ミセン ~未生~ 第5局
営業3課に オ・サンシクの怒号が飛ぶ
怒鳴られているのは インターン社員チャン・グレ
『何で資料がバラバラなんだ! 契約書!告知書!現況報告!考えて並べろ!
これじゃ引き継いだ資源課が困るんだぞ!』
息つく暇も無い程のしごきを受けながら 必死に食らいつくグレ
同じ時 繊維課のハン・ソンニュルは… 心ここにあらずの上の空だった
現場しか知らないソンニュルにとって 事務方の職場は何とも居心地が悪い
一方 鉄鋼課のチャン・ベッキは 実力発揮の機会もなく 沈黙を強いられ
資源課のアン・ヨンイに至っては 弁当の買い出しなど雑用係に明け暮れる
仕事の基本から叩き込まれ しごかれるグレの方がまだマシと言うべきか
ある朝 エレベーターを待つグレとヨンイ
そこへオ・サンシクが現れ 続いて営業1課次長ソン・ジヨンが並ぶ
2人は同期だが ジヨンは女性ながら次長に昇進している
常に早朝出勤するソン次長を この時間に見かけることは少ない
『今日はゆっくりなんだな』
『娘を保育園に送ってきたのよ いつもは夫の役目だけど』
部下からの人気も高く また尊敬されるワーキングマザーでもある
これから グレたちインターン社員の新人研修を担当することになる
3課に着くなり 決裁書類に目を通すサンシク
質問攻めに遭い 慌てて答えようとするグレだが 何とも専門用語に苦戦する
『いちいちメモに頼るから覚えきれないんだ!』
『はい』
『書類は送り先と日時で整理!』
『はい』
『資源課への書類は!』
『昨日提出を』
どんなに怒られても ダメ出しの嵐でも
メモに頼るなと言われてもメモを取り グレは 淀みなく着実に覚えていく
資源課では
チョン課長が マ部長の決裁を仰ぎ 質問に答えながら書類を差し出す
この気難しいマ部長の決裁を取り付けないことには 仕事が前に進まない
『おい!このトルクメニスタンの書類 B/Lドラフトしかない!』
『えっ?!』
『オリジナルは? 3課から届いてないのか?』
『そんなことは…』
『ふん!オ・サンシクの野郎!』
※B/L:船荷証券発行前の草稿
マ部長は 怒りの表情だが 瞳の奥には不敵な笑みが浮かんでいる
オ・サンシクを責め立てられる口実が出来たなら この上楽しいことはない
チョン課長は その場で3課に電話するしかなかった
『オ…オ課長!トルクメニスタンの資料だが オリジナル版が抜けてるぞ!』
『何だって?オリジナル?』
『ああ 謝るのか?何?新人が?』
『おい!何言ってる!』
『今後は気をつけてもらわんと!』
一方的にまくし立て電話は切れた
後がどうなろうと チョン課長はこの場を切り抜けたかったのだ
事情は把握できないが 資源課で何かが起きたのは飲み込めた
3課の罪にして事を収めようとしているのに間違いなく 到底受け入れられない
サンシクは チョン課長の携帯にかけ すぐに来い!と怒鳴りつけた
2か月前に渡したオリジナルを 受け取っていないと言い出すチョン課長
資源課課長チョン・ヒソクは もう引っ込みがつかなくなっていたのだ
『マ部長が怖くて3課に責任転嫁を? 恥を知れ!
