“散る花と咲く花がいつもここにある”のブログより移行しています
1話~11話はこちらで公開しています
※このドラマは実在した奇皇后の物語ですが 架空の人物や事件が扱われ
史実とは異なる創作の部分があります
第35話 ふたりの世継ぎ
婕妤キ・ヤンは 毎晩のように悪夢にうなされている
悪夢を見るばかりか 体に傷ができているのだ
まるで獣に噛まれたような傷痕を見て タルタルが表情を曇らせる
『身の回りと周辺を調査してください お札が隠されているはずです
その札には“死者”の名が書かれています おそらくヤン様の名前が…』
犬蠱術は どの呪術師でも出来るという呪いではない
捜すことは容易だというタルタル
トクマンの指揮により 徹底的に調査されたが お札は出てこない
キ・ヤンの怯えは 次第に怒りへと変わっていく
お札が発見されないまま 体の傷は増えていく
皇帝タファンは タナシルリの仕業に違いないと憤り
すぐにも怒鳴り込んでやめさせようとするが
確証がなければ シラを切るのは目に見えている
皇后タナシルリは 婕妤キ・ヤンを呼びつけ 体調を確認する
ヤンは隠すことなく 眠れぬ日々が続いていると報告した
その夜
ヤンの居所の周辺から とうとうお札が発見された
確証が得られた今 ヤンは 絞り込んだ呪術師らと直接会う
そして タナシルリと結託した呪術師を突き止めた…!
タナシルリは 毎晩のように 祭壇で呪いの呪文を唱え続けた
そうでもしなければ キ・ヤンの気力に押し返されてしまうだろう
しかし… 祈祷の途中で 皇帝タファンが現れた…!!!
ただマハの健康を祈っているだけ という言い訳が通じるはずもない
捕えられた呪術師とともに ソ尚宮とヨン尚宮らが連行される
拷問の痛みに耐えきれず 女官の1人が白状しようとするが
『偽りを申すでない! 皇后様の逆鱗に触れるぞ!!!』
ヨン尚宮の怒声に 呪術師がため息をつく
それではもう 皇后の差し金と告白しているようなものだ
ひとり残されたタナシルリは 慌てて兄タンギセを呼び
すぐにも拷問をやめさせてほしいと懇願する
誰かひとりでも白状してしまえば 丞相一族が崩壊してしまう…!
皇帝タファンは 皇太后に報告し ペガンとタルタルを交え協議する
たとえ呪いの事実が明らかになっても 丞相一族との闘いに勝算はない
長官らと結託しても 各行省は 都からあまりに遠い
進軍の途中で 丞相の軍隊に阻まれてしまうというのだ
唯一の方法として 兵を引き連れ大都に入る策があるというペガン
しかし 都の守備隊は強靭な兵の集団で 破ることは難しい
だからこそ 守備隊長としてワン・ユがいるのだというタルタル
ヤンには どういう意味なのか見当もつかない
ペガンは ワン・ユに復位を約束し 協力を請うべきだと進言する
皇帝の意を伝えるため ペガンとタルタルは 守備隊に向かう
ヨンチョルの私兵と称される守備隊である
ワン・ユは 守備隊長として まだ全体を掌握できずにいた
忠誠を誓う守備隊長ウォンジンが 降格されたことに反発し
既に100名以上が辞めていき 志願者を募ったが ろくな人材が集まらない
このままでは 挙兵の計画にも影響が出そうな事態であった
志願者たちのほとんどが 物乞いや逃げた奴婢など流れ者ばかり
すべては ウォンジンの嫌がらせで 集められた者たちだった
月々3両の給金があり 寝る場所もあって食い物にも困らないと…
ふざけるな!と怒り出すチョンバギ
しかしワン・ユは 皆に食事を用意しろと命ずる
この者たちを締め出し また募集したところで同じことだと
訓練所は たちまち集会所のようになった
精鋭を育て“別動隊”を作るという計画からは 程遠い者たち
その1人1人に話しかけ なぜ今のような境遇になったのかを聞くワン・ユ
聞けば 重い税に苦しみ逃亡した者
疫病で家族を失い 天涯孤独になった者
屋敷の奴婢だったが 主人に殺されそうになって逃げた者…
ワン・ユはさらに 牛と馬を潰し肉を食わせてやれという
国の禄を食む“武人”になるのだから それなりの待遇をせよと
パン・シヌたちは いくら訓練しても無駄だと抗議する
この者たちで精鋭部隊を作るなど とても無理だと…!
『彼らには 機会が与えられなかっただけだ
ここで機会を与えれば あの者らが いずれ私を復位させてくれるだろう』
皇后殿では
ようやく尋問から解放された ソ尚宮とヨン尚宮が戻っていた
厳しい拷問に よくぞ耐えてくれたと 涙ながらに感謝するタナシルリ
そこへ マハ皇子が麻疹にかかり重体だとの知らせが入る…!
