

ミセン~未生~ 第4局
(こんな何ひとつ売りたくない相手に… 何を売れというんだ!!!)
個人プレゼンの課題は 互いのパートナーに物を売ること
安易に買えば 相手を有利にさせ 頑なに拒めば自分の評価が下がる
買うのも断るのも 審査員を唸らせる相応の名分が必要だ
もう 殴り合っている場合ではない
ハン・ソンニュルは『お前からは絶対に買わない!』と吐き捨てた
取り残されたグレは それでも買わざるを得ない物を… と考える
なりふり構わず拒絶するだろう相手が 絶対に断れない何かを…!
その日 インターン社員たちは 退社しようとしない
会社には参考資料があるし 相手の動向も探れるからだ
チャン・グレは あらためて ハン・ソンニュルを知ろうとする
彼は 完全なる現場主義人間であり 事務方の仕事を軽視する傾向にあった
この雑然としたオフィスの中で もしかしたら現場を掌握出来るのでは?
そう考え 辺りを見回すグレの中に ひとつのヒントが…
一方 執拗にアン・ヨンイを追いかけ回し 撮影するイ・サンヒョン
ヨンイに物を売るために なぜ動画を撮る必要があるのか…
同じ時 キム・ドンシクとオ・サンシクは 居酒屋に来ていた
チェ専務の車を追いかけ 深々と頭を下げていたオ課長
最も頭を下げたくない相手に… と思うと たまらないドンシク
しかし そのおかげで懲戒委員会は消滅したのだ
ドンシクは オ課長への感謝と同時に チャン・グレの心配をする
オ・サンシクは “もう1人の部下”のため オフィスに戻る
夜のオフィスで 個人プレゼンの課題を練習するチャン・グレ
どうやら ソンニュルに ボールペンを売るつもりのようだ
契約の始まりは“起案書” それにサインをするためのボールペン
しかしどうにも しっくりこない気がして ため息をつく
見かねたサンシクは 考え込むグレに声をかけた
『“必要だから売る”だけでは 説得力に欠ける』
グレは 戻ってくれたオ課長に 思わず聞いてみたくなった
現場だけではなく このオフィスの事務作業も大切だと確認したかったのだ
現場で汗して働く者と オフィスを駆けずり回って汗する者に
何の区別もないと答えるオ・サンシク
現場だの事務方だのと 会社を隔てたことは一度もないと…!
グレは その言葉に ヒントを見出した
そしてようやく “売りたい物”を見つけ 安堵するのだった
一夜明け 母親に見送られるグレ
今日不採用になれば また無職になり バイト生活に戻ることになる
インターン社員たちは それぞれに箱を抱え会場に集まった
箱の中には パートナーに売りたい“物”が入っている
会場に入るとまもなく 役員をはじめとする“審査員”たちが入場
オ課長の横には営業1課次長ソン・ジヨン その隣にはコ課長が座っている
ソン次長は アン・ヨンイに注目した
ヨンイは採用後 営業3課に来ると信じて疑わないオ課長
チャン・グレには目もくれず ヨンイに笑顔を見せる
まったく… と呆れ顔のコ課長
チームのプレゼン時間は各10分 質疑応答は5分と定められている
ハン・ソンニュルは 落ち着きなく上着のポケットを探る
明らかに動揺しており 探し物が見つからず愕然としていた
もはやグレにも “相棒”を助けることは出来ない
チェ専務の挨拶が始まった
ここで初対面となるインターン社員たちの中には
専務と直接話す機会もなく この場限りとなる者もいるだろう
激励とも 脅しともとれる挨拶が手短に終わり 拍手が沸き起こる
ソンニュルは それどころではなかった
絶対的な自信は消え去り 額に汗を滲ませ苦悩の表情になっている
いよいよプレゼンが始まり 呼ばれた順に10分間を使い切る
お笑いの出し物のように発表したチームは チェ専務の逆鱗に触れた
開始数分で中断を言い渡され 退場を命じられたのだ
次のチームは 質疑応答まで漕ぎ着けたものの
何が悪いのかも言い渡されないまま これも退場を命じられた
この10分のプレゼンは “発表会”などではない
明日の社運を懸けてもいいほどの 商社マンとしてのプレゼンなのだ
プレゼンの途中でも 容赦なくダメ出しが行われ
説明に淀みが生じれば これも容赦なく退場となった
難しい言葉を並べ立てても その意味が伝わらなければ話にならない
発表チームが次々と退場させられ 残る者たちは蒼ざめていく
チェ専務の質疑応答は 個人の経歴にまで立ち入った
なぜ一流商社のインターンを経て我が社を受けたのか?
『自分は地方大学出身なので…』という回答に 鋭い指摘がされる
『つまり 我が社なら受かるとでも? バカにしてるのか!』
彼は 専務にまんまと乗せられ 言い訳に走り自爆してしまった
営業2課キム・ソッコのチームが発表する
ソッコは イレギュラーな事態には迅速な判断が出来ないが
事前に準備が出来るプレゼンには強いようだ
グレは 明らかに異変が起きているソンニュルを気にかける
しかしソンニュルは 大丈夫だと言うばかりで まったく取り合わない
アン・ヨンイは 不動の安定感で発表を始めた
そのプレゼン内容は もはや新人レベルではない
鋭い質問にも即座に答え このプレゼンに興味を示すチェ専務
質問の内容が ようやくイ・サンヒョンの担当部門になった
しかしサンヒョンは プレゼンの内容を把握出来ておらず
しどろもどろになって自爆! 結局はヨンイがすべて答えることに
誰もが この事態を恐れ ヨンイとは組みたくなかった
すべてがヨンイのペースで進められ 自分を売り込む隙など無いからだ
根拠の無い自信に満ち溢れたサンヒョンは ヨンイを甘く見ていたのだ
ヨンイに パートナーの話題さえ許さなかったチャン・ベッキは
一貫して基本に忠実な発表を行った
確かに分かりやすいが 基本通り過ぎて心に響かないというオ課長
しかし 役員たちの評価は 総じて好意的なものだった
同じ時
グレの母親は 息子のプレゼンを按じていた
長く対局の緊張感の中で過ごしてきた息子が まさか緊張するとは思わず
きっとうまくやってくれるだろうと 自分に言い聞かせるように…
いよいよ グレとソンニュルの番になった
資料を作ったのはグレだが 発表するのはソンニュルだ
ソンニュルは マイクを手にしたまま微動だにしない
その第一声を待ち 場内が異様な静けさに包まれる
練習など無意味だと 一蹴したソンニュルは 緊張の頂点に達し
オ課長が予測した通り 焦りと緊張から声が震えていた
必要以上にマイクを近づけることで 荒い息づかいが雑音になる
何度も同じ言葉を繰り返し しどろもどろになるソンニュル
デスクに置かれたままの ソンニュルの携帯には
心配する工場の者たちからメールが殺到していた
〈安定剤は飲んだ?〉
彼がずっと探していたのは“安定剤”だった
会場に持参するはずの 発表前に飲むはずの“安定剤”を忘れたのだ
『少し 落ち着いたらどうかね』
『あの… 安定剤を飲みたいんです』
『飲みたまえ しかし時間は与えられない
それによる時間延長は認められない 皆が納得しないだろう』
何も進まないまま 残り7分となった
発表はソンニュルの役目だが グレは黙っていられなくなった
『代わりに僕が…!』と席を立つ!
ソンニュルは 諦めたように引き下がり 席に着いた
しかし… 資料を作ったのはグレであっても
発表能力は 本来ソンニュルの方が はるかに上だった
その場凌ぎの“やる気”だけでは 乗り越えられないと痛感するグレ
グレの発表に 鋭い質問が飛ぶ
現場を知らないグレには 答えられない質問だった
インターン社員は 上司に命じられなければ現場に行くことはない
まさに現場を知らないグレの隙を突く 鋭い指摘だった
ここで発奮するソンニュル!
“現場”と言われたら黙っているわけにはいかない
ソンニュルは 何かから解き放たれたように饒舌になる
前半の停滞はあったものの 見事に発表を自分のものにしていた…!
