“散る花と咲く花がいつもここにある”のブログより移行しています
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※このドラマは実在した奇皇后の物語ですが 架空の人物や事件が扱われ
史実とは異なる創作の部分があります
第37話 決戦の時
皇帝タファンは 自らも戦う決意を示すが 侍従コルタが止める
ならば必ず生きて 何としてもヨンチョルを倒せと命ずるタファン
婕妤キ・ヤンもまた 側室らを前に 決戦の準備を進めていた
※婕妤:後宮の階級 三妃九嬪のうち九嬪7番目の位
宦官が使用する武器を 掖庭宮に集めさせ あるだけの穀物を用意する
また 火矢による攻撃に備え そこかしこに水桶を配置した
しかし これだけの防御策では 到底持ちこたえられぬという皇太后
※虚勢を施された官吏
※掖庭宮:皇后・妃嬪が住む宮殿
『ペガン将軍が城内に攻め入るまでは 何としても持ちこたえるのです』
『ところで… 陛下は今どちらに?』
皇帝タファンは 丞相ヨンチョルと酒を酌み交わしていた
親政を施し 真の皇帝として 自らの意思で玉璽を押したいというタファン
いつになくはっきりとした物言いをする若き皇帝
ヨンチョルは それをたしなめるように諭す
権力を捨てたからこそ 皇帝という地位に留まっていられるのだと…!
同じ時 ワン・ユの“別動隊”が 丞相への伝令兵を斬り殺していた
部下たちには ペガンの兵が敵を見間違わぬよう 鉢巻きをせよと命ずる
ウォンジンが ワン・ユの裏切りに気づいた時
そこからは まさしく時間との戦いとなる
少数精鋭の部隊では 長引くほど不利になるからである
決死の戦いの中 パン・シヌが内鍵を外し門を開けた!
ペガンの軍勢がなだれ込むように侵入し ウォンジンが斬り殺される!
その時 丞相ヨンチョルは ようやく息子からの知らせを受けていた
長官たちが ペガンの側についたと知るが 時すでに遅し…である
『ワン・ユとウォンジンに タンギセが来るまで持ちこたえろと伝えよ!』
ヨンチョルはまだ ウォンジンの死も ワン・ユの裏切りも知らない
タプジャヘに 皇帝と皇太后 キ・ヤンと側室らを 直ちに殺せと命ずる!
これまで どんな事態になろうと このような命令をすることはなかった
しかし今こそ 皇帝を殺す名分が整ったというヨンチョル!
自ら玉座に就くその時を確信し ニヤリと笑う…!
タプジャヘは 父の意を察し 兵を率いて掖庭宮へ向かった
皇后タナシルリは ソ尚宮に起こされ 政変が起きたと知らされるが
あとは父と兄に任せればいいと 眠そうにあくびをするだけだった
掖庭宮では
宦官たちが 歯を食いしばり内側から門を守っている
塀を越えようとする敵を 次々と弓で射抜く!
掖庭宮の中に 兵士はいないはず
宦官と側室たちの守りを破れぬとあっては タプジャヘの面子が立たない!
いよいよ門が打ち破られ 直接の戦いが始まる!
侍従コルタも 宦官ブルファも そして婕妤キ・ヤンと皇帝自らも
果敢に立ち向かい 敵を倒していく!
皇太后は 皇帝とキ・ヤンの息子アユルシリダラを抱き ひたすら祈っている
一方 皇后タナシルリもまた マハ皇子を胸に抱き微笑んでいる
まもなくこの国の“皇帝”となる 息子の寝顔を見つめながら…
『マハを皇帝にし 私が自ら垂簾聴政を行う
そしてこの国を 太平の世へと導いていくのだ!』
※垂簾聴政:皇帝が幼い場合、皇后または皇太后が代わって摂政政治を行うこと
大明殿の玉座に 丞相ヨンチョルの姿があった
ペガンの決起により 思いがけず皇帝を殺す名分が整った
これはまさに 玉座を手にせよという天の啓示だと 笑いが込み上げてくる
※大明殿:元の皇居の主殿
そこへ『お逃げください!』と叫びながら 兵士が駆け込んでくる
すでに守備隊は全滅し 将軍ペガンが掖庭宮に向かっていると…!!!