この時代の麻疹といえば 救いようのない病である
神に祈るしかないと言われ すぐに陛下を呼べと命じるが…
婕妤キ・ヤンの居所では
皇帝タファンが 感慨深げに ヤンと語らっていた
丞相に怯え 操り人形として生き永らえるしかなかった日々
ヤンが側室になるまでは 長官らと結託し 丞相一族と戦おうとは
これまで 夢にも思わないタファンであった
『決戦は 遠い未来ではありません
タルタル将軍は戦略を考え ペガン長官は 精鋭を育てている
陛下は 更なる威厳を備えるべく 精進してください』
そこへ 侍従コルタが マハ皇子の病状を伝えに現れる
すぐにも駆けつけた方が… と促すヤンだが タファンは行こうとしない
『正直 マハには情というものが湧かないのだ
ただ皇后の息子であり 丞相の孫というだけで 息子という気がしない』
訪ねて来ないタファンに憤慨し ヤンの居所へ乗り込むタナシルリ
しかし 皇帝が訪室している側室の居所へは
たとえ皇后でも立ち入ることは許されないと 侍従コルタが行く手を阻む
タナシルリは コルタの頬をしたたかに打ち 中に向かって叫ぶ
息子が病気というのに 側室と戯れるとは あまりに不謹慎だと!!!
この騒ぎに 怒るタファンをなだめ 自ら部屋の外へ出るヤン
『皇子様のご病気は 皇后様のせいでは?
私が呪いに打ち勝った場合 呪術師はどうなると言いましたか?
父や兄妹 もしくは息子 身内に撥ね返ると聞きませんでしたか?
ゆえに 皇子様のご病気は 皇后様のせいであり 自業自得でしょう!』
ヤンの言葉に衝撃を受けたタナシルリは 歩くのもままならない
そんなタナシルリに ソ尚宮が 喝を入れるように進言する
『どうか落ち着いてください! 跳ね返るのは血縁の身内にです!
皇子様とは 血縁の仲ではございません!』
『黙れ! マハは私が産んだのだ! 私の息子なのだ!!!
皇子を侮辱するとは… そなた命が惜しくないのか!』
完全に狂っていると 感じずにはいられない2人の尚宮
皇后様には もはや現実が見えなくなっているのではないかと…
タナシルリは マハが 腹を痛めて生んだ我が子であると錯覚していた
マハの存在だけが 皇帝の心を繫ぎ止め 自分の存在を固持できると
水乞いの荒行で身を清め マハの快復を祈祷するタナシルリであった
同じ時 丞相ヨンチョルは 悪夢にうなされ正気を失っていた
夢の中で 自らの死体を見せつけられ 不敵に笑うタファンがいた
『お前を殺す! 父親同様!殺してやる!!!』
父親の叫びに驚き 何事かと駆けつけた2人の息子
その手に握られた剣で ヨンチョルは 息子たちに向かって斬りかかる!
『私を殺しに来たのか! この権力を奪おうというのかぁーーーっ!』
絶叫したまま気絶するヨンチョル
タンギセとタプジャヘは 初めて見る父の姿に動揺し うろたえる…!
一夜明け マハ皇子の熱が下がり始めたと聞き 安堵するタナシルリ
自らの命を懸け 快復してほしいという祈りが通じたと
さらにマハへの執着は強まり 血縁ではないという現実が見えなくなっていく
一方 守備隊の宿舎では
志願兵たちの腹ごしらえも終わり 本格的な訓練が始まろうとしていた
訓練をやり通した者だけが 兵籍簿に名を記され 軍服が着られる
脱落者は罪人となり 奴婢にされ 辺境で労役をさせられると聞き
動揺した志願者たちは 志願を取り下げると言い出した
冗談じゃない!と憤慨し 奴婢になるなんて真っ平だという志願者たち
ワン・ユは 虫けら同然に生きてきた過去を清算する機会だと叫ぶ!
訓練を耐え抜き 武人としての未来を手に入れるか
これまでと同じく 虫けらのように生きるか 今こそ選ぶ時だと…!