チャン・グレは 敗北感を感じずにはいられなかった
ソンニュルを助けるつもりが 結局は無様な結果となり
逆に彼は 見事に自分を立て直し その役割を果たしたのだった
チームのプレゼンが終了したところで 休憩時間が設けられた
オ課長は チャン・グレを完全に無視し アン・ヨンイに愛想を振りまく
ソン次長は そんなオ・サンシクをたしなめた
『あなたは過去に縛られてる というか 自分で自分を縛ってるの』
この時点で チャン・グレの生き残りは絶望的だった
少なくともオ・サンシクはそう感じていた
休憩後 今度は個人プレゼンが行われた
ここからはチームでなく 個人個人がライバルだ
チームで輝けなかった者にとっても これが挽回のチャンスとなるだろう
イ・サンヒョンは アン・ヨンイに対し 彼女の1日を売るという
嫌がる彼女を追いかけ回して撮影した 彼女のプライベート動画だった
確かに役員たちは 面白がって爆笑したが 評価は分かれるところだろう
ハン・ソンニュルは 社の主力となる繊維を売るという
そして 事務方の指示ミスによる損失や問題点を記した手帳
まさに現場の声を グレに売るというのだ
グレは返答に躊躇した
安易に拒めば 職務放棄とも取られかねない
拒むにも 正統な理由が求められ 簡単に買うと答えれば負けになる
場内は静まり返った
現場と事務方の攻防は 永久に続く問題であり
誰もがぶつかる 商社マンとしての課題でもあった
インターン社員の中では 唯一現場側の人間として
ハン・ソンニュルは今 ある種の問題点を提起しているのだ
グレは 手帳だけを買うと答えた
繊維の情報は ハン・ソンニュルが十分に伝えてくれるから必要ないと
『この繊維は 僕が直に手で触って確かめて選んだものだ!』
『それで 女性のお尻を触っていたんですか?』
『お尻じゃない! 生地を触ってたんだ!』
『じゃあ… 触ったことは認めるんですね』
場内から笑いが沸き起こる
痴漢だと公表され ソンニュルは 頭に血が上り始めていた
ひとりの役員が 2人をなだめ 結論を急がせた
グレは それほどまでに生地に執着しなければならないなら
むしろソンニュルと2人で組み 生地を売ると答えた
機転の利いた答えに 役員たちは唸り ソンニュルが追い詰められる
そして今度は チャン・グレの番だ
グレは 箱の中から履き古した“室内履き”を取り出した
明らかに自分の室内履きだと気づき 戸惑うオ課長
ボロボロになった室内履きを売るなんて… と場内には不穏な空気が漂う
『この 履き古しの室内履きからも分かるように…
オフィスもまた “現場”なのだということが分かります
この室内履きはまさに 事務方の“戦闘靴”なのです
ハン君に この“戦闘靴”を売ります!』
役員たちから 小さな感嘆のため息が漏れた
逆に興奮し 声を荒げたのはハン・ソンニュルだった
『事務方が“現場”だなんて認められない!
僕は そんな“戦闘靴”なんて買いません!
現場の者たちは 事務方が書いた紙切れ1枚で 真っ先にリストラだ!』
声を荒げるソンニュルだが 役員たちは静止しない
一方で グレがどう切り返すかに 注目が集まった
『君はいつも現場の話ばかり 現場だけが重要だとでも?
ハン君の言う“現場”とは 製品が作られる場所であり
常に機械が動く場所ということでしょう
大学で機械工学を専攻し 数々の賞を手にした君にとって
その場所こそが “現場”だと感じられるのでは?』
しかし オフィスもまた“現場”なのだと 重ねて主張するグレ
常に為替レートをチェックし 記入漏れや計算ミスの無いよう何度も確認し
書類1枚のために 法律の解釈まで突き詰めたり 資料集めに奔走する
さらには 取引先との時差に合わせ 徹夜で電話に応じたりもするのだと
『君が言う“現場”の製品は そうした作業の末に作られた物だ
それが売れないのは 先読みに失敗し 企画に問題があったからです
失敗したからといって捨てるのではなく 次に生かさなければなりません
オフィスと現場は 常に連携すべきです
僕らが互いに主張する“現場”は 同じものだと信じたいのです』
すべてのプレゼンが終了し あとは結果を待つばかりとなった
チャン・グレは 発表までの毎日をバイトに明け暮れ過ごした
不採用になった時は この日々がそのまま続くだけだ
一週間が過ぎても音沙汰は無し
営業3課は 課長オ・サンシクと 代理キム・ドンシクだけだった
オ課長は きっとアン・ヨンイが来るはずだと断言し
ドンシクに 席を空け渡せと言い出し 豪快に笑う
どんなに頑張っても 2人切りでは仕事を捌き切れない
発表を待ちわびているのは 新人だけではないということだ
最後に酒でも酌み交わせばよかったと 後悔するドンシク
チャン・グレが合格するとは 思いもしない2人だった
そしてまた数日が過ぎ 各自の携帯にメールが届く
アン・ヨンイとチャン・ベッキは 淡々としてメールを読み
ハン・ソンニュルは ガッツポーズを決めながら グレを気にかけた
チャン・グレは バイト先から 母親へ 合格の報告をした
“2年契約社員”として 採用する旨のメールが届いたのだ
新入社員として初出勤の朝
グレは久々 スーツに革靴を履いた
母親は 息子のためにネクタイを新調してくれた
“僕は大人だ”と叫んでも すべきことをせねば誰も認めてくれないと
そして アイロンがかけられたハンカチを差し出し
振る舞いや行動には 人柄が滲み出るものだと諭す
それほど口うるさい母親ではないが 教えるべきことは言い
グレもまた 素直に聞き入れる息子であった
ワンインターナショナルのロビーに アン・ヨンイの姿があった
そこへ チャン・ベッキが現れ 再会を喜び合う
次に現れたのはハン・ソンニュル
合格者が3人なら 去年より多いというベッキ
しかしそこへ 遅れてチャン・グレがやって来た
他に合格者はいないと決めつけてしまった気まずさを隠し
ベッキは グレに対し『おめでとう』と声をかけた
『アンさん ごめん』
開口一番 グレは 約束通り謝罪した
プレゼンの時 グレを利用しようとして誘ったのではないこと
ヨンイの誘いを誤解していたことを “合格して謝罪する”と約束していた
人事課から迎えの社員が来て キム・ソッコは本社配属になったと話す
結局 合格者は 全部で5人だったということだ
4人は 入社のための書類手続きをし チェ専務と面談することに
チェ専務は 個人の資料を開きながら 一人一人を激励していく
短い質疑応答があり それぞれに会話の時間があった
しかし チャン・グレに対しては 『頑張って』と言うだけに…
あまりにあっけなさ過ぎて 皆の表情が曇る
グレはただ 緊張感の中で笑顔のままだった
最後に 社員証を受け取る4人
本採用の3人に対し グレの社員証だけ 色が違っていた
いずれも裏に 配属部署が記されている
ハン・ソンニュルは 希望通りの繊維課になった
チャン・ベッキは 思いがけない鉄鋼課に配属され無言になる
ベッキが熱望していた資源課には アン・ヨンイが配属された
グレだけが 社員証の裏を見つめて 安堵の表情になっていた
『お疲れ様です! 今日からこちらでお世話になります!
新人のチャン・グレです!』
あんぐりと開いた口が閉じられないキム・ドンシク
オ課長は 目を丸くしたままボールペンを放り投げた
『何だよ 何でお前が? 一体どうしてなんだあ!!!』
『チャン君 おかえり!』
途端に笑顔になり グレを迎えるキム・ドンシク
オ課長は 皆が違う部署に配属されたなら 何でお前は?と叫ぶ
『課長が希望してくれたんじゃ?』
『何で俺が? 希望するわけないだろ? 誰が希望するか!』
ドンシクとグレは 騒ぎ続けるオ課長を無視し 笑顔で作業に入る
隣りの2課も 微笑ましく騒ぎを見物していた
そこへ チェ専務が現れ フロア内が途端に静まり返る
寸前まで賑やかだった3課の前に立ち 意味深な笑みを浮かべた
そして 『オ課長の行動により課の雰囲気が良くなった』 と呟いた
オ・サンシクは視線を落とし キム・ドンシクは表情を曇らせた
その言葉の意味は 2人だけが知っている
チェ専務に頭を下げ ドンシクの懲戒を取り消させた
その行動の見返りとして グレの配属が決まったということだ
チャン・グレは ひとり屋上へ向かった
インターン社員としての第一日目 ここでドンシクに言われた言葉
「その歳になるまで何やってた? 出来ることが何ひとつない!」
やり切れない表情で オ課長が現れた
屋上から見える景色は夕暮れ色になり 2人の姿がオレンジに染まる
目の前の新人に 今 何を語るべきか…
腹をくくった表情になり オ・サンシクは ようやく口を開く
『正直 お前を望んでなかった 3課には即戦力が必要だからな』
『……承知しています』
『はあ… アン・ヨンイがよかったあ!』
何を言われてもいい グレは そのままを受け止めた
小さくうなずき 自分に言い聞かせるように 言葉を続けるサンシク
『まあとにかく! 踏ん張ることだ この際だからな!
……踏ん張った者が 結局は生き残る』
『それはどういう…』
『お前は知らないかもしれないが 囲碁用語にこんなのがある
「未生(ミセン)」 そして「完生(ワンセン)」
俺たちはな まだ“弱い石(ミセン)”なんだ』
(その言葉なら知っている) とグレは思った
オ課長の口から その言葉が出るとは…
退社の時 グレは 正門の柱をポンポンと叩く
メモに “YES”と書き 柱の隙間に埋め そびえ立つビルを見上げるのだった
ミセン~未生~ 第3局
まだ夜が明けきらない街を チャン・グレは 会社に向かって歩いていた
こんな早い時間に もう様々な人たちが活動している
自分だけが… という考えはよくないと あらためて思うグレ
ハン・ソンニュルは 既に出勤し 蔚山(ウルサン)へ戻るところだった
グレは パートナーになろうと 直球で切り出した
ソンニュルは 先を急いでいたが 屋上へ行こうと目配せする
『何で気が変わった?』
『変わったんじゃなく 返事をしそびれていたんだ』
『なぜ組もうと?』
『その経験と能力が 僕に必要だと思った』
意を得た!と思った瞬間 ハン・ソンニュルは饒舌になる
人生は選択の連続で出来ている
一つ一つの選択が繋がり 人生になっていくのだと…!
