかった。富山出身であり、富山市篁牛人記念美術館がある地元では知られているものの、それ以外ではほとんどその名前は知られていないようだ。どこの美術団体にも属さず、特定の師もおらず、生涯孤独と酒を愛した異色の水墨画家・牛人。生誕120年記念として、大倉集古館で展覧会が開催されていると聞き、出かけてみた。

まず度肝を抜かれる。その迫力。その熱気。「渇筆」という独特の筆使いで麻紙に擦るようにして描く。作品の大きさにも圧倒される。

富山県立工芸学校を卒業後、工芸作品の図案を制作し商工省工芸展などで受賞を重ねるも、画家になる夢を捨てきれず、戦後復員してから画業に専念する。しかし、当時の画壇には認められず、苦しい放浪の旅をし、その後パトロンを得た牛人は、再度、大作に挑戦する。篁牛人記念美術館には700点ほどの作品が残されているようだ。その中から、大倉集古館で60点近くが展示されている。

テレビで紹介されたからだろうか、かなりの人で賑わっていた。これまで注目を浴びなかったのが不思議なくらい素晴らしい作品の数々。今回の出会いに感謝したい。


小松由佳 写真展 「シリア難民 母と子の肖像」

2021年12月15日 | Weblog

銀座の富士フォトギャラリーで小松由佳さんの写真展が開かれている。

彼女の本、『人間の土地へ』 を読んで、なんてすごい人だろうと思っていたところ、写真展が開かれると聞いて、早速行ってきた。ご本人は一見、とてもかわいらしい人だが、やはり、これだけの人生を送ってきただけあって、キッパリ、ハッキリしていて、強さを感じた。写真展は次々に訪れる人たちでかなり賑わっていたので、あまりゆっくりお話しする時間がなかったが、シリア人の夫を持つ小松さんしかできない仕事を、これからも続けてほしいと思った。

難民たちの明るい面と、重く暗い苦渋に満ちた毎日とが展示されていて、心を打たれた。そして私たちに何ができるのだろうと考えさせられた。受付にシリア難民の生活支援カンパの箱があったので、気持ちだけだが、千円札を入れてきた。

思っていたより長い時間写真を見ていたので、帰り道で遅いランチを食べようと、近くのカフェに入った。どうやら行列のできる食パン専門店が経営しているカフェらしく、サンドイッチの値段が高いので驚いた。途中でやめますとも言えず、そこで昼食を済ませた。もちろんとても美味しかったが、カンパの金額の倍ほどの額を支払い、なんだか複雑な気持ちになった。住んでいる世界が違うとかたずけていいものだろうか。

小松さんのプロフィールは自身のHPで次のように紹介されている。

「ドキュメンタリーフォトグラファー。1982年秋田県生まれ。山に魅せられ、2006年、世界第二の高峰K2( 8611m / パキスタン )に日本人女性として初めて登頂。植村直己冒険賞受賞。やがて風土に生きる人間の暮らしに惹かれ、草原や沙漠を旅しながらフォトグラファーを志す。2012年からシリア内戦・難民をテーマに撮影。著書に『オリーブの丘へ続くシリアの小道で~ふるさとを失った難民たちの日々~』(河出書房新社/2016)、『人間の土地へ』(集英社インターナショナル/2020年)など。
2021年5月、第8回山本美香記念国際ジャーナリスト賞受賞。」

エデュケーション--大学は私の人生を変えた  by タラ・ウェストーバー

2021年12月13日 | Weblog
衝撃である。これがノンフィクションとは信じがたい。あまりの衝撃で時々本を閉じた。読み進めるのが苦しかったからだ。この話が19世紀の出来事ならば、そんなこともあったのかと読み終えたと思う。しかし、この著者は1980年生まれで、私の長女と同い年である。

著者はタラ・ウェストーバー。彼女自身の半生を描いたノンフィクションである。国家を全く信用していない極端なキリスト教徒の父(本書の中で精神的な問題があるのではと示唆されている)のもとで、7人兄弟の末っ子としてアイダホ州に生を受ける。学校にも病院にも行かせてもらえず、出生証明書さえもない。父や兄に精神的にも肉体的にも暴力を受け、それでも家族の一員でいることに多大な努力をしながら、壮絶な子供時代を送る。壮絶すぎて時々本を閉じざるを得なかった。

そんな彼女が自分で学ぶことを始め、大学入学検定試験に合格する。そこから、父がこれまで家族に押し付けていた世界観に疑問を抱くようになる。彼女にとって初めての学校である大学の授業で「ホロコースト」とは何かと質問をするほど、育ってきた環境はあまりにも普通とはかけ離れていた。大学在学中も家族との関係に悩みながら、それでもケンブリッジ大学に留学をし、ハーバード大学で学び続ける。父親から家族を取るか学びを取るかと迫られたときに、どうしても元の異常なほどに限られた世界には戻れないと判断すると、ほとんど勘当状態になる。家族を愛しているため、そのことに発狂するほど悩むタラ。せめて母親がタラを理解してあげていたら、彼女の苦悩はもっともっと少なくて済んだはずだ。

最初はある程度の常識を持ち合わせていた母親だが、とんでもない状況下で交通事故に遭った際、病院にもいかずやり過ごさざるをえず、その後、夫の狂気に巻き込まれていく。母親ならば、もっと子供を守るべきであろう、もっと分かってあげるべきであろうと思ったが、母親は自分自身を守るだけで精いっぱいだったのかもしれない。

読み終えて、タラの父親のような人たちが今も存在していることにも驚きを覚えた。日本にいるとトランプ政権がどうしてあれほど支持されるのか不思議だが、この本を読んで、その理由が垣間見えた気もする。

読むのがつらい本だが、一度は手にする価値がある。