9つの山を 全員で駆け抜ける
1人でも脱落する者がいれば また最初からやり直し
脱落者が出るたび その者たちを責めてばかりの志願者たち
ワン・ユもまた 足のマメが潰れ血が滲んでいる
休むようにと懇願するシヌたちに 自分もまた“脱落者”だとつぶやく
『私もまた“脱落者”の1人ゆえ 廃位させられた
彼らと何も変わらぬ だからこそ諦めたくない
この訓練すら乗り越えられないなら ここで一緒に死ぬまでだ』
野営地の静かな夜に ワン・ユの言葉だけが響き
志願者たちは その思いを知り深く考え込む
翌日から 皆の意識が変わり始め 脱落者を助けるようになる
励まし合い 少しでも前へと進む志願者たち
無事に訓練を乗り越え ようやく武術の修練に入るが
そのへっぴり腰を 鼻で笑うウォンジン
丞相の私兵と称された守備隊が このような素人集団に成り下がったと
いずれワン・ユが 隊長の座から引き摺り下ろされる日も近いとほくそ笑む
そして 9ヶ月の時が経ち
婕妤キ・ヤンは 出産の時を迎えていた
そして タナシルリの祈祷も虚しく ヤンは 元気な男の子を産んだ
落胆のあまり 腰が抜け むせび泣くタナシルリ
皇帝に疎まれ続け 冷遇され マハへの愛情も得られない
一心に寵愛を受ける 婕妤キ・ヤンの男児出産は まさに“脅威”であった
皇帝タファンは 生まれた皇子を“アユルシリダラ”と命名する
この慶事は ワン・ユのもとへも報告された
ようやく形になってきた兵士たちを見ながら ワン・ユは過去を思い出す
互いに違う道を行くと決め 思いを断ち切ったあの日
そうでもしなければ 互いを守ることが出来なかった2人だった
兵士たちは チェ・ムソンとチョンバギにこそかなわぬものの
いつの間にか 戦場でも立派に戦えるほどの武術を身につけていた
日々の鍛錬の中で 自然と礼節も備わり ワン・ユへの忠誠心も育っている
同じ頃 丞相ヨンチョルは 疑心暗鬼に捉われ正気を失いつつあった
忠心を誓う側近たちが 夜な夜な裏切る夢を見る
“秘密資金”が奪われるという 最悪の事態を按じ 眠ることも出来ない
タンギセは 変わり果てた父親を 涙ながらになだめるしかなかった
『ヨム・ビョンスが 秘密資金を狙っている あの者を殺せ!』
『では私が代わりに管理します』
『お前もか! お前も狙っているのだな!!!』
『父上 何を仰るのです』
『本性を現せ! そんなに私の金が欲しいのか!』
自分に向けられた剣を 素手で握りしめるタンギセ
その手からは 鮮血が滴り 床を赤く染める
父親のこんな姿を見るくらいなら いっそここで殺してほしいと…!
息子の悲痛な叫びを聞き ようやく正気を取り戻すヨンチョル
『こんな… こんな心境になるとは… 私に死期が迫っているのか…?』
タファンは 皇子アユルシリダラを可愛がり ひと時も離れようとしない
マハ皇子の快復の宴すら 気が進まないと言い出す
長官たちも揃う宴に 出ないわけにはいかぬと ヤンに説得されるが…
宴に参列する尼僧たちの中に 顔に火傷痕が残る者がいる
それに気づいたソ尚宮は 言い知れぬ不安を感じるのだった
やがて宴が始まると 主役のマハ皇子を無視し
産まれたばかりの アユルシリダラを我が手に抱くタファン
将来は 2人の皇子を競わせ 勝った者を皇太子にすると宣言した…!
タナシルリが何かを言う前に 兄タンギセが立ち上がる!
嫡男が後継ぎになることは フビライ皇帝の遺志であると…!
『おかしなことを言う 丞相は 私の弟を皇帝にしたではないか
まさか忘れたか? 私の意思は以上だ!もう何も言うな!』
同じ時 ソ尚宮とヨン尚宮は 尼僧のひとりひとりを確認していた
しかしいくら捜しても 顔に火傷痕のある尼僧は見当たらない
ソ尚宮が捜す尼僧は トクマンに匿われ 婕妤キ・ヤンに謁見していた
『私は 皇覚寺の尼僧でした 皇后様が滞在した尼寺です
マハ皇子様は… 皇后様が産んだお子ではありません…!
拾い子を 我が子に仕立てたのです!!!』
『何? 皇子は偽者なのか?!』
『皇后様は 秘密を隠そうと 尼僧たちに毒を盛り 寺に火をつけました!
私だけが生き残り… こうしてお知らせに来たのです!』
『なぜ 私に知らせたのだ』
『皇子様をお産みになったのでしょう?
偽の皇子を 世継ぎにするわけにはいかぬと思い… 伝えに来たのです』
『そのことを 皆の前で証言してくれるか?』
『もちろんでございます!!!
無残に殺された仲間のためにも 真実を公表したいのです!』
『何か証拠は…? 証拠はありますか?』
『偽皇子には 皇后と乳母だけが知る体の特徴が!
それを私が知っていることこそ証拠です 偽皇子の足の甲に…』