チャン・グレと ハン・ソンニュルが組んだという噂が広まり
爆弾と爆弾が組んで大爆発すると インターン社員たちは面白がった
ソンニュルは テーマも原稿も すべてをグレに一任するという
もちろん最終的には2人の合意が必要だが 何もかも自由にしていいと
チームになったというよりは グレに丸投げした形だった
ハン・ソンニュルのあだ名は“壁犬”
いつも壁からちょこんと顔を出し 女子社員をチェックしているからだという
真ん中分けの髪が襟元まで延び 両サイドはしっかりと耳にかけられている
独特なヘアスタイルで いかにも軽薄な雰囲気を漂わせる変わり者だ
すでに採用は確実という自信から 本気でプレゼンに取り組む気はない
“面倒なこと”はグレに押しつけ 蔚山(ウルサン)で伸び伸びしようと考えている
一方 アン・ヨンイは なかなかパートナーが決まらず焦り始めていた
イ・サンヒョンが もう自分と組むしかないぞ! と誘って来る
ソンニュルとはまた違った自信家で 必要以上にグレを蔑みバカにしている
超優秀なヨンイと組めるのは 自分しかいないと豪語し決めつけていた
チャン・ベッキは 決してヨンイを誘わない
困り顔のヨンイを見て ただ『頑張って』と声をかけるだけだ
プレゼンで彼女と組むことは 絶対に不利であると気づいている
その話題になっても 彼女に誘う隙を与えないよう振る舞っていた
営業3課では
チャン・グレが 今か今かと2人の出勤を待っている
さっそくパソコンを開き あれ?と驚く姿を早く見たいのだ
自分のアドレスをもらって 初めて送信したメールだった
課長オ・サンシクが 自分のことを“うちの奴”と言ってくれたこと
飲み会に誘われ 人生初の羊肉ホルモンを食したこと
営業3課の一員として 頑張っていく所存だと締めくくられている
昨夜 大酒を煽り泥酔したオ課長は ほとんどの記憶を失っていた
グレもその場にいたことや コ課長との口論さえ思い出せない
呆れるドンシクを屋上へ誘い 1冊の案件書類を見せた
ずっと保留になっていた “マイクロファイバーモップ輸出”の案件だ
チェ専務が待ったをかけた案件なのに…! とため息をつくドンシク
オ・サンシクは 課の成績を上げることに固執せず
常に難しい案件や 実入りは少ないがやり甲斐のある案件を好む
上司との確執も怖がらず…というか そもそも派閥入りを嫌う一匹狼だ
同期は すでに次長に昇格している者も多い
“万年課長”と囁かれる上司に惚れ込み 喜々として働くドンシクもまた
“万年代理”まっしぐらと 影では囁かれているのだった
オフィスに戻るなり オ課長からグレに 仕事の指示が飛ぶ!
しかし “COO”だの “MOU”だのと 専門用語に固まるグレ
サンシクは 貿易専門用語辞典を差し出す
せめて指示の内容ぐらいは聞き取れるようになれと
無視を決め込んでいたオ課長が 言葉こそ荒いが受け入れる態度を見せた
グレは 中庭で 休憩時間も惜しみ用語辞典に没頭する
そこへアン・ヨンイがやって来て プレゼンの話を切り出すが
イ・サンヒョンが割り込み ヨンイの手を掴み 連れて行こうとする
咄嗟に手を払い除けるヨンイ!
サンヒョンは 何かにつけヨンイの肩に手を置いたりする
過剰に女性扱いし エスコートでもするような振る舞いだ
コネ入社のグレも気に入らないが どこかでヨンイを軽視している
どんなに優秀か知らないが 特別扱いにも程があると…!
つまりは 自分こそが優秀で 本採用は間違いないと確信し
誰からも敬遠されているヨンイに同情し “救いの手”を差し伸べているのだ
自分が優位だと信じて疑わないサンヒョン
大学時代の先輩から資料を貰ってアレンジし それで発表は済ませようという
互いに採用は確実なのだから 何も苦労することはないという考えだ
しかしヨンイは その提案をきっぱりと断る
あまりに意固地だと吐き捨て サンヒョンは行ってしまう
行きがかり上 組むことにはなったが 先が思いやられる相手だ
そこへ ベッキが グレはなぜ“あんな奴”と組んだのか… と切り出す
忙しくて周囲の状況が分からないヨンイは 初めてグレの状況を聞く
一躍人気者のようになったのは グレを利用しようという皆の思惑があった
それをすべて断ったグレは まさに“最悪の相手”と組んだのだという
ヨンイは それで納得がいった
なぜグレが誘いを断ったのか… きっと自分も その中の1人と思われたのだ
インターン社員たちの 目まぐるしい3日間が過ぎた
チャン・グレは オ課長から渡された用語辞典を 徹底的に読み込んだ
そして 辞典に載っている専門用語だけでなく
いつの間にか 営業3課だけで使われている暗号までマスターしていた
ハン・ソンニュルに丸投げされた プレゼンの準備を進めながら
その驚異的な記憶力で 貿易用語を 完璧に近い状態で覚え切ったのだ
その優秀さの片鱗が見え始め キム・ドンシクは感嘆のため息をつき
オ課長に グレが採用されることを望むかと聞く
『あいつは落ちるべきだ』
優秀だからこそ その先に待つ結末が やるせないものになる
課長オ・サンシクは ドンシクには考えも及ばない未来を ひとり憂いていた
チャン・グレは 相次ぐソンニュルからの“却下”に戸惑う
指示はただ “もっとセクシーな内容に”などと あまりにふざけ過ぎている
(丸投げを決め込んだはずなのに なぜ“却下”なんだ)
グレの戸惑いは 次第に“辟易”へと変わっていく
職場では 次々と指示が飛び 目まぐるしくて余裕がない
プレゼンの準備は 睡眠を削ってやるしかなかった
それでも ハン・ソンニュルに送ったデータは 既読にすらならない
デスクで居眠りするグレ
オ課長は 声をかけようとするドンシクを制止し そのままにさせた
グレは 夢を見ていた
幼き日の自分が 尊敬する棋士の面々に手ほどきを受けている
また 入段出来ずに 棋院を去ろうとした少年の日 皆が引き留めてくれた
もう忘れたはずなのに なぜこんな夢を何度も見るのか…
目覚めたグレは 気分を変えようと休憩室へ行く
そこにいたアン・ヨンイもまた パートナーの勝手さに困っていた
ヨンイは もし誤解しているなら グレの誤解を解きたかった
決して 皆が考えているような気持で グレを誘ったのではないと
誤解していたことを謝ろうとするグレ
しかしヨンイは 採用された時に謝ってほしいと言う
じゃあそういうことで… と笑顔になる2人
そこへチャン・ベッキが顔を出し グレに『ここにいていいの?』と言う
課に戻ると オ課長が怒鳴り キム・ドンシクがうなだれている
隣りの課のキム・ソッコが トラブルの内容を耳打ちしてくれた
オ課長が進めようとしていた“マイクロファイバーモップ輸出”の案件で
FTA(自由貿易協定)を鑑みた ドンシクの対策にミスがあり
解決出来なければ 明日の船積みに間に合わない事態となったのだ
ドンシクを怒鳴りつけながら 決裁したのは自分だというオ課長
今は 責任を追及している場合ではない
とにかく解決しなければ 会社に莫大な損失を負わせる羽目になる
突然に 取引先が 原産地証明書をつけろと言い出してきた
今から準備するのでは 完全に間に合わない
船積みを延期し 3日で証明書を揃えれば 何とかなるかもしれないが
間に合わなければ 空輸で送ることになる
取引先との問題は解決できるが 割高のコストで損害は免れない
オ課長は キム本部長に呼ばれ叱責を受ける
解決出来たところで 船を3日も足止めするコストがかかり
もし空輸に切り替えれば 船のキャンセル料まで発生してしまう
しかし 契約破棄になるよりは… と説得するオ課長
課に戻るなり オ・サンシクは 蔚山(ウルサン)へ行くと言い出す
それを知っていたかのように 列車のチケットは予約済みだというグレ!
しかし今は その機転を褒めている余裕もない
2人は グレを置いて駅へ向かう…!
しかし結局は 足りない資料を届けるため グレも蔚山(ウルサン)へ
資料集めを手伝いながら ここにソンニュルがいるんだと思うグレ
同じ建物内にいるはずのソンニュルは 依然としてメールを既読しない
すると目の前を ハン・ソンニュルが 女子社員を追いかけ通り過ぎる
ソンニュルは いきなり女子社員の尻を触り したたかに平手打ちを食らう
『痴漢をしていて忙しかった? だからメールも読まないのか?!』
背後からの罵倒に 慌てて振り返るソンニュル
グレはようやく パートナーに 3つの資料を読ませることが出来た
原産地の資料を整理しながら オ課長は ソンニュルについて話す
インターン社員とはいえ 世渡りはなかなかの青年だ
グレが出来る奴だと思えば 遠慮なく利用し自分を目立たせる
反対に使えないと見限るなり 自分をアピールして前に出るだろうと
まるで台風のような男だが その中心部は静かだと
ソンニュルの懐に入り込めというオ課長
ソンニュルは グレを呼び 2つ目の資料が良かったと感想を言う
『じゃあ これで合意ということで!』
『え?』
『もう合意できた あとは約束通り一任してもらう!』
これ以上 ソンニュルに振り回されたくない
何もしたくないなら丸投げでも構わない
とにかくもう 関わりたくなかった
ただ…
グレは確認したかった
おそらくソンニュルは 自分より年下だろう
年齢の序列を考慮するなら それなりの礼儀は守ってもらおうと…
数日後
代理キム・ドンシクが起こした問題は解決し
出航延期のコストはかかったものの 無事船は出て行った
それと同じくして ハン・ソンニュルが現れた
ソンニュルは 互いの履歴書の写しをかざしてみせる
グレは87年 ソンニュルは86年生まれ
つまり これまでの関係は揺るがず 主導権は移動しないことに
呆然とするグレの肩をポンと叩き ソンニュルはエレベーターに消えた
一方 オ課長は キム本部長に呼ばれ
キム・ドンシクが 懲戒に値すると告げられていた
減俸か左遷か せめてそれ止まりだろうと思っていたのに
まさか懲戒委員会にかけられるとは 本部長にも予想外だった
事の発端は チェ専務が待ったをかけた案件に手を出し
挙げ句にミスをし 損害を出したことにある
2人の会話はフロア中に響き もちろんドンシクも聞いている
チェ専務の意向であろうがなかろうが もはやなす術もない
キム本部長が この事態を覆すことは不可能だった
『こうなることを予測して刃向かったんじゃないのか!
