ミセン~未生~ 第2局
真夜中のオフィス
パソコンに向かう グレの姿があった
作業の途中で却下された“自分なりの分類”を完成させ
どうしても オ課長に認めさせたかった
分かりやすい分類こそが 効率的に活用できると証明したかったのだ
明け方 サウナに行く
塩辛にまみれたまま 酷い姿で徹夜したグレ
幸いというべきか… 母親が届けてくれたスーツは台無しになったが
帰宅せずとも 着替えがあったことはありがたかった
サウナ帰りのエレベーターで アン・ヨンイと一緒になる
ヨンイは 上着のポケットに突っ込まれたネクタイに気づく
ここは服装には厳しいと言われ 自分では結べないと答えるグレ
無言でネクタイを受け取り 自分の首にかけ手早く結ぶ
エレベーターの扉が開くと同時に ネクタイを渡し足早に行ってしまう
グレは あっという間の早業に お礼を言う余裕もなかった
営業3課では
グレのパソコンの前で キム・ドンシクが唸っていた
なぜ問題点を教えてやらないのかというドンシク
いずれ辞めていく者に 何を教えろと?
オ課長の判断は そこにあった
育てたところで長居はしないだろう
ならば教えても無駄なことだと… それがすべてだった
戻ったグレに 努力の“量”は証明されたとだけ言い渡す
課長オ・サンシクは無駄だと言ったが キム・ドンシクは割り切れない
チャン・グレを呼びつけ “素晴らしい分類の問題点”を指摘した
なぜ課長のフォルダを無視したのか
この資料は 社内全体が閲覧するものだ
フォルダは会社のマニュアルであり 全員の決定事項だ
そこから逸脱すると あとで見る人が混乱するのだと
そうなのか… と思うしかなかった
グレはこれまで 自分だけの世界で闘ってきた
さまざまな課に分かれていても 仕事はすべて共同作業だというドンシク
“共同作業”という概念が グレの中にはない
常に対局の相手は存在するが 基本は自身との闘いとなる囲碁の世界
グレは 踏み込んだことのない世界の前に 立ち尽くす思いがした
その意味で言えば 課長オ・サンシクもまた然りである
営業本部長キム・ブリョンに呼び止められ 週末の予定を聞かれる
チェ専務との山登りに誘われ 週末は予定が… と答えるオ課長
徹底して派閥入りを拒む オ・サンシクの信念は揺るがない
万年課長の憂き目に遭う部下を 何とか引き上げたいブリョンだが
本人が こうまで意固地では 取り成すことも容易ではない
オフィスに戻ると 隣の課では キム・ソッコが絞られていた
営業2課課長コ・ドンホは ソッコの仕事ぶりに堪忍袋の緒が切れた
気持ちを鎮めようと 屋上へ向かうドンホを サンシクが追いかける
いくらインターンに苛立っても 3課よりはマシだというドンホ
『チャン・グレが 誰のコネか知ってるのか?』
『誰なんだ?』
『…専務だよ』
同じ時 グレは オ課長の言葉に傷ついていた
どうせいなくなる人間に 教えても仕方がないという言葉が…
インターン社員の間では“プレゼン”の話題で持ち切りだった
互いにパートナーを決め 組になってプレゼンをする
その後で 個人のプレゼンもされるが 誰と組むかは重要だった
プレゼンの評価により 正社員として採用か不採用か
あるいは どの課に配属されるかが決定される
休憩室のシュレッダーを使っているグレに チャン・ベッキが声をかける
相変わらず グレをからかうサンヒョンたちを一瞥し
ああはなりたくないと呟くベッキ
いくらチャン・グレの経歴を蔑んだところで
採用されなければ 結局は同じことだと…
グレはベッキを追いかけ ああならないためには何をすべきかと問う
『さっきのは冗談だよ 真剣に考えないで
別に採用されなくたって ここだけが会社じゃない
まずは… プレゼンのパートナーを捜すことだ』
『……また“共同作業”…か』
『え?』
グレはうんざりしていた
仕事=共同作業という構図に どうしても溶け込めない自分がいる
課長オ・サンシクは グレを無視し続けた
営業2課長コ・ドンホの言葉が引っかかる
チャン・グレが 専務のコネだとすれば なぜここに配属されたのか…
配属に思惑はなさそうだと言っていたが…
グレの能力を見ても “監視役”が務まるはずがないと
「意図があったとしても ただの嫌がらせだろう
人手不足の3課にあんな人材を…
紹介を頼まれて 何も考えずに配属したんだ」
無断でグレに仕事を教えるドンシクを叱り ここは研修所じゃないと怒鳴る
戸惑って固まるグレに 昼食にしろというドンシク
社食が煩わしく 最近は 屋上でパンをかじるグレ
それにしても オ課長の態度は目に余る
仕事は共同作業だと言ったくせに なぜここまで無視するのか…!