お前も上司の端くれなら いくらマ部長相手でも言うべきことは言え!』
『よ…よくもそんなことが言えるな! 葬式沙汰を起こしたくせに!』
いくら広くて仕切られているとはいえ ワンフロアの中である
チョン課長の怒鳴り声に すべての上司たちが席を立った
『俺を殴るのか?ああ殴れよ! それでまた葬式を出せばいい!』
案の定チョン課長は殴られ グレの席まで吹っ飛び したたかに頭を打った
営業本部長キム・ブリョンが声を荒げ オ・サンシクを厳しく叱り飛ばす
どちらに非があるにしろ 禁句の話を持ち出したのはチョン課長なのだが
何も知らないグレは 2か月前 書類を用意した自分の責任だとうなだれる
しかし書類は何度も確認し 3課代理キム・ドンシクが提出したのだ
お前の責任じゃないとなだめるドンシク
詳しく事情を話して聞かせたいが 今のグレには早過ぎる
そしてまた 口にするのもためらわれる傷ましい話題なのだ
憮然として戻ったサンシクは 引き出しの中の“退職願”をじっと見つめる
過去に インターン社員のイ・ウンジという女性が自殺した
オ・サンシクは それを知った時のチェ専務の反応を 今も苦々しく思い出す
マ部長は 3課の暴力沙汰をキム部長に掛け合う
『よく確かめもせず怒鳴るから問題が大きくなる!』
『論点がズレてるぞ 確認しただけで暴力を揮ったのはオ課長だろ!』
『とにかく謝るから!』
『お前が謝ることじゃない 本人に謝らせろ イントラに謝罪文だ!』
※イントラ:イントラネット 組織内におけるプライベートネットワーク
当然オ・サンシクが応じる筈もなく
キム部長は 間に挟まれた状況にため息をつく
事は 資源課と営業3課の対立という事態になっている
かと言って アン・ヨンイとチャン・グレが解決できる問題でもない
研修室に集まると さっそくハン・ソンニュルが口火を切る
なぜか社内の情報に詳しいソンニュルが 聞いてもいないのに説明を始めるが…
ソン次長の講義が始まり 強制終了となる
研修が終わった途端 ヨンイの携帯が鳴る
ソンニュルにも上司から着信が入り 2人とも慌てて走り出した
しかし ヨンイの行き先は 職場ではなく屋上だった
資源課代理ハ・ソンジュンが 出来過ぎるヨンイの仕事にクレームをつけたのだ
自分はそれでいいかもしれないが 会議で恥をかく上司のことは考えたかと!
ただ淡々とクールに 目の前の仕事をこなすヨンイ
あまりにレベルが違い過ぎ 周囲と歩調を合わせることが出来ない
インターンの頃にもてはやされたのとは違い ヨンイは 優秀過ぎることで浮いていた
さすがに涙がこぼれそうになり トイレに駆け込むヨンイ
するとそこでは さっき講師を務めていたソン次長が 電話の相手と口論していた
会話の様子で 相手はご主人だと察しがつく
互いに忙しい夫婦が 子供の迎えのことで言い争っているようだ
これから始まる会議は ご主人の都合で延期してもらったもの
それをまた 子供を迎えに行くために延期だとは どうしても言えるわけがないと!
結論が出ないまま電話は切られ ソン次長は ヨンイの目が赤いことに気づく
事情を聞かれたからと言って 気軽に話せる内容ではない
すると ソン次長のバッグから紙切れが落ちた
今朝 保育園の先生から渡された
娘が書いた“両親の絵”には 顔が書かれていない
その不自然な絵を 苦笑しながら大切そうに仕舞うソン次長だった
グレは ソンニュルが言いかけた話が聞きたくて仕事が手につかない
とうとう我慢できず繊維課へ!
ソンニュルによれば…
オ・サンシクが代理時代に 女性の部下が亡くなった
その部下のミスは オ・サンシクにも責任があったという
結局その部下は退職し その後に亡くなったのだと…
グレには とても信じがたい噂だった
自分には厳しいが 自らも関係しているミスを 部下に押し付けるような人ではない
やり切れない話を聞いてしまったと 屋上に向かうグレ
3課では
苦労して根回しした仕事を 化学課に横取りされそうになり
ドンシクが電話で口論している
その電話を奪い取り『くれてやる!持ってけ!』と怒鳴るサンシク!
仕事上の苛立ちもあるが キム・ドンシクは別のことに苛立っていた
誰にもぶつけようのない怒りを あろうことか張本人のサンシクにぶつけ出て行く!
グレが 屋上から下を眺めていると 興奮して出て来るドンシクが見えた
それを追いかけるように オ・サンシクも出て来る
2人が上を見上げないよう願いながら 耳を澄ませて会話を聞くグレ
『何でみんなに好き勝手言わせておくんですか!』
『間違ってないだろ?』
『無理な契約を押し通したのはチェ専務でしょ!リベートだって彼女のせいにした!
ウンジさんが亡くなったのは課長のせいじゃない!』
※リベート:賄賂
『それを主張したら何かが変わるのか?』
『……』
『あの時 俺は助けなかった …逃げたんだ』
『誰だって逃げるでしょ あの状況なら! 課長じゃなくたって…』
『戻るぞ! 引継ぎの会議だ!』
ソンニュルから聞いた“噂”とは まったくニュアンスが違う
グレは 重大な秘密を盗み聞きしてしまったことに愕然とした
オ・サンシクは 戻るぞ!と言いながら 休憩室に立ち寄った
ドンシクにも知らされていない チェ専務と自分だけが知る“真実”もあったのだ
あの時… イ・ウンジの死を知った時 サンシクはチェ専務に猛抗議したが
『じゃあお前が責任を取るか?』と言われ あっけなく尻込みした自分がいた…
資源課の女性社員スジンが 突然倒れ込み気絶した
通りかかったソン次長とヨンイが 抱きかかえて医務室へ!