どうせなら ミスなくやるべきだっただろ!!!』
重い空気が流れる営業3課
そこへ ソンニュルからグレに呼び出しがかかる
同意を得て あとは自由にやるはずだった資料に ダメ出しが入る
まるで弁論大会のようなグレの文章に まずはクレームだ
そもそも グレとソンニュルには 発想の原点から違いがあった
たとえば ポリプロピレンという繊維がある
グレはこの繊維を 染めにくく耐久性がなく 衣類に向かないと考える
しかしソンニュルは そういったマイナス思考を無視し
この繊維の保温性や透湿性に目を向ける
この発想こそが 現場で鍛えられた“売るための発想”と言える
暑い国で売れないという考えはなく 寒い国で売ることを考えるのだ
グレは コテンパンにやられた気分になる
確かに言われるまで 負の発想しか思い浮かばなかった
屋上で落ち込んでいると オ課長の話し声が聞こえて来る
ドンシクの処分軽減を 誰かに頼み込んでいるようだ
そこへ 営業2課長コ・ドンホがやって来る
懲戒委員会を開くかどうかの 会議から戻ったようだ
グレは身を低くし なるべく会話が聞こえる位置に移動する
会議は ドンシクを擁護するような内容にはならなかったようだ
こうなったら直談判し 委員会をなくすしかないというドンホ
『どうせお前は 部下の行く末より自分のプライドが大事だろ!
まあいずれにしても お前の部下だし? 俺には関係ないがな!』
敢えてサンシクを発奮させるような言い方で 冷たく去って行くドンホ
オ課長には チェ専務に直談判出来ない 個人的感情があるようだ
代理キム・ドンシクを守るには それしか方法がないのに…
グレが課に戻ると ドンシクはいつものように働いていた
内心は動揺しているだろうが 精一杯出来ることをしようとしている
颯爽と取引先へ向かうドンシク
それを遠目に見るオ課長
課に戻ろうとすると 向こうからグレとソンニュルが現れる
いよいよ明日に迫った プレゼンの申し込みに行ったようだ
原稿の指南をきっかけに 立場は再びソンニュル主導になっている
経験の差からして 致し方ないとはいえ オ課長には情けなく見えた
課に戻り 何で言いなりなんだと問う
グレは 『プライドと意地だけでは太刀打ち出来ない』と答える
今の自分には どうしてもソンニュルの経験値が必要だと…!
『悔しいですが 今は生き延びることだけを考えます』
グレの言葉は オ・サンシクの心に響いた
今は “ドンシクを守る”ことだけを考えようと 18階役員フロアへ向かう
しかし“専務室”の秘書が 悲壮な表情のサンシクに 専務の不在を告げた
戻りのエレベーターに ハン・ソンニュルがいた
オ課長は 15階で降りるソンニュルに わざと足を引っ掛けた
派手に転びながら 扉の前に飛び出るソンニュル…!
何食わぬ顔で『大丈夫か?』と声をかけるサンシク
こんなことで グレの敵討ちでもないが
まるで子供じみた仕返しをするサンシクだった
そして課に戻り グレに声をかける
『原稿を声に出して読め 本番では緊張し声が上ずる
荒い息づかいの 鼻息の音までが マイクに拾われて雑音になる
制限時間の10分を意識しろ』
呟くようなオ課長の言葉は 確かにアドバイスだった
グレは 本番中の緊張なんて 全く考えていなかったのだ
さっそくソンニュルを呼び出し 練習しようと誘うが
ソンニュルは 部下も守れない上司のアドバイスなんて!と鼻で笑う
今度こそ頭に来たグレは 本気で殴りかかる!
もともと暴力に訴えるタイプの2人ではないが 互いに譲らない
どちらかが倒れるまでは終わらないかに見えた殴り合いは
2人に 同時に届いたメールで強制終了となった
明日行われる 個人プレゼンの課題が発表されたのだ
〈互いのパートナーに物を売る〉
グレにとっては 絶望的な課題だった
(こんな何ひとつ売りたくない相手に… 何を売れというんだ!!!)
ミセン~未生~ 第2局
真夜中のオフィス
パソコンに向かう グレの姿があった
作業の途中で却下された“自分なりの分類”を完成させ
どうしても オ課長に認めさせたかった
分かりやすい分類こそが 効率的に活用できると証明したかったのだ
明け方 サウナに行く
塩辛にまみれたまま 酷い姿で徹夜したグレ
幸いというべきか… 母親が届けてくれたスーツは台無しになったが
帰宅せずとも 着替えがあったことはありがたかった
サウナ帰りのエレベーターで アン・ヨンイと一緒になる
ヨンイは 上着のポケットに突っ込まれたネクタイに気づく
ここは服装には厳しいと言われ 自分では結べないと答えるグレ
無言でネクタイを受け取り 自分の首にかけ手早く結ぶ
エレベーターの扉が開くと同時に ネクタイを渡し足早に行ってしまう
グレは あっという間の早業に お礼を言う余裕もなかった
営業3課では
グレのパソコンの前で キム・ドンシクが唸っていた
なぜ問題点を教えてやらないのかというドンシク
いずれ辞めていく者に 何を教えろと?
オ課長の判断は そこにあった
育てたところで長居はしないだろう
ならば教えても無駄なことだと… それがすべてだった
戻ったグレに 努力の“量”は証明されたとだけ言い渡す
課長オ・サンシクは無駄だと言ったが キム・ドンシクは割り切れない
チャン・グレを呼びつけ “素晴らしい分類の問題点”を指摘した
なぜ課長のフォルダを無視したのか
この資料は 社内全体が閲覧するものだ
フォルダは会社のマニュアルであり 全員の決定事項だ
そこから逸脱すると あとで見る人が混乱するのだと
そうなのか… と思うしかなかった
グレはこれまで 自分だけの世界で闘ってきた
さまざまな課に分かれていても 仕事はすべて共同作業だというドンシク
“共同作業”という概念が グレの中にはない
常に対局の相手は存在するが 基本は自身との闘いとなる囲碁の世界
グレは 踏み込んだことのない世界の前に 立ち尽くす思いがした
その意味で言えば 課長オ・サンシクもまた然りである
営業本部長キム・ブリョンに呼び止められ 週末の予定を聞かれる
チェ専務との山登りに誘われ 週末は予定が… と答えるオ課長
徹底して派閥入りを拒む オ・サンシクの信念は揺るがない
万年課長の憂き目に遭う部下を 何とか引き上げたいブリョンだが
本人が こうまで意固地では 取り成すことも容易ではない
オフィスに戻ると 隣の課では キム・ソッコが絞られていた
営業2課課長コ・ドンホは ソッコの仕事ぶりに堪忍袋の緒が切れた
気持ちを鎮めようと 屋上へ向かうドンホを サンシクが追いかける
いくらインターンに苛立っても 3課よりはマシだというドンホ
『チャン・グレが 誰のコネか知ってるのか?』
『誰なんだ?』
『…専務だよ』
同じ時 グレは オ課長の言葉に傷ついていた
どうせいなくなる人間に 教えても仕方がないという言葉が…
インターン社員の間では“プレゼン”の話題で持ち切りだった
互いにパートナーを決め 組になってプレゼンをする
その後で 個人のプレゼンもされるが 誰と組むかは重要だった
プレゼンの評価により 正社員として採用か不採用か
あるいは どの課に配属されるかが決定される
休憩室のシュレッダーを使っているグレに チャン・ベッキが声をかける
相変わらず グレをからかうサンヒョンたちを一瞥し
ああはなりたくないと呟くベッキ
いくらチャン・グレの経歴を蔑んだところで
採用されなければ 結局は同じことだと…
グレはベッキを追いかけ ああならないためには何をすべきかと問う
『さっきのは冗談だよ 真剣に考えないで
別に採用されなくたって ここだけが会社じゃない
まずは… プレゼンのパートナーを捜すことだ』
『……また“共同作業”…か』
『え?』
グレはうんざりしていた
仕事=共同作業という構図に どうしても溶け込めない自分がいる
課長オ・サンシクは グレを無視し続けた
営業2課長コ・ドンホの言葉が引っかかる
チャン・グレが 専務のコネだとすれば なぜここに配属されたのか…
配属に思惑はなさそうだと言っていたが…
グレの能力を見ても “監視役”が務まるはずがないと
「意図があったとしても ただの嫌がらせだろう
人手不足の3課にあんな人材を…
紹介を頼まれて 何も考えずに配属したんだ」
無断でグレに仕事を教えるドンシクを叱り ここは研修所じゃないと怒鳴る
戸惑って固まるグレに 昼食にしろというドンシク
社食が煩わしく 最近は 屋上でパンをかじるグレ
それにしても オ課長の態度は目に余る
仕事は共同作業だと言ったくせに なぜここまで無視するのか…!
