「ストレスの解消には、休息の質と量の確保が大切です。勤務間インターバル制度は量の確保である一方、『つながらない権利』は質の確保と言えます」(久保智英・労働安全衛生総合研究所上席研究員)
経団連「当面の課題に関する考え方」
経団連の「当面の課題に関する考え方」(2022年5月9日)には「テレワークの活用など多様で柔軟な働き方を推進するとともに、働き手の健康確保を前提とした裁量労働制の対象拡大等、自律的・主体的な働き方に適した新しい労働時間制度の実現を目指す」と記載されている。
厚労省 これからの労働時間制度に関する検討会
政府(岸田政権)も同様の考えがあると推測しているが、参議院選挙前までは与野党が対立するよな法案などは明らかにしないようだ。しかし、経団連の方針に沿った形で、厚生労働省の裁量労働制など労働時間制度見直しに関する有識者会議(これからの労働時間制度に関する検討会)での議論は進捗している。
人事院 テレワーク等の柔軟な働き方に対応した
勤務時間制度等の在り方に関する研究会
また、厚生労働省での議論は民間企業に勤務する者を対象とした裁量労働制だが、人事院の有識者会議(テレワーク等の柔軟な働き方に対応した勤務時間制度等の在り方に関する研究会)でも国家公務員の裁量労働制(国家公務員の場合は「裁量勤務制」)拡大が国家公務員のテレワークにも最適の労働時間制度(勤務時間制度)として推奨され、議論が進捗している。
規制改革推進会議「当面の規制改革の実施事項」
なお、内閣総理大臣諮問機関・規制改革推進会議「当面の規制改革の実施事項」(2021年12月)には「厚生労働省は、働き手がそれぞれの事情に応じた多様な働き方を選択できる環境整備を促進するため、『これからの労働時間制度に関する検討会』における議論を加速し、令和4年度中に一定の結論を得る。その際、裁量労働制については、健康・福祉確保措置や労使コミュニケーションの在り方等を含めた検討を行うとともに、労働者の柔軟な働き方や健康確保の観点を含め、裁量労働制を含む労働時間制度全体が制度の趣旨に沿って労使双方にとって有益な制度となるよう十分留意して検討を進める。同検討会における結論を踏まえ、裁量労働制を含む労働時間制度の見直しに関し、必要な措置を講ずる」と記載されている。
テレワークや裁量労働制における健康確保措置
経団連の文書には「働き手の健康確保を前提とした」と書かれ、また規制改革推進会議の文書では「健康・福祉確保措置」とも記載されている。
厚労省「これからの労働時間制度に関する検討会」ではテレワークや裁量労働制において必要な健康確保措置として勤務間インターバル制度が話題とはなっているが、法令や指針に規定されるかどうかは不明。
労働者健康安全機構・労働安全衛生総合研究所・過労死等防止調査研究センター上席研究員の久保智英氏は『睡眠の質の確保が大切「つながらない権利」の議論を』と題した記事を情報労連のサイトに書いており、その記事の中で「ストレスの解消には、休息の質と量の確保が大切です。勤務間インターバル制度は量の確保である一方、『つながらない権利』は質の確保と言えます」と述べている。
また、久保氏は厚労省の第11回「これからの労働時間制度に関する検討会」での労働者の健康確保に係るヒアリングおいては、「まとめ」として次のように述べている。
今回お話ししたかった、お伝えしたかったポイントとしては4点です。オンラインとオフのメリハリが、情報通信機器の発達やリモートの普及によってますます曖昧になってきた中では、Work time controlといった、疲れたとき、休みたいときに休ませる、休めるといった裁量を与えられるような組織的・個人的な取組というのは重要だと思いますが、しかし、裁量があるからといって、今日は朝早く来て、明日は夕方ぐらいに来るといった余りにも不規則な働き方になると、逆に、睡眠の質を低下させて疲労回復を阻害するということが考えられます。
そして、「勤務間インターバル制度」や「つながらない権利」といった、新しい時代の過重労働対策をご紹介しました。これは非常に効果的なルールだとは思いますが、これまでの歴史を振り返っても、実情を踏まえないルールだけでは、恐らく風化して、絵に描いた餅になってしまうので、やはり現場の特性、組織の特徴を踏まえて、日本型の制度につくり上げていく工夫が必要だろうと思います。