ヨンチョルの笑いは声にならず 一瞬にして表情が凍りつく
掖庭宮では
タプジャヘの兵が 掖庭宮の者たちを追い詰めていた
『皇帝を殺せ!!!』との命令に タファンは冷静な表情のままである
『剣を下ろせ』と命ずるタファン
これまでは 同じ言葉を味方に命じ 自ら屈してきた
しかし今は その言葉をタプジャヘの兵士たちに投げかけている
兵士ひとりひとりの前に立ち『この皇帝を殺せるか?』と問う
『私の父上が皆殺しにせよと命じた! 丞相の命令である!』
『ならば誰が? 誰が余を殺すのだ お前か? それともお前か?!』
『こ…殺せないとでも? 誰か! 殺した者に1万両やるぞ!!!』
このタプジャヘもまた 兄タンギセ同様 父の威を借るばかり
皆殺しだと叫びながらも 微動だに出来ず突っ立っている
そこへ ようやくペガンの軍勢が到着した!
目の前の状況は まさに絶体絶命!
下手に動けばタプジャヘの剣が 皇帝の胸先を貫くように見える
しかし その状況にありながらも 皇帝タファンに怯えはなく
むしろ優勢なはずのタプジャヘが汗だくになり 追い詰められていた
『丞相の兵士たちに告ぐ 今すぐ剣を捨てよ さすれば命は助けよう
しかし あくまで謀反に加担すれば 一族郎党を滅する!』
『殺せ… 皇帝を殺すのだ!』
『命令する 今すぐ投降せよ!』
丞相の兵とはいえ この国の民であり 皇帝の民である
いかに丞相の権力が絶大であり この若き皇帝が無力であっても
皇帝の命令こそが絶対であることを 兵士たちは知っている
婕妤キ・ヤンは 感動に打ち震えタファンを見つめた
権力欲に駆られて ただ玉座に目が眩む者と
産まれながらに 皇帝になる運命を背負う者との違いがここにある
兵士たちは次々と剣を捨て タプジャヘはひとり孤立した
そしてあっけなく ペガンの剣により絶命するのだった
『陛下! 到着が遅れた不忠を どうかお許しください!』
『お許しください!!!』
ペガンがひざまずき 続いて兵士たちもひざまずき忠誠を示す
タルタルと 婕妤キ・ヤンは視線を合わせ 小さくうなずき合った
綿密な計画に基づき この決戦に勝利出来たのは この2人の功労である
ヨンチョルは 僅かな兵に守られながら北門を目指していた
玉座に座り 皇帝になる時を思い 笑みすらこぼしかけていた老将は
ペガンの本意も ワン・ユの裏切りも 長官たちの寝返りも知らず
敵がどこの門から攻め入ったかすら把握出来ていない
すべての門が封鎖され もはや逃げ場がないと知り 初めて呆然とする
今の自分を護衛するのは 名前すら知らぬ未熟な兵士たち
2人の息子も 信頼したワン・ユも 忠臣ウォンジンの姿もない
『もう疲れてしまった 屋敷に戻って寝るとしよう…』
屋敷の門前には チェ・ムソンが立っている
そして横並びに ヨンビス パン・シヌ チョンバギが…!
『ワン・ユの守備隊たちです!』
『そうか! ワン・ユが助けに来てくれた! ワッハッハッハ…!!!』
ヨンチョルの笑い声が止まらないうちに 護衛の者たちが斬り殺されていく
一瞬 何が起きたのか理解出来ないヨンチョル
パン・シヌが 丁重に礼を尽くし『王様が中でお待ちです』と告げた
裏切られても尚 ヨンチョルは ワン・ユを説得しようと試みる
この場から城外へ逃がしてくれたら 高麗(コリョ)の王座でも何でも
欲しいものは何でもくれてやると まだ敗北を受け入れられないヨンチョル
自ら皇帝になり 再びこの手に権力を取り戻せたら 何でも与えると…!