『共同作業じゃないんですか!!!』
空に向かって叫んだはずが… 中庭の連絡通路を行くオ課長が振り向く
キム・ドンシクも一緒に 屋上を見上げている
咄嗟にうずくまり隠れるグレ!
一方 チャン・ベッキは アン・ヨンイにパートナーの話題を振る
ヨンイは ベッキにパートナーを頼みたかったが 話を逸らすベッキ
3課に顔を出したヨンイが まだ決まらないと聞き
勇気を振り絞り 僕と… と切り出すグレ!
思いがけない誘いを まさかと思い聞き流すヨンイ
じっと見つめるだけで 返事を聞く前に心が折れてしまう
ずっと渡せなかったヘアゴムを 今度こそ渡せただけだった
そんなグレの周囲が 変化し始める
あんなに敬遠していた同期たちが 何かにつけて気にかけてくれる
好意的に話しかけ お菓子の差し入れがデスクに積み上がっていく…
何かが変だ… 何なんだ?
グレは 突如として人気者のような扱いをされ戸惑う
(それにしても 誰も誘ってこない…)
アン・ヨンイは パートナーは誰でもいいと思っていたが
誰も 一緒にやろうとは言ってこなかった
そこへ イ・サンヒョンが来て 組もうと言う
自信たっぷりのサンヒョンは 待っても誰も誘ってこないと言い放つ
『なぜ?』
『デキ過ぎの君と組もうなんて 誰も考えないよ
結局は 君の引き立て役になるだけだろ だから 俺とやろうぜ!』
(…そういうこと?)
そこでヨンイは さっきのグレの言葉を思い返す
グレを呼び出し 今度はヨンイの方から組まないかと切り出した
浮かれるグレに釘を刺したのは 代理キム・ドンシク
なぜ今 人気者のようになっているのか… 現実を突き付けた
つまりはグレが“便利な存在”だからだと はっきり言ってのけた
『パートナーが揃って合格することがベストだ
でも それが無理なら…“爆弾”と組めばいい』
『“爆弾”…ですか?』
『落ちるにしても “爆弾”と組んだからだと言い訳が出来る
受かるにしても チャン君は引き立て役になるし 都合がいいってこと
とにかく 近づいてくる奴はそういう考えだと思え』
一瞬でも… 状況が好転したと思った自分が恥ずかしい
“仲間”として 受け入れられたわけではなかった
こんなにも多くの人間が働く中で グレは孤独を噛みしめる
誰の笑顔も 誰の言葉も嘘っぱちだった
言い知れない“疎外感”に 押し潰されそうになる
たまらなくなり 持ち場を離れる
その変化を 課長オ・サンシクが見つめていた
“仕事は共同作業”だと言っていたのに…
ひとり放置され 何も教えられず…!
グレは 思いのすべてをぶつける
頑張る機会が欲しいと訴える…!
オ課長の答えは明快だった
この会社を受けるため みんな必死に闘ってきた
そこへ 何の資格も能力もない者が コネ入社で入って来る
それが“現実”だと…
『俺は“現実”なんかに流されたくない』
容赦ない言葉に 打ちのめされるグレ
課長オ・サンシクは 非情なまでにグレを無視する
その瞳の奥に 沈痛さを滲ませているが 必死に隠しているようにも見える
隣りの2課では 今日もキム・ソッコが怒鳴られている
仕事が遅く ミスを連発するばかりか 居眠りまで…!
チャン・グレは 裏紙に領収書を貼れと命じられる
ドンシクが 今のグレに与えられる仕事は この程度のことだったが…
『おい 何を裏紙にしてる? 起案書はダメだ
何でもかんでも裏紙にするんじゃないぞ!』
『は…はい』
総務へ行くグレと入れ替わりに キム・ソッコが入って来る
2課の備品庫は施錠され 気軽に備品が使えない
提出書類を急がされたソッコが グレのデスクの糊を借りる
仕事が遅い上に やることのすべてが雑な男である
グレのデスクで書類を糊付けし さっきの起案書を重ね持って行ってしまう
それからしばらくして チェ専務が3課を訪れる
突然の来訪に 慌てて席を立つ一同
秘書が 無言のまま 1枚の書類を差し出す
ロビーに落ちていたというその書類を なぜチェ専務が?
書類を見たキム・ドンシクが凍りつく…!
裏紙にしてはダメだと あれほど言ったのに
チャン・グレが 領収書を貼ろうとした“起案書”がなぜ?!
情報漏洩については どの課も厳しく通告を受けている
企業秘密とも言える“起案書”が あろうことかロビーに…!
さらには運悪く チェ専務がそれを拾ったようだ
微笑みを浮かべながら チェ専務は立ち去った
うなだれるチャン・グレ
キム・ドンシクは オ課長に無視されるグレを気にかけ
些細な仕事でも割り振るよう 配慮を重ねてきた
しかし… こういうミスが起きるならば
やはり オ課長の判断が正しかったのかと思わざるを得ない
『今すぐ出て行け!!!』
フロア内に響くほどの大声で グレを罵倒するオ・サンシク
静まり返るフロアで オ課長の次の言葉に注目が集まっている
『これだから機会はやれないんだ 資格が無いからな!
何してる 出て行けと言ったはずだ!!!』
見かねたドンシクが グレを屋上へと連れ出す
もう グレにかけてやるべき言葉もない
新人だから 未経験だから 無資格だから…
それで許されるミスの範疇を はるかに超えていた
情報漏洩という重大さすら チャン・グレには理解出来ないだろうと
日が暮れても グレはオフィスに戻って来ない
重い空気が流れる中 営業2課に歓声が沸き起こる
キム・ソッコが 20億ウォンの受注を決めたと…!
深いため息で 隣の歓声を聞くオ・サンシク
ふと デスクに置かれた“起案書”に目をやる
チェ専務が拾ったという“起案書”
その起案書のサインを見ると… キム・ソッコの名が…!
喜びに沸き立つコ・ドンホが オ・サンシクをタバコに誘う
仕事が遅くミスも目立つが やることは丁寧だと絶賛する
あんなにけなしていたソッコを 掌返しで誉め立てるドンホ
『長男だからと早くに結婚させられ 歳をくってからの入社だ
年齢的には 代理になってもおかしくない
妻子を養うため 何が何でも今回は採用されなければならない』
そんな事情だから 頑張らせたいというドンホ
おそらく“起案書”は キム・ソッコの不始末だ
しかし 今はそれを持ち出す空気ではない
屋上でランニングを続けていたグレが フラフラになって戻る
そこへ 見知らぬ青年が現れ 親し気に声をかけてきた
繊維2課のインターン社員ハン・ソンニュル
本人たっての希望により 蔚山(ウルサン)の工場で勤務しているという
初対面で いきなりパートナーにならないか?と誘って来る
見るからに遊び人の風貌で お調子者のキャラを隠そうともしない
さっきまでランニングしていた屋上へ行き 話だけでも聞くことに
課長オ・サンシクは 証拠となる起案書を シュレッダーにかけていた
歳をくった妻帯者のキム・ソッコは れっきとしたインターン社員
たとえ無実でも チャン・グレが生き残れる可能性は 限りなくゼロだ
そんなグレの無実を証明するより ソッコの未来を守るべきだと
屋上では
ソンニュルの 自信過剰なまでの自画自賛が始まる
いかに自分が有能か そして採用はもう決まったも同然の立場だという
熱く語るソンニュルを置き去りにし グレはオフィスへ戻る
(採用されたも同然だから 無能の自分をパートナーに?)
なぜこうもうんざりすることばかり続くのか
グレは 何もかもがどうでもよくなっていた
デスクに戻り 大したことはない私物と荷物を持ち 深々と一礼する
キム・ドンシクが『何のマネだ!』と怒鳴る!
