今、はまっているドラマがある。それは、「刑事コロンボ」と「名探偵ポワロ」。本放送の時間では見られないため録画してみているが、この二人がすこぶる対照的な人物のため、倍楽しめる。
「刑事コロンボ」は、1968年から1978年までアメリカで放送されたもので、基本設定はあるものの、多くの脚本家や監督が手掛けており、それぞれのストーリーがそれぞれの作り手の個性を反映し、バラエティー豊かな作品群になっている。毎回、視聴者は最初に完全犯罪もどき殺人を目撃し、その犯人が誰であるかは分かったうえで、ストーリーが始まる。
いつもよれよれのレインコートを着てボロボロの外車に乗り、安物の葉巻を吸いながら一見愚鈍そうな素振りで、ドラマを見ている私たちにはすでに知らされている真犯人に迫っていく。犯人は社会的に高い地位についている極めて知性が高い人物で、普通の警察の捜査であれば完全犯罪になるような事件ばかりである。そこにコロンボが登場する。いつもいつも寝不足か、あるいはお腹を空かした状態で登場することが多い。自分の流儀で現場検証を終えると、ほんの些細な、平凡な人間ならば見過ごしてしまうような小さな齟齬に疑問を持ち、熱心にそして執拗にその疑問を追及していく。そして最後には真犯人が自白せざるを得ない証拠をつかむ。コロンボの口癖は、犯人と話をした後、ドアのところで振り向きながら、「あ! あと一つ忘れてました。」と言うのと、何かというと「うちのかみさんがね・・・」と話をすることだ。
どのストーリーも基本パターンは同じなのに、毎回毎回楽しめる。時代背景は古いが、そこもまた今となっては魅力である。
一方「名探偵ポワロ」は、すべてにおいて全く逆である。まず、舞台はアメリカでなくイギリスである。原作者は言わずと知れたアガサ・クリスティ。第一次世界大戦後が舞台で、当時のイギリス社会の描写も面白い。様々な人物が登場し事件が起こる。コロンボと違い、視聴者は誰が犯人か皆目見当もつかない。いわゆる推理小説の定石を踏んでいろいろなことが起こるが、最後に、バラバラだった出来事をポワロが「灰色の脳細胞」を駆使して見事に整理し謎を解きあかす。そして、ポワロの人物像もすこぶる興味深く、彼は整理整頓を常とし、身なりには異常なほど気を使い、乱雑さは許容できない。まさにコロンボと正反対である。ポワロはベルギー人で、第一次大戦中にドイツの侵攻でイギリスに亡命することを余儀なくされた。故国ベルギーでは警察官として活躍したのち退職していた。イギリスにおいては上流階級の人々とも交流がある。
コロンボがおいしいハンバーグとすれば、ポワロは美味なフランス料理というところだろうか。一つだけ「刑事コロンボ」と「名探偵ポワロ」の共通点をあげれば、それは、どちらも声優が素晴らしいということだろう。コロンボは小池朝雄氏、ポワロは熊倉一雄氏である。
名作は時代を超えて人々を楽しませる。