彼女が妊娠していると知り 途端に男性社員たちが文句を言いだす
『またかよ! 何人産む気なんだ!』
『産休が明けたばかりだろ? で? また産休?!』
『穴埋めするこっちの身にもなれよ!』
『これだから女は!』
『夫が子供がって言い訳して! 責めたら今度は泣くんだろ?!』
この男尊女卑思考が特に強い資源課で アン・ヨンイには居場所がなかった
家庭と仕事の両立が難しいことは ソン次長がいちばんよく分かっている
同期の誰より早く次長になった今もまだ この厳しい現実と闘っているのだ
『いくら拓けた世の中と言っても 職場では 働く母親は今も罪人扱い
子供だってとばっちり 余程夫の理解がないと…
ずっと働き続けたいなら 独身の方が楽よ』
引継ぎの会議は 各部署が集まって行われる
ドンシクは オ課長に出席しない方が… と促すが素直に聞く筈もない
滞りなく終わるかに見えた会議だったが マ部長がB/Lを蒸し返し静まり返る
『もらってない』『渡した』の口論にソン次長が取り成そうとするが
『女はすぐ口を挟む!』
『ならば挟まれないように場所を選ぶべきでは?』
ソン次長が標的にならないように すかさずオ課長が言い返す
こうなっては マ部長を止められる者はこの場にはいない
オ課長だけが真正面から闘い 周りは火の粉が飛ばないように押し黙る
『謝罪文はどうした?』
『謝る必要が?』
『暴力を揮ったのに? 相変わらず無責任なんだな』
『部長こそ 昨年のセクハラを根に持ってこんなことを?』
『な…何だと?!』
論点が変わり 顔色が変わるマ部長
『胸元が大きく開いた服だったから “座る度に隠すなら最初から出しておけ”と!
見たわけでも触ったわけでもないのに! これのどこがセクハラなんだよ!』
『こうも仰いましたよね “隠すほどの胸か!”と』
応戦したのはソン次長
あくまでセクハラを認めようとしないマ部長に堪えかね さっさと退席してしまう
この会議室に 女性はアン・ヨンイだけとなった
どうなんだ!と詰め寄られ 当事者がそう感じたならセクハラだと答えた
優秀とはいえ 一介の新人が部長に…
今にも殴り掛からんばかりに激怒するマ部長
この後の惨事が目に見えるようで 呼吸さえ止めていたいほどの緊張が走る
するとオ・サンシクが やってられない!という態度で退席した
マ部長も怒鳴り散らしながら退席し 新人たちと何人かの代理が残された
『マ部長はほんとにセクハラしたんですか?』
『ああ 訴えられて3か月の減俸だったかな? オ課長が証人になったんだよ
あの人もさ 部下を見捨てて昇進したかと思えば正義の味方とか 訳分かんないよな』
代理たちも退室し 片付けは新人4人の役目だ
ソンニュルが あんなに渡したと言い張るならB/Lはどこに?と蒸し返す
2か月前といえば インターンとしてベッキが資源課にいた頃だと
グレには この話題に一切関わろうとしないベッキの態度が不自然に見えた
しかしベッキは 何も知る筈がないと言うばかり
あの時… 営業3課からB/Lを持ってくるように指示されたのはベッキだった…!
不自然だと思ったのはグレだけではない
アン・ヨンイも ベッキが知らないとは思えなかった
『それを見たとして 君ならそれを言う? 告げ口した君の扱いは?!
とにかく君は首を突っ込むな! オ課長だって庇いようがない 現実と向き合え!』
その頃 オ課長の“謝罪文”がアップされ 見た者は皆 唖然としていた
代理キム・ドンシクは もう終わった…という表情でグレに読めという
〈ごめんなさいね 小っちぇえ奴!🍎〉
謝罪文をアップして問題を収束させるどころか これでは新たな問題勃発である!
謝罪(サグァ)とリンゴ(サグァ)に引っ掛け リンゴのマークまで入っている
資源課が 総出で営業3課に乗り込んで来た!