それを止めたのは オ課長だった
ドンシクの やりかけの仕事を中断させ 『飲みに行くぞ!』と叫ぶ
自分には関係ないことだと 最後まで無視されながら 帰ろうとするグレ
『何してる! 飲みに行くぞ! お前も来い!!!』
『え?』
聞き間違いでなければ グレも誘われている
ドンシクも 行くぞ!と目くばせし さっさと行ってしまった
オ・サンシクは まるでひとり飲みしているかのように手酌で酒を煽る
何も 2課に実績を挙げられて悔しいわけじゃないと
確かに悔しい思いはあるが だから酔っているんじゃないという
『こいつの分類は分かりやすかった! あれならみんなが納得する
合理的で! 効率的で! しかし使えない!!!』
唐突に グレを褒めるサンシクに 2人とも面食らう
そして最後にサンシクは 『こいつは無実だ』と呟いた
直属の部下ドンシクにも 今回の当事者グレにも
それ以上を語ることは出来なかった
しかしそれでも グレを庇わずにはいられないサンシクだった
何がどうなっているのか分からないまま 酔いつぶれた上司を介抱する2人
もう飲めないだろうと サンシクを抱え店の外に出る
すると向こうから 2課の連中が上機嫌で歩いて来た
大型契約で祝い酒に興じた一行と やらかしてヤケ酒を煽った一行
コ・ドンホは 浮かれ気分でサンシクに慰めの言葉をかけた
『これだけは言っておく もう備品を借りに来させるな』
『何なんだ? 俺の手柄が不満か? 不愉快なのか?!』
オ・サンシクとコ・ドンホは 決して仲が悪いわけではない
互いに 課を率いる長として切磋琢磨してきた
だからこそサンシクは シュレッダーに“証拠”を飲み込ませたのだ
『お前の部下に 備品を自由に使わせろ!』
『お前の課に関係ないだろ!』
『お前の部下に貸したから うちの奴が怒られただろ!!!』
『何でこいつは備品くらいで騒ぐんだ!!!』
互いに泥酔している2人は 子供のケンカのように怒鳴り合う
しかし キム・ソッコだけは気づいた
『チャン君 ごめん!』
祝い酒の酔いも醒め ソッコは グレに向かって深々と頭を下げた
グレは 状況を把握し切れないまま茫然としていた
課長オ・サンシクの “うちの奴”という言葉だけが心に突き刺さる
出社初日も 長い一日だったが 2日目の今日も過酷だった
チャン・グレだけでなく すべての社員に帰宅後の“日常”があった
独り暮らしのねぐらに帰る者
泥酔し 寝静まった子供たちを起こし 妻に小言を食らう者
戦場のような激務に立ち向かい 守るべき家族のもとへ帰る者
グレは オ課長の言葉を何度も思い返し “共同作業”の意味を噛みしめる
“うちの奴”という“居場所”が出来たことは この上ない喜びだった
翌朝
チャン・グレは 真っ直ぐに繊維2課へ向かう
ハン・ソンニュルの パートナーの申し出を受けると決めたのだ
グレの表情は これまでになく自身に満ち溢れ そして積極的だった
ミセン~未生~ 第1局
- 道は ただ歩くだけではなく 前に進むためにある
前に進めないなら それはもはや道とはいえない
道は 全ての人に開かれている
しかし 誰もが前に進めるわけではない -
ヨルダンの首都アンマン
韓国人の青年チャン・グレが 何かを捜して歩き回っている
そこへ 1本の電話が入る
裏通りの安宿へ彼を呼び寄せたのは ヨルダン支社のチョ代理
2人が捜す男ソ・ジンサンは 彼らに気づくなり逃走する!
チャン・グレは 粘り強く追跡し 追いつめていく
なぜ彼がこの国にいて 男を追いかけているのか
彼についての物語は 2012年 春にさかのぼる
チャン・グレは 銭湯の掃除をしていた
呆れるほどに一生懸命働くグレだが
今日限りで… と言いにくそうにつぶやく店主
足のケガで休んでいた従業員が 明日から復帰するのだという
繋ぎのバイトだったグレの役目は 今日で終了というわけだ
失業してしまったが グレはもう1つ 運転代行のバイトもしていた
酔っ払い相手の仕事では 時に 心無い言葉で罵倒されることもある
「いい若者が運転代行なんかで楽をせず しっかり働け!」
身を粉にしてバイトをかけ持ちし 必死に働いても
所詮 世間の評価はこんなものだ
そこへ 母親から連絡が入る
新しい仕事が決まったから 明日から出社するようにと
翌朝
あまりに急な話で 亡き父のスーツを来ていくしかない
大きさの合わないスーツだが グレは 嫌な表情も見せず着て見せた
『今日中に新しいスーツを買っておく』
『安いのでいいよ』
『安くたって 最新の流行のにするわ』
スーツ姿の息子に 気後れしてはダメだと言い聞かせる母親
1つ教えれば 100答える頭の良さは きっと役に立つと
『ソンウォン実業の社長が あんたを気にかけてくれて
あの大会社に推薦してくれたのよ 決してやましいコネじゃないからね』
緊張して出社したグレは ひたすら待たされた
挙句 営業3課代理キム・ドンシクに 屋上へ連れて行かれる
グレの最終学歴が “高卒認定試験”だという事実に
中途退学なのか はじめから行かなかったのかと聞く
消え入るような声で 後者だと答えるグレ
26歳で まともに就職した経験もなく 外国語を話せるわけでもない
なのになぜコネが通ったのか… ドンシクは頭を抱える
この若者が部下になるかと思うと 苛立ちさえ覚えるのだ
『その歳になるまで何やってた? 出来ることが何ひとつない!』
まったくその通りだと グレは 心の中でつぶやいた
言い返すどころか 腹を立てることすら出来ない
同じ会社のフロアでは インターン社員アン・ヨンイが
10億ウォンの輸出契約を成立させ 上司からの称賛を浴びていた
そんなヨンイと グレがすれ違う
ヨンイが落としたヘアゴムを 呼び止めて渡すべきなのに
それすら気後れしてしまうグレ
配属された営業3課は 課長と代理だけの最小チーム
その課長とはまだ会えず 代理キム・ドンシクはてんてこまい!
どうせなら即戦力になる人材が欲しかったのに
コピー機すら 恐る恐る使うグレに絶望し 教える気力も失せていく
コピー機が用紙切れになり 給湯室のストック棚へ取りに行くが
そこも在庫切れで 備品庫へ取りに行くことに
ストックが給湯室の棚にあることも 補充は備品庫へ行くことも
初出勤のグレは いちいち聞かなければ分かるはずもない
学歴もなく 経験もなく 何ひとつ資格も無い
おまけにコネ入社となれば 反感の対象となるのは必至
グレが何も出来ない能無しインターンであることは
いずれ周知の事実となるだろう
どうしても外出しなければならないドンシク
通りかかったアン・ヨンイに声をかけ グレと一緒に昼食をと命じた
意地悪するつもりはないが 面倒を見ている暇がない
大きなビルの 広々としたフロアは いくつもの課に分かれていた
ある者は忙しくパソコンのキーボードを叩き
またある者は 電話の相手と英語で議論している
上司の怒号が飛び それに応じて部下が動き回っていた
ただ茫然と それを眺めるしかないグレには
そのフロアのどこにも 居場所がなかった
配属された営業3課課長は依然として現れず 代理キム・ドンシクもいない
デスクの上の書類の山 掲示板の貼り紙を見ても チンプンカンプンだ
そんな中 課内の電話が鳴る…!
今のグレには 電話を取ったところで何も分からない
それでも 電話に出られるのはグレだけだ
隣りの課の人間が(早く出ろよ!)という視線で刺す
しどろもどろの応対に 電話の向こうも苛ついている
自分の課の課長が どこへ外出中かも分からない
当然といえば当然なのだ
初出勤からまだ 何ひとつ教わっていない
隣りの部署から 課長は海外出張中だと面倒そうに教えられ
それを告げれば 今度はいつ戻るかと聞かれた
電話の相手が 吐き捨てるようなため息をつき 一方的に切られた
息つく暇もなく 次の電話が鳴る!
ためらわずに受話器を取ると 今度は外国語でまくし立てられる
誰に聞けばいいのか… さっきの人はもう相手にしてくれないだろう
するとそこへ アン・ヨンイが通りかかる
今のグレにとって 顔見知りは彼女しかいない
何故私が?という迷惑そうな表情のヨンイ
彼女もまたインターン社員であり 自分のことで精一杯だ
しかし グレより慣れているのは間違いない
アン・ヨンイは 電話に出るなり ロシア語で応対する
(メモを!)というジェスチャーに慌てて差し出すグレ
あとはただ 見ているしかない
素早く伝言メモを書き グレに渡すと ヨンイは急いで持ち場に戻る
お礼を言う暇もなく グレはまたひとりになった
次の電話は英語だった
隣りの課の男は あからさまに視線を逸らし無視を決める
アン・ヨンイがいる課へ行き 無言で腕をつかみ連れて来る
プライドなんて思う暇もない 今はヨンイを頼るしかない
どんなに迷惑がられても 軽蔑の視線で睨まれても
グレが頼るべき人間は ヨンイひとり切りだ
資源2課では もうひとりのインターン社員 チャン・ベッキが奮闘している
頼まれてもいないプレゼン資料を作り 課長を唸らせ
ランチの予約も 上司たちの会話から好みを把握し 何もかも完璧にこなす
資源2課課長チョン・ヒソクは 営業3課のチャン・グレを見て
あれが自分の課に来なくてよかったと 心底ホッとしていた
この会社で コネ入社して続いた者はいない
大学出の優秀なコネ入社でもそうなのに
特技もなく 高卒認定試験が最終学歴の奴なんか 続くわけがないと…!
『どうせすぐに辞めるだろ 親切にしてやることだ』
グレは 電話の嵐が過ぎたところで アン・ヨンイのデスクに向かう
ただ さっきのヘアゴムを渡したかったのだが…
『ランチなら 私は1人で行くから あなたもひとりで行って!』
『そうじゃなく…』
そこへ チャン・ベッキが声をかけて来る
プレゼンをまとめ 10億ウォンの契約を取ったヨンイを称賛する
ヨンイは グレだけでなく ベッキをも無視し さっさと行ってしまった
残されたベッキは グレに握手を求め自己紹介する
親切にしてやれという 上司の言葉に従っているだけだ
自分より10日遅れで入社した 同じ立場のチャン・グレに
スーツの上着は 脱いでも問題ないよ と助言する
グレは そこで初めて気づいたのだ
自分以外の人間は 上着を脱ぎ ワイシャツの袖を腕まくりしている
サイズの合わないスーツの 上着を着たままのグレは
緊張のせいもあってか 汗だくになっていたのだ
同じ時 グレの母親は デパートでスーツを選んでいた
ブランド店のスーツは どれもこれも高額で とても手が出ない
母親は スーパーに隣接する呉服店の安物スーツを 買い物袋に押し込んだ
昼時になり グレは ひとりデスクにいた
さっきは無下に断ったものの 冷たくし過ぎたかと気にするヨンイ
『あなたって もしかしてマザコンなの? ひとりで食事も出来ない?』
『そこまでバカじゃない! …お腹が空いてないだけだ』
あんなに頼ってばかりいたヨンイに 少しだけ腹が立った
空いてないと言ったお腹が 空腹で鳴った
(よし 食事に行こう!)