そういった意味でも、自主対応型の、最後に御紹介した「疲労リスク管理システム」というのは非常に有用な考え方で、自分たちの働き方を定期的に測って、その疲労がどういうところに生じて、どういう改善をすればいいのかということを結びつける枠組みというものは、職場環境改善にとって有用だと思います。
現行ございますストレス・チェック制度も、1年に1回ストレスをチェックしているわけで、そういった制度の発展系、あるいは別の制度としてもいいのかもしれませんが、やはり労働時間の長さとともに、それに対する疲労度、ストレス度を抑えるといった何かしらの取組というのは、疲労が目に見えにくくなっている今では非常に重要なことになってくるのではないかと思います。
そして最後に、一番こちらをお伝えしたいのですが、やはりオンとオフが、メリハリが曖昧になってきている。アイフォンが2008年に発売されてから、どんどん曖昧になってきています。この流れというのはさかのぼることは決してないと思います。恐らく、将来、さらに曖昧になっていくと予見されますので、そういった意味では、疲労回復に重要なオフに、物理的に仕事から離れるだけでなくて、心理的にも疲労回復のために離れるといったような組織的な取組、個人的な対応というのが今後重要になってくるかと思います。(第11回これからの労働時間制度に関する検討会 議事録・議事概要)
第11回これからの労働時間制度に関する検討会 議事録・議事概要(厚生労働省サイト)
追記:規制改革推進会議「規制改革推進に関する答申」
内閣総理大臣諮問機関・規制改革推進会議の第13回会議が先週の金曜日(2022年5月27日)にオンライン開催されたが、議題は「規制改革推進に関する答申(案)について」。そして、規制改革推進会議開催後、「規制改革推進に関する答申」が内閣府サイトで公表された。
内閣府サイトで公表された「規制改革推進に関する答申」には「3.人への投資」「(3)柔軟な働き方の実現に向けた各種制度の活用・見直し」の中に「ア 労働時間制度(特に裁量労働制)の見直し」という項目がある。
3.人への投資
(3)柔軟な働き方の実現に向けた各種制度の活用・見直し
ア 労働時間制度(特に裁量労働制)の見直し
【a:令和4年度中に検討・結論、結論を得次第速やかに措置、b:令和4年度検討開始】
<基本的考え方>
働き方改革を推進するための関係法律の整備に関する法律(平成30年法律第71号)により、罰則付きの時間外労働の上限規制や高度プロフェッショナル制度が設けられ、働く方がその健康を確保しつつ、ワークライフバランスの実現を図り、能力を有効に発揮することができる労働環境整備が進められているところであるが、裁量労働制については、時間配分や仕事の進め方を労働者の裁量に委ね、自律的、創造的に働くことを可能とする制度であるものの、対象業務の範囲や労働者の裁量と健康を確保する方策等について課題が指摘されている。
現在、厚生労働省では裁量労働制実態調査の結果を踏まえて制度の見直しに関する検討が行われているが、その際、上記の労働環境整備の趣旨を踏まえれば、裁量労働制だけでなく、それ以外の労働時間制度も含めて、その在り方について広く検討することが求められる。
また、労働基準法(昭和22年法律第49号)では、事業場単位で労使協定等を
締結することとされ、届出等も原則「事業場単位」で行われているが、本社主導で人事制度を検討・運用する企業もある中、「本社一括届出」が可能とされている手続は就業規則や 36 協定等に限定されている。また、各種届出は電子申請が可能とされているものの利用率が低く、より企業の利便性を高める必要がある。
以上の基本的考え方に基づき、以下の措置を講ずるべきである。
<実施事項>
a 厚生労働省は、働き手がそれぞれの事情に応じた多様な働き方を選択できる環境整備を促進するため、「これからの労働時間制度に関する検討会」における議論を加速し、令和4年度中に一定の結論を得る。その際、裁量労働制については、健康・福祉確保措置や労使コミュニケーションの在り方等を含めた検討を行うとともに、労働者の柔軟な働き方や健康確保の観点を含め、裁量労働制を含む労働時間制度全体が制度の趣旨に沿って労使双方にとって有益な制度となるよう十分留意して検討を進める。同検討会における結論を踏まえ、裁量労働制を含む労働時間制度の見直しに関し、必要な措置を講ずる。
b 厚生労働省は、労働基準法(昭和 22 年法律第 49 号)上の労使協定等に関わる届出等の手続について、労使慣行の変化や社会保険手続を含めた政府全体の電子申請の状況も注視しつつ、「本社一括届出」の対象手続の拡大等、より企業の利便性を高める方策を検討し、必要な措置を講ずる。(「規制改革推進に関する答申」41頁~42頁)