ひとり残されたアン・ヨンイは 咄嗟に書類棚の鍵を開けB/Lを探す!
怒鳴り合う声がフロア中に響いて まだ安全だと教えてくれる
チャン・ベッキが その様子をじっと見つめていた
今にも殴り合いになりそうなマ部長とオ課長
それを止めに入ろうとしてキム・ドンシクが吹っ飛んだ!
オ課長は 大げさに騒ぎ立て ドンシクに駆け寄った
病院だ検査だ何だと大騒ぎされ 資源課は退散するしかない
嵐が過ぎ去った途端 あんなに痛がっていたドンシクは通常通り業務に戻る
グレは 何が何だか分からず呆然と突っ立っていた
資源課では
アン・ヨンイが別の資料に目を通している
『コーヒーを入れろ!』と怒号が飛び 素直に給湯室へ向かった
ハ代理は チョン課長に なぜあの時入れ忘れたと言わなかったのか と詰め寄る
(マ部長の あの上機嫌な雰囲気を壊せたか?)
(だったら会議の時に言えば こんな大問題にはならなかった)
(オ課長に一泡吹かせようと躍起になってるのに あの場で何が言える?)
(…まさか シュレッダーに?!)
(あぁーーーっ!)
オ課長は 煙草を吸ってくると言い出て行った
グレも 休憩しようとするが 休憩室では代理連中が噂話をしている
あの当時 B/Lが何かも分からない新人にやられたな というのが結論のようだ
チェ専務との確執により そんな使えない新人しか来ないのだと…
グレは さすがにいたたまれなくなり 中庭のオ課長のもとへ
オ・サンシクは 持っている煙草に火もつけず考え込んでいる
『ライターを』
『ありません』
『営業なら煙草くらい吸え! 接待するのにライターは必須だ』
それはさておき グレはどうしても確認したかった
本当は自分のミスで 本当は自分を庇って渡したと言い張っているのではと…
『仕事しろ!』の一喝で追い払われてしまうグレ
3課に戻ると 今度はドンシクにB/Lのことを聞いている
それでも諦めがつかず 資源課の前をウロウロし始めた
『あいつは一体どうなってるんだ?』
『まさか…資源課でB/Lを探したりするんじゃ…』
営業1課では ソン次長が また会議の時間を3時間後に…と部下に指示している
あからさまにため息をつく部下
ソン次長はさらに深いため息を…
見かねたサンシクが 1課に足を運ぶ
サンシクの妻も 産休を繰り返して居づらくなり退職したのだ
『夫の実家に預けてくる それから会議よ』
『男共は女性の苦労を甘く見てる どんだけ苦労して次長に?』
『俺だって… 妻が辞めなきゃ俺が辞めてた』
ようやく戻ったグレに 何か分かったか?と聞くサンシク
『はい?』
『アンに聞いたんじゃないのか?』
『いいえ』
『聞けよ!』
『いいんですか?』
『ダメに決まってるだろ!』
仕事もせずに不審な行動を繰り返すグレに『仕事をやる』というサンシク
言われるままにソン次長のもとへ行くが ソン次長は絶対にダメだと断る
プライベートに部下を利用すれば問題になると言い オ課長に内線する
〈違うんだ 今のそいつは社内で何をするか分からん 使ってくれ!〉
保育園に向かうべく 外に出ようとして ヨンイに会う
迎えの時間には余裕があったので 少し話すことに
明らかにマ部長が悪いし 昔の話を持ち出すチョン課長も酷い
オ課長が怒るのだって当たり前だというヨンイ
『オ課長は怒ってるんじゃないんだ 自分を責めてるようだ』
『どうして?』
『どうにも取り戻せない過去ってあるよ 過去に仕返しされるっていうか…
取り返しがつかなくなる失敗とか 後悔があるんだ 課長は…寂しそうだ』
保育園に迎えに行くと 大勢の子供たちが走ってくる
次長の娘 ソミがどの子か分からない
迎えに来たのがママじゃなくて 寂しそうなソミ
それに どの子もみな迎えが来たソミを羨ましく見つめている
そこで延長保育が終了する18時まで 保育士に頼んで遊ぶことに!