遅れて向かったエレベーターは ランチに向かう人でごった返す
皮肉にも グレひとりだけが残され エレベーターが閉まった
偶然に過ぎないと思いたいが 今のグレには この偶然さえ切ない
エレベーターの中では 他のインターン社員たちが…
(あいつだろ? コネ入社)
(バックが大物なのか?)
(物凄く優秀とか?)
エレベーターの中のベッキは その噂話を聞いているしかない
グレの学歴や 特技無しという情報は まだ公には知られていないようだ
社食でも 一同の話題はグレについてだった
(いくらコネだって 無試験ってのは不公平だよな)
(特別扱いは アン・ヨンイくらいなもんだろ)
言いたい放題のインターン社員たち
するとチャン・ベッキが 席を探すグレに声をかけ空席に招く
向かい合うキム・ソッコが 親し気に自己紹介した
さらにベッキは “インターン勉強会”に来るのかと聞く
好意的なベッキに 今日初めての笑顔を見せるグレ
しかし 他のインターン社員たちは違う
“特別なインターン”に 勉強はいらないだろうと嫌みを言う
どこの大学を? 他に得意なことが?
あからさまに聞くイ・サンヒョン
グレは臆することなく 最終学歴は高卒認定試験だと答える
想定外の答えに 言葉を失う一同
やがてひとりになったグレ
その向かいの席に アン・ヨンイが座った
さっきの失礼を詫びるヨンイに 『ああ』とだけ答えるグレ
『こういう時は「大丈夫だよ」と答えるべきだわ』
『もし 僕も悪いならそう答えるよ』
きっぱりとした言い方に ヨンイは呆れ顔
しかし 気分は悪くなかった
あれだけ恥も外聞もなく自分を頼りながら
少しは芯があるところを見せるグレに 思わず苦笑するヨンイだった
チャン・グレの 長い長い一日が終わった
社会人となった初日は 思った以上に厳しく強烈だった
“コネ入社”が どれだけ敬遠されているかを思い知り
同期のインターン社員たちの本音を 偶然にも休憩室で聞いてしまった
大学入試のため 必死に塾通いし夜も寝ずに勉強した
それでも足りずに資格を取り 語学留学もしてここまで来たのに
そんな苦労もせず コネを武器に無試験で入社するなんて…!
グレには もっともだと思う感情しかない
それほど自分には 誇れるべきものが何ひとつ無いと…
自宅へ向かう途中の繁華街
居酒屋で奇声を上げるサラリーマンたち
スーツ姿こそ同じにしていても グレには別世界のように感じる
コネ入社だと蔑む同期の言葉より グレを深く傷つけたのは上司の言葉だった
「せいぜい優しくしてやれ いずれ辞める人間だ
どうせここに アイツの居場所はないさ」
帰宅したグレは 机の上の囲碁盤を 洋服ダンスの中に放り込む
乱暴に放られ 碁石が飛び散った
グレの無言の怒りは このような形でしか示されない
幼いグレは 棋院の研究生だった
やがて少年になり 二十歳を過ぎるまで 棋院に通い続けたグレ
段位取得のため 必死に囲碁と向き合う日々
師匠はグレに バイトを辞めて囲碁に集中しろと忠告する
しかし 父親が病弱であり 経済的な理由から辞めることは出来ない
いくつものバイトをかけ持ちしながら有段者になれるほど
囲碁の世界は 甘いものではなかった
研究生でいられる期間は限られている
最後の勝負に懸けるため 一時的にバイトを辞め本腰を入れようとした矢先
とうとう父親が力尽き 逝ってしまう
グレの未来は遮断された
道が閉ざされた理由を 父親の死や バイトのせいにしたくない
夫の死にショックを受け 倒れてしまった母親のせいにもしたくなかった
囲碁にまつわるすべての持ち物を仕舞い込み 視界に入らないようにし
睡眠以外の昼夜をバイトに費やし 囲碁を忘れようとするグレ
こうした“境遇”を 囲碁を捨てた理由にするのは あまりに惨め過ぎる
ただ努力が足りなかったせいだと 自分に言い聞かせるグレだった
翌朝
母親は 買ってきた安物のスーツを 息子に渡せなかった
晴れて大会社に就職した息子に着せるには みすぼらし過ぎると自分を責めた
グレは 今日もサイズの合わないスーツで出勤する
出社するなり上着を脱ぎ 仕事する姿勢を見せるグレ
早い時間のオフィスは まだ閑散としている
訳の分からない書類の山が あちこちに積み上げられている
その中の“社内連絡網”に目を通す
やがて出社したキム・ドンシクが 課長に連絡を!と叫ぶ
すかさず受話器を渡すグレ!
あれ? 俺教えたっけか? 首を傾げながら受け取るドンシク
教わらずとも出来ることがある
グレの2日目は こうして始まった
なぜドンシクが慌てているのか
海外出張から戻る予定の 課長オ・サンシクが 渋滞にはまっているのだ
部長命令で すぐさま取引先と会うことになっている
この契約をまとめなければ 解雇に値すると 部長に脅されていた
今から空を飛んでも 最短早くて30分の遅刻だと嘆くオ課長
スケジュールを中継するドンシクが 悲鳴を上げ部長の携帯番号を探す!
グレは 覚えたばかりの連絡網で 部長に連絡し ドンシクに繋げた
部長とのやり取りで さらに悲鳴を上げるドンシク!
オ課長が到着するまでの時間稼ぎに 新人を行かせろというのだ
別件で これから大連に行かねばならないドンシクには なす術もない
詳しく説明をしている暇もなく 高麗人参のサンプルを渡し
とにかく時間稼ぎをしろと叫ぶドンシク
すべての説明を聞かされ 驚くオ課長
報告するドンシクも 始末書ものだと嘆く
ホテルで待つ取引先は外国人であり 向かったグレは英語を話せない
仕事が分からないばかりか 時間稼ぎをしようにも
まず会話が成り立たないのでは 引き止めようもないだろう
一体 ホテルではどんなことになっているのか
まだ見ぬ新人の顔さえ分からず オ課長は それらしき人物を捜す
すると…
取引先の“ヘンリー”が いかにも楽し気に考え込んでいる
その向かい側には 新人らしき青年が静かに座っていた
グレは ヘンリーに囲碁の問題を出し
ヘンリーは 初めて囲碁を教えられ 楽しそうに考え込んでいたのだ
上機嫌のヘンリーを見送ると オ課長は あらためてグレを見る
『囲碁が得意なのか?』
『いえ 経験がある程度です』
会社に戻る車中 2人に会話は無い
サンシクの口から やっと出た言葉は 昨日のドンシクと同じだった
一体 26歳まで何をしてきたのか
コネ入社だというのに 学歴もなければ特技もなく 外国語も話せない
『お前は運がいいぞ 昨日 俺がいないおかげで今日も出社できた』
『……』
『うちは人がいないから 即戦力が必要なんだ
教えてる暇なんか無いからな』
“売り”は何かと聞かれ 咄嗟に“努力”だと答えるグレ
これが新卒の答えだったら あるいは許されるのかもしれない
しかしオ課長は グレの答えを却下した
新人が一生懸命に頑張って努力することは あまりに当然であり
それだけでは 区別も差別も出来ないと
『質が違います! そして量も…』
グレの覚悟を 鼻で笑うオ課長
そして 資料のデータを渡し 分類してみろという
努力の質と量が どう違うのか お手並み拝見というわけだ
同じ時 グレの母親はデパートにいた
昨夜 初出勤から帰宅した息子は 酷く疲れて元気がなかった
もともと口数の少ない息子だが 不平も言わず懸命に生きている
安売りのスーツを渡せず 意を決してブランド物を買いに来た
カードの支払いがほとんどの専門店で 札束を数える母親
その頃グレは パソコンの画面に集中していた
どこから手を付けていいのか分からないほど バラバラのデータを
まずは紙に書き起こしてみる
実は こうした分類作業を 幼い頃からしていたグレ
さまざまな囲碁の対局を パソコン上で分類していく
自分の経験が 初めて生かされると感じ グレは嬉しくなった
一方母親は かき集めた現金で 目的のスーツを購入すると
その足で 息子が働く会社に向かった
ロビーに立つ母親の質素な姿は 大会社のフロアで完全に浮いている
それをしっかりと承知している母親は 手短に会話を終わらせ
ブランドロゴ入りの紙袋を渡し さっさと行ってしまった
オ課長は デスクの書類の山の中から アン・ヨンイのメモを発見する
その完璧すぎるメモに 本人を訪ねずにはいられない
インターンでありながら 大きい契約を取ったヨンイを知らない上司はいない
『インターンが終わったら 希望部署は営業3課にしろよ』
オ・サンシクは アン・ヨンイを我が部署へ!と熱望し
一応は周囲を気遣いつつ 本人にもその思いを隠さず伝えた
なんと答えたらいいものか… ヨンイは愛想笑いをするしかない
オ課長がデスクに戻ると 代理キム・ドンシクから電話が入る
イカのトラブルで大連に向かったドンシクは 異物混入に困り果てていた
塩辛を輸出するためのイカが 工場に届いたが
量増し目的で“ベイカ”が混入されたのだという
大量のイカ樽から“ベイカ”を探し出すのは 手作業でしか出来ない
オ課長は 各部署からインターン社員を召集し 工場に向かわせようとする
グレは 与えられた仕事に没頭しながらも 足元の紙袋が気になり
わざわざ届けてくれた母親の気持ちを思うと 着替えずにはいられなかった
サイズもピッタリな 高級スーツは 明らかに着心地が違う
服装などどうでもいいと思っていたグレも 鏡に映る自身の姿が眩しかった
会議室に集められたインターン社員たち
エリートと呼ばれる彼らが 快く引き受ける筈もない
なんで俺たちが? と口々に文句を言う
しかも この召集から アン・ヨンイは外されている
大活躍のヨンイを 上司がはっきりと断り守ったのだ
一旦 会議室に戻ると オ課長が グレのパソコンを覗いている
あらかじめ作っておいたフォルダに 振り分けるだけの作業だった
しかし オ課長が用意したフォルダは無視され 独自の分類がされていた
『お前 友達いないのか? これでは独りよがりだぞ』
これの何がダメなんだろう…
分類には自信があったし 何が悪いのか見当もつかない
そうこうしているうち 工場へ出発する時間になった
工場に着くと それぞれに作業着が渡され 作業の説明が行われた
突然の応援に人数分の作業着が確保出来ず 何人かはスーツのままだ
グレは 新品のブランドスーツにゴム手袋を渡されただけだった
冷蔵室内での作業は寒すぎて 新品のスーツを脱ぐことも出来ない
2人組になるよう指示されたが 駆けつけたインターン社員は奇数人数
当然のごとく グレははじかれ たった1人での作業を課せられる
寒い上に ドラム缶の蓋を開けると 強烈な臭いでムセ込むようだ
誰も真剣にやろうとは思っていない中 グレだけが必死になっていた
スーツを汚さないよう細心の注意を払い “ベイカ”を探していく
するとそこで ポケットの携帯に着信が入り
取ろうとしたゴム手袋から滑り イカの中に落ちてしまう…!