『皇帝になったら まず何をなさいますか』
『まずは皇帝タファンを殺す』
『それから?』
『今回の火種となった あの憎き女!キ・ヤンを八つ裂きにする!』
ヨンチョルの口から 国に対する思いも 民への思いも聞くことは出来ない
権力欲だけが彼のすべてであり 皇帝の座を欲する以外には展望すら持っていない
皇后殿では
タナシルリが ひたすら父の勝利の知らせを待っていた
あの憎きキ・ヤンは まだ殺されてないのか?
まだ生きているのなら この手で殺してやる!と息巻く
そこへ 婕妤キ・ヤンが 側近を引き連れ現れ
タナシルリは 皇太后の前に引き摺り出された
『この国の皇后に向かって無礼であろう!
父親が過ちを犯したとて 皇帝の嫡男を産んだ私に何の罪が?!』
『そなた“謀反”の意味がお分かりか? 謀反は一族を滅する大逆だ!』
『ならば娘婿である陛下も滅さねば!』
悔い改める意思など 微塵もないタナシルリ
その頬に 皇太后の平手打ちが飛ぶ!
さらには皇帝に代わり“廃位”の皇命が言い渡された!
冷宮へ連行されようとして タナシルリはキ・ヤンを睨みつけた
『これで終わりではないぞ! この命続く限り戦いは終わらぬ!』
『ならば… 今すぐ終わりにしましょうか?』
ギロリと睨み返すその視線に たじろいだのは 皇后ではなく皇太后だった
今日の勝利を導いた功労者であり 皇帝が唯ひとり寵愛する側室ではあるが
皇太后は その恐ろしさがタナシルリの比ではないことを感じ取っていた
一夜明け
ヨンチョルが 屋敷から連行されようとしている
仮にも丞相として君臨していたヨンチョルに対し
ペガンは 縄を解くことで最期の礼を尽くした
ワン・ユに対し 一番の功労者として参内せよと 皇帝の意を伝える
しかしワン・ユは 共に戦った同志と酒を酌み交わしたいと答えた
護送されるヨンチョルは 民の前に晒され罵倒を受けた
搾取され続けた民の怒りは強く 容赦なく石が投じられた
『皇帝陛下万歳!』
『ペガン将軍万歳!』
民の賞賛を受けながら ペガンが馬を降りヨンチョルのもとへ
ヨンチョルは 英雄然としているペガンを見つめ微笑んだ
『30年に及ぶあなたの統治に 民は怒っているのです
民心こそが天の啓示であり すべては政(まつりごと)に失敗したあなたの罪!』
『ペガン 私が反乱軍を制圧して凱旋した日を覚えているか?
今のそなたのように 誰もが私を称賛していた
病弱な王に代わり 国をまとめてほしいと願ったのは民だったのだ
いつかそなたも同じ憂き目に遭う
ヨンチョルの治世の方が良かったと 陰口を囁かれる日がな
民心は移ろいやすいものだ
せいぜい今の勝利に酔いしれるがよい』
こうしてすべてが終わった頃
ようやくタンギセの部隊が帰還した
門前で待ち構える各行省の長官たち
この大臣たちに裏切られ タンギセは城外で孤立したのだ
父親が捕えられ 市中を引き廻されたことは既に知っている
だからこそ 決して引き下がれないタンギセであった
何としても城門を突破し “家族”を助けねばといきり立つ!!!
同じ時
別の門からヨンチョルが護送されていた
大明殿の前には 次男タプジャヘの亡骸が磔(はりつけ)になっている
『今すぐ息子を下ろし埋めてやれ』
『まもなく市中に晒され 首を撥ねろとの皇命が下っています』
ヨンチョルは 息子の亡骸を見つめながら護送されて行く
かつては英雄として仰いだヨンチョルを 複雑な表情で見送るペガン
タルタルは もはや“英雄”ではなく “没落する敗者”に過ぎないという
そして感傷的になる叔父を 厳しくたしなめる
『叔父上は 必ず他山の石とならねばなりません!』
ひとまず地下牢に投獄されたヨンチョル
皇帝タファンは 婕妤キ・ヤンを伴い獄を訪れた
自分を殺せば それで国を治められるのか?と問うヨンチョル
『長いこと私に飼い慣らされた その無様な姿を すべての大臣が見ている
そんな大臣たちを 果たして従わせることが出来るのですか?』
こうして捕えられても尚 ヨンチョルの自信は揺らいでいない
自分こそが 今もまだ この国の権力のすべてを支配しているのだと…!