規制改革推進に関する答申(全文)(PDFファイル)
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厚労省 これからの労働時間制度に関する検討会
政府(岸田政権)も同様の考えがあると推測しているが、参議院選挙前までは与野党が対立するよな法案などは明らかにしないようだ。しかし、経団連の方針に沿った形で、厚生労働省の裁量労働制など労働時間制度見直しに関する有識者会議(これからの労働時間制度に関する検討会)での議論は進捗している。
人事院 テレワーク等の柔軟な働き方に対応した
勤務時間制度等の在り方に関する研究会
また、厚生労働省での議論は民間企業に勤務する者を対象とした裁量労働制だが、人事院の有識者会議(テレワーク等の柔軟な働き方に対応した勤務時間制度等の在り方に関する研究会)でも国家公務員の裁量労働制(国家公務員の場合は「裁量勤務制」)拡大が国家公務員のテレワークにも最適の労働時間制度(勤務時間制度)として推奨され、議論が進捗している。
規制改革推進会議「当面の規制改革の実施事項」
なお、内閣総理大臣諮問機関・規制改革推進会議「当面の規制改革の実施事項」(2021年12月)には「厚生労働省は、働き手がそれぞれの事情に応じた多様な働き方を選択できる環境整備を促進するため、『これからの労働時間制度に関する検討会』における議論を加速し、令和4年度中に一定の結論を得る。その際、裁量労働制については、健康・福祉確保措置や労使コミュニケーションの在り方等を含めた検討を行うとともに、労働者の柔軟な働き方や健康確保の観点を含め、裁量労働制を含む労働時間制度全体が制度の趣旨に沿って労使双方にとって有益な制度となるよう十分留意して検討を進める。同検討会における結論を踏まえ、裁量労働制を含む労働時間制度の見直しに関し、必要な措置を講ずる」と記載されている。
テレワークや裁量労働制における健康確保措置
経団連の文書には「働き手の健康確保を前提とした」と書かれ、また規制改革推進会議の文書では「健康・福祉確保措置」とも記載されている。
厚労省「これからの労働時間制度に関する検討会」ではテレワークや裁量労働制において必要な健康確保措置として勤務間インターバル制度が話題とはなっているが、法令や指針に規定されるかどうかは不明。
労働者健康安全機構・労働安全衛生総合研究所・過労死等防止調査研究センター上席研究員の久保智英氏は『睡眠の質の確保が大切「つながらない権利」の議論を』と題した記事を情報労連のサイトに書いており、その記事の中で「ストレスの解消には、休息の質と量の確保が大切です。勤務間インターバル制度は量の確保である一方、『つながらない権利』は質の確保と言えます」と述べている。
また、久保氏は厚労省の第11回「これからの労働時間制度に関する検討会」での労働者の健康確保に係るヒアリングおいては、「まとめ」として次のように述べている。
今回お話ししたかった、お伝えしたかったポイントとしては4点です。オンラインとオフのメリハリが、情報通信機器の発達やリモートの普及によってますます曖昧になってきた中では、Work time controlといった、疲れたとき、休みたいときに休ませる、休めるといった裁量を与えられるような組織的・個人的な取組というのは重要だと思いますが、しかし、裁量があるからといって、今日は朝早く来て、明日は夕方ぐらいに来るといった余りにも不規則な働き方になると、逆に、睡眠の質を低下させて疲労回復を阻害するということが考えられます。
そして、「勤務間インターバル制度」や「つながらない権利」といった、新しい時代の過重労働対策をご紹介しました。これは非常に効果的なルールだとは思いますが、これまでの歴史を振り返っても、実情を踏まえないルールだけでは、恐らく風化して、絵に描いた餅になってしまうので、やはり現場の特性、組織の特徴を踏まえて、日本型の制度につくり上げていく工夫が必要だろうと思います。
そういった意味でも、自主対応型の、最後に御紹介した「疲労リスク管理システム」というのは非常に有用な考え方で、自分たちの働き方を定期的に測って、その疲労がどういうところに生じて、どういう改善をすればいいのかということを結びつける枠組みというものは、職場環境改善にとって有用だと思います。