携帯はもう絶望的だが そのまま沈めておくわけにはいかない
新品のスーツの肩先まで手を突っ込み ドラム缶の底から携帯を掴んだ
『なんで繋がらない?』
オ課長は グレを諦め チャン・ベッキの携帯にかける
イカはそのまま返品することになったから すぐにも撤収しろとの命令だ
ベッキは イ・サンヒョンに グレにも伝えろと頼み 先に行ってしまう
ひとり黙々と作業するグレを見て また怒りが込み上げるサンヒョン
スーツの袖を汚し 必死に“ベイカ”を探す姿が どうにも鼻につく
サンヒョンは グレには撤収を伝えず行ってしまう
チャン・グレを置き去りにしたまま帰社し これは洗礼だと笑うサンヒョン
さすがにやり過ぎだと怒りをあらわにし ベッキは 工場に連絡する
工場長から 他の者は撤収したと告げられ ショックを受けるグレ
やっとのことで会社に戻ったグレは 悪臭を放ち疲れ切っていた
その姿に驚き 何と声をかけていいのか分からないアン・ヨンイ
他のインターン社員たちは オ課長のおごりで居酒屋に集結していた
ヨンイにも誘いの電話が入り グレが戻ったと聞いたサンヒョンは
戻れたのか?と大笑いし グレを電話口にという
あんまり必死だったから声をかけられなかったと
これで洗礼は終わりだからと 笑いが止まらないサンヒョン
電話の向こうでは 他のインターン社員たちの笑い声も…
居酒屋に行くより サウナにでも行った方がいいというヨンイ
しかしグレは 一緒に行って片をつけるという
ヨンイも 飲み会に出席するつもりはなかった
せっかくのオ課長の誘いだから 断るにしても顔を出すべきだと判断し
グレも同じく 一応は顔を出して 直接 課長に報告すべきだと思ったのだ
インターン社員たちは グレを“仲間”だとは思っていない
悪ふざけが過ぎたとしても 同期に酷いことをしたという認識もない
悪臭を放つ姿で 飲み会の席に顔を出すこと自体が非常識だと…!
『お前 もっと要領よく立ち回れないのか? 必死過ぎるんだよ!
ま 必死にやるしかないだろうけど せいぜい頑張れよ アハハ…!』
イ・サンヒョンは まるでグレが悪いかのような言い草で店内へ戻る
聞くに堪えない状況に ヨンイも帰ると言い歩き出す
そこへ 遅れて現れたオ課長が グレの姿に驚き すぐに帰れと命じた
しかし 会社に戻り仕事すると答えるグレ
データの分類を 却下されたままだった
オ課長に対し きちんと挨拶したグレは 来た道を引き返す
グレは 心の中で歯を食いしばる
必死だとか 一生懸命だとか そう言われるのは心外だ
これまで 必死にやってこなかったから 今の状況がある
26歳になるまで 手を抜いて生きてきたから こんな目に遭っているのだと…
∞∞ キャスト紹介 ∞∞
チャン・グレ
⇒ イム・シワン
ワン・インターナショナル営業3課インターン社員
オ・サンシク
⇒ イ・ソンミン
グレの上司/営業3課課長
アン・ヨンイ
⇒ カン・ソラ
グレの同期/資源2課インターン社員
チャン・ベッキ
⇒ カン・ハヌル
グレの同期/鉄鋼課インターン社員
ハン・ソンニュル
⇒ ピョン・ヨハン
グレの同期/繊維2課インターン社員/壁犬
キム・ドンシク
⇒キム・デミョン
営業3課代理/彼女いない歴32年
???
⇒ ナム・ギョンウプ
社長
チェ・ヨンフ
⇒ イ・ギョンヨン
専務理事
キム・ブリョン
⇒ キム・ジョンス
営業本部部長
ソン・ジヨン
⇒ シン・ウンジョン
営業1課チーム長/サンシクの同期
チャ・ジョンホ
⇒ チェ・イクジュン
営業1課代理
コ・ドンホ
⇒ リュ・テホ
営業2課課長/サンシクの同期
ファン・ヒョン
⇒ パク・ジンス
営業2課代理
チャン・ミラ
⇒ キム・ガヨン
営業2課実務職社員
パク・ジョンシク
⇒ キム・ヒウォン
営業3課課長
チョン・グァヌン
⇒ パク・ヘジュン
営業3課課長
マ・ボクリョル
⇒ ソン・ジョンハク
資源課部長
チョン・ヒソク
⇒ チョン・ヒテ
資源2課課長
ユ・ヒョンギ
⇒ シン・ジェフン
資源2課代理
ハ・ソンジュン
⇒ チョン・ソクホ
資源2課代理
カン・ヘジュン
⇒ オ・ミンソク
鉄鋼課代理
シン・ダイン
⇒ パク・ジンソ
鉄鋼課実務職社員
ムン・サンピル
⇒ チャン・ヒョクジン
繊維1課課長
ソン・ジュンシク
⇒ テ・イノ
繊維1課代理
イ・ソクジュン
⇒ キム・ジョンハク
IT営業課課長
パク・ヨング
⇒ チェ・グィファ
IT営業課代理
ハム次長
⇒ パク・ノシク
IT営業課次長
???
⇒ ハン・ガプス
副社長/ヨルダン支社長
チョ代理
⇒ チェ・ジェウン
ヨルダン支社代理
???
⇒ ソン・ビョンスク
グレの母
???
⇒ オ・ユノン
サンシクの妻
???
⇒ アン・ソンフン
サンシクの長男
???
⇒ ペク・ギョンミン
サンシクの次男
???
⇒ ソン・ジュニ
サンシクの三男
???
⇒ チョン・ジンギ
ヨンイの父
???
⇒ メン・ボンハク
ソンニュルの父
???
⇒ オ・ギヨン
ソン・ジヨンの夫
パク・ソミ
⇒ イ・ゴウン
ソン・ジヨンの娘
ハ・ジョンヨン
⇒ イ・シウォン
パク・ソミの幼稚園の先生
???
⇒ ナム・ミョンリョル
グレの囲碁の師匠
イ・ジンテ
⇒ キム・ギョンリョン
キム・ブリョンの後任の営業本部部長
ピョン・ヒョンチョル
⇒ イ・ダリョン
ウィルマート部長/サンシクの同級生
チョン課長
⇒ チャ・スンベ
ヨンソン実業課長
シン・ウヒョン
⇒ イ・スンジュン
ヨンイの前の職場の上司
ファン部長
⇒ チョン・ソギョン
中古車輸出案件の取引先の部長
イ・ウンジ
⇒ ソ・ユナ
サンシクが代理時代の契約社員
ソ・ジンサン
⇒ ソン・ジェリョン
中国工場の工場長
サンシクの若い時代
⇒ ペ・ユラム
グレの少年時代
⇒ キム・イェジュン
ベッキの少年時代
⇒ パク・ハジュン
ソンニュルの少年時代
⇒ イ・ヒョンビン