ひとり またひとりと迎えが来て 次第に人数が減っていく
グレと遊んで楽しそうだが ソミは 帰っていく友達を羨ましそうに見つめていた
会社では
アン・ヨンイが ソン次長を手伝い会議の準備をしていた
あることをすべきかどうか… 迷っている胸中を話すヨンイ
そうすべきだと分かっていても 居心地が悪くなりそうで迷っていると
もともと資源課は エリートの集まりで男尊女卑が根強く残る部署である
それを十分に分かっているソン次長は 問題点はそこなのか?と問う
『それをしなければ居心地がよくなるの?』
『…少なくとも“これだから女は”と言われずに済みます』
『性別で決まること?』
『え?』
『良心の問題では?』
ソン次長の言葉に心を動かされ ヨンイはグレのもとへ
そしてすべてを話し 書棚の暗証番号のメモを渡す
グレは ヨンイにソミを預け 急いで会社に戻る
しかし… いくら探しても 資源課の書棚の中にB/Lのオリジナルはなかった
そこへチョン課長が戻り グレに掴みかかる!
今すぐオ課長に突き出してると喚き ポケットから携帯を!
『あのはぐれ者め!コネ入社に命じて盗みをさせたのか!』
携帯の着信音は チョン課長のすぐ後ろで鳴り響いた
ギョッとして振り返ると そこには 書類を手に持ちオ課長が立っている!
『はい “はぐれ者”ですが何か?』
『この野郎! 先輩と思って遠慮してたがもう許さん!』
チョン課長の勢いはそこまでだった
書類がB/Lだと気づき蒼褪める
『新人の前で恥をかきたくなければ屋上だ』
焦りを隠し 出所が分からなければ証明のしようがないと居直るチョン課長
いくら虚勢を張ったところで オ課長の気迫の前に押し通すことも出来ない
『二度と“あの話”は持ち出すな!』
『は… はい』
『これはお前が見つけたと報告しろ』
『そ… それは』
『それと 謝罪文も忘れるな!』
『せ…先輩』
『真面目な謝罪文だからな!』
3課に戻ると チャン・グレが放心状態で座っていた
自分がしでかしたことの結末がどうなるのか… サンシクに気づき直立不動になる
『すみません…』
『……飲みに行くぞ』
“はぐれ者”のオ・サンシクと コネ入社のチャン・グレ
2人の飲み会は 実にぎこちなく静かに続いた
酒を注がれるたびに恐縮し 注がれるままに飲み干すグレ
サンシクは グレに注ぎながら自分は手酌で黙々と飲む
『あの…課長 暗証番号は誰から?』
『誰でもいいさ』
誰もいない夜の資源課に アン・ヨンイが戻った
そこへチャン・ベッキが現れ 2人は無言で見つめ合う
過酷な仕事を終えた者たちには 誰にも帰宅後の日常がある
娘の送り迎えで夫と口論したソン・ジヨンは 疲れる暇も無く家事に取り掛かる
次長としての顔とは違い 家庭では妻であり母である
遅れて帰宅した夫は そんなジヨンの奮闘を労い 一緒にソミの絵を見る
『私の顔が無いのよ』
『俺は寝てるだけだな』
『明日のゴルフの準備しといたわ』
『なるべく早く帰るよ』
娘を巡っての口論も 一日の終わりにはこうして歩み寄る
必死に頑張り続ける日々に 出口がないとこぼすジヨン
子供が成長するまでだと慰める夫
翌朝
今日も夫に代わり ジヨンがソミを保育園へ
仕事の電話をしながら足早に立ち去ろうとするが ふと昨日の絵を思い出し立ち止まる
振り返ると ソミが 寂しそうな心細げな表情で立ち尽くしていた
いつもそんな顔をして自分を見送っていたのかと… 思わず娘を抱き締める
初めて振り向いてくれた母親に はにかみながら『いってらっしゃい』と挨拶するソミ
『行ってきます』と返し 泣きそうになるジヨン
たったこれだけの挨拶をしただけで 娘は嬉しそうな笑顔になった
(ごめんなさいソミ もう二度とあなたを後回しにはしない)
『ソミ 今度はお母さんの絵に顔を描いてくれる?』
『うんいいよ 美人に描いてあげる』
一方 オ・サンシクは 泥酔して夜中に帰宅し 朝は完全に寝坊した
妻の小言を浴びながらも 3人の息子の頭を撫で回し慌てて玄関へ!
するとなぜかドアが開かない…!
力づくでこじ開けると… ドアの前でチャン・グレが爆睡している
『こいつ… 何で?』
『この人 あなたを送って来てくれたのよ』