『従わぬ者はすべて殺します 誰であろうと 逆らう者はすべて!
その手始めとして まずはあなたの脳天に鉄槌を…!』
『……』
『飼い慣らした? なるほど確かに… しかし ならば…!
そんなあなたの 惨めな最期を見せつけるまでのこと! アッハハハ…!』
あまりに豹変したタファンの後姿を 忌々しく睨みつけ
一体どうやって手なずけたのかと キ・ヤンを怒鳴りつける
婕妤キ・ヤンは 皇帝を変えたのは自分ではなく丞相自身だと答えた
あまりに過酷な仕打ちを受け続け その憎しみが怒りに転じただけのこと
陛下自らが 憎しみを怒りに変え強くなったのだと…!
さらに婕妤キ・ヤンは マハ皇子がタナシルリの実子ではないと告げる
どこかの捨て子を拾って来て いかにも産んだように見せかけ皆を騙した
つまりは 見ず知らずの捨て子にすべてを受け継ごうとしていたのだと!
『そんなことが信じられるものか!』
『信じるかどうかが問題ではない! 事実は事実なのだ!
まったく赤の他人のマハ皇子が希望だったなんて 笑える話ですね
どこかの捨て子が希望なら あとは絶望しかないでしょう! アッハハハ…!』
謀反が失敗に終わったことより 自身が捕えられ投獄されたことより
マハの出生の秘密こそが ヨンチョルの心を粉々に破壊した
タンギセは 少ない兵をさらに失い 惨めに敗走していた
おそらく向かう先は 秘密資金の隠し場所である鉱山の廃坑だろう
ワン・ユは 少し様子を見ようという
秘密資金を奪う時機を間違えば 元に没収されるだけだと…!
鉱山では
ヨム・ビョンスが タンギセの一行を迎えていた
マクセンは 極僅かの兵と傷だらけのタンギセを見て
丞相が捕えられたのではないかと推察する
タンギセは 秘密資金の隠し場所を 具体的に知らされてはいなかった
しかし この鉱山近くの廃坑であろうと睨んでいる
確実には把握していないのだと分かり ビョンスの口元が緩む
日が暮れたらすぐに兵を率い 廃坑に向かうというタンギセ
秘密資金で軍を作り 大都を攻めると聞き 明らかに表情が曇るビョンス
そして廃坑へは 兵士ではなく奴婢の一団を向かわせる
その中には マクセンの姿もあった
一方 大都では
大明殿において ヨンチョルの処刑が始まろうとしていた
冷宮のタナシルリは 父の処刑が今日だと知り 嘆きのあまり気絶する
ヨンチョルは 処刑を前にしても 周囲に対し熱弁を揮う
タナシルリに代わり やがてはキ・ヤンが皇后となるだろう
しかし敢えて忠告するなら この女こそ遠ざけねば国が滅びると…!
『高麗(コリョ)の女が産んだ子を この大元帝国の皇帝に?!
さすればこの国は 高麗(コリョ)の血が受け継ぐことになる!
果たしてそれでよいのか? この高麗(コリョ)の女にすべて奪われるぞ!
皇太后! この丞相を貶めた女が 皇太后を貶めないとでもお思いか?
陛下! 今度はこの女に操られ またしてもお飾りの皇帝に?!』
『黙れ!黙らせよ! 早く刑を執行するのだ!!!』
ヨンチョルに後ろから縄をかけ 絞首の刑を執行したのはペガンであった
最期の熱弁に 一同驚愕したものの 目をむきもがき苦しむ姿に息を飲む!
皇太后はハラハラと涙を流し 皇帝タファンは瞬きもせず ただ見つめている
死刑を執行するペガンは かつての英雄が絶命する瞬間を
やはり涙なしには受け入れられなかった
最期の最期に “高麗(コリョ)の女”と名指しされたキ・ヤンは
血の涙が出そうなほどに目を見開き その死に顔を睨んでいる
(丞相よ よくぞこの先の道を示してくれた!
ならばそのように! この“高麗(コリョ)の女”がすべてを奪う…!
いずれは我が子を皇帝にし この国を意のままに操ってみせようぞ!!!)