現行ございますストレス・チェック制度も、1年に1回ストレスをチェックしているわけで、そういった制度の発展系、あるいは別の制度としてもいいのかもしれませんが、やはり労働時間の長さとともに、それに対する疲労度、ストレス度を抑えるといった何かしらの取組というのは、疲労が目に見えにくくなっている今では非常に重要なことになってくるのではないかと思います。
そして最後に、一番こちらをお伝えしたいのですが、やはりオンとオフが、メリハリが曖昧になってきている。アイフォンが2008年に発売されてから、どんどん曖昧になってきています。この流れというのはさかのぼることは決してないと思います。恐らく、将来、さらに曖昧になっていくと予見されますので、そういった意味では、疲労回復に重要なオフに、物理的に仕事から離れるだけでなくて、心理的にも疲労回復のために離れるといったような組織的な取組、個人的な対応というのが今後重要になってくるかと思います。(第11回これからの労働時間制度に関する検討会 議事録・議事概要)
第11回これからの労働時間制度に関する検討会 議事録・議事概要(厚生労働省サイト)
追記:規制改革推進会議「規制改革推進に関する答申」
内閣総理大臣諮問機関・規制改革推進会議の第13回会議が先週の金曜日(2022年5月27日)にオンライン開催されたが、議題は「規制改革推進に関する答申(案)について」。そして、規制改革推進会議開催後、「規制改革推進に関する答申」が内閣府サイトで公表された。
内閣府サイトで公表された「規制改革推進に関する答申」には「3.人への投資」「(3)柔軟な働き方の実現に向けた各種制度の活用・見直し」の中に「ア 労働時間制度(特に裁量労働制)の見直し」という項目がある。
3.人への投資
(3)柔軟な働き方の実現に向けた各種制度の活用・見直し
ア 労働時間制度(特に裁量労働制)の見直し
【a:令和4年度中に検討・結論、結論を得次第速やかに措置、b:令和4年度検討開始】
<基本的考え方>
働き方改革を推進するための関係法律の整備に関する法律(平成30年法律第71号)により、罰則付きの時間外労働の上限規制や高度プロフェッショナル制度が設けられ、働く方がその健康を確保しつつ、ワークライフバランスの実現を図り、能力を有効に発揮することができる労働環境整備が進められているところであるが、裁量労働制については、時間配分や仕事の進め方を労働者の裁量に委ね、自律的、創造的に働くことを可能とする制度であるものの、対象業務の範囲や労働者の裁量と健康を確保する方策等について課題が指摘されている。
現在、厚生労働省では裁量労働制実態調査の結果を踏まえて制度の見直しに関する検討が行われているが、その際、上記の労働環境整備の趣旨を踏まえれば、裁量労働制だけでなく、それ以外の労働時間制度も含めて、その在り方について広く検討することが求められる。
また、労働基準法(昭和22年法律第49号)では、事業場単位で労使協定等を
締結することとされ、届出等も原則「事業場単位」で行われているが、本社主導で人事制度を検討・運用する企業もある中、「本社一括届出」が可能とされている手続は就業規則や 36 協定等に限定されている。また、各種届出は電子申請が可能とされているものの利用率が低く、より企業の利便性を高める必要がある。
以上の基本的考え方に基づき、以下の措置を講ずるべきである。
<実施事項>
a 厚生労働省は、働き手がそれぞれの事情に応じた多様な働き方を選択できる環境整備を促進するため、「これからの労働時間制度に関する検討会」における議論を加速し、令和4年度中に一定の結論を得る。その際、裁量労働制については、健康・福祉確保措置や労使コミュニケーションの在り方等を含めた検討を行うとともに、労働者の柔軟な働き方や健康確保の観点を含め、裁量労働制を含む労働時間制度全体が制度の趣旨に沿って労使双方にとって有益な制度となるよう十分留意して検討を進める。同検討会における結論を踏まえ、裁量労働制を含む労働時間制度の見直しに関し、必要な措置を講ずる。
b 厚生労働省は、労働基準法(昭和 22 年法律第 49 号)上の労使協定等に関わる届出等の手続について、労使慣行の変化や社会保険手続を含めた政府全体の電子申請の状況も注視しつつ、「本社一括届出」の対象手続の拡大等、より企業の利便性を高める方策を検討し、必要な措置を講ずる。(「規制改革推進に関する答申」41頁~42頁)
規制改革推進に関する答申(全文)(PDFファイル)
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