『共同作業じゃないんですか!!!』
空に向かって叫んだはずが… 中庭の連絡通路を行くオ課長が振り向く
キム・ドンシクも一緒に 屋上を見上げている
咄嗟にうずくまり隠れるグレ!
一方 チャン・ベッキは アン・ヨンイにパートナーの話題を振る
ヨンイは ベッキにパートナーを頼みたかったが 話を逸らすベッキ
3課に顔を出したヨンイが まだ決まらないと聞き
勇気を振り絞り 僕と… と切り出すグレ!
思いがけない誘いを まさかと思い聞き流すヨンイ
じっと見つめるだけで 返事を聞く前に心が折れてしまう
ずっと渡せなかったヘアゴムを 今度こそ渡せただけだった
そんなグレの周囲が 変化し始める
あんなに敬遠していた同期たちが 何かにつけて気にかけてくれる
好意的に話しかけ お菓子の差し入れがデスクに積み上がっていく…
何かが変だ… 何なんだ?
グレは 突如として人気者のような扱いをされ戸惑う
(それにしても 誰も誘ってこない…)
アン・ヨンイは パートナーは誰でもいいと思っていたが
誰も 一緒にやろうとは言ってこなかった
そこへ イ・サンヒョンが来て 組もうと言う
自信たっぷりのサンヒョンは 待っても誰も誘ってこないと言い放つ
『なぜ?』
『デキ過ぎの君と組もうなんて 誰も考えないよ
結局は 君の引き立て役になるだけだろ だから 俺とやろうぜ!』
(…そういうこと?)
そこでヨンイは さっきのグレの言葉を思い返す
グレを呼び出し 今度はヨンイの方から組まないかと切り出した
浮かれるグレに釘を刺したのは 代理キム・ドンシク
なぜ今 人気者のようになっているのか… 現実を突き付けた
つまりはグレが“便利な存在”だからだと はっきり言ってのけた
『パートナーが揃って合格することがベストだ
でも それが無理なら…“爆弾”と組めばいい』
『“爆弾”…ですか?』
『落ちるにしても “爆弾”と組んだからだと言い訳が出来る
受かるにしても チャン君は引き立て役になるし 都合がいいってこと
とにかく 近づいてくる奴はそういう考えだと思え』
一瞬でも… 状況が好転したと思った自分が恥ずかしい
“仲間”として 受け入れられたわけではなかった
こんなにも多くの人間が働く中で グレは孤独を噛みしめる
誰の笑顔も 誰の言葉も嘘っぱちだった
言い知れない“疎外感”に 押し潰されそうになる
たまらなくなり 持ち場を離れる
その変化を 課長オ・サンシクが見つめていた
“仕事は共同作業”だと言っていたのに…
ひとり放置され 何も教えられず…!
グレは 思いのすべてをぶつける
頑張る機会が欲しいと訴える…!
オ課長の答えは明快だった
この会社を受けるため みんな必死に闘ってきた
そこへ 何の資格も能力もない者が コネ入社で入って来る
それが“現実”だと…
『俺は“現実”なんかに流されたくない』
容赦ない言葉に 打ちのめされるグレ
課長オ・サンシクは 非情なまでにグレを無視する
その瞳の奥に 沈痛さを滲ませているが 必死に隠しているようにも見える
隣りの2課では 今日もキム・ソッコが怒鳴られている
仕事が遅く ミスを連発するばかりか 居眠りまで…!
チャン・グレは 裏紙に領収書を貼れと命じられる
ドンシクが 今のグレに与えられる仕事は この程度のことだったが…
『おい 何を裏紙にしてる? 起案書はダメだ
何でもかんでも裏紙にするんじゃないぞ!』
『は…はい』
総務へ行くグレと入れ替わりに キム・ソッコが入って来る
2課の備品庫は施錠され 気軽に備品が使えない
提出書類を急がされたソッコが グレのデスクの糊を借りる
仕事が遅い上に やることのすべてが雑な男である
グレのデスクで書類を糊付けし さっきの起案書を重ね持って行ってしまう
それからしばらくして チェ専務が3課を訪れる
突然の来訪に 慌てて席を立つ一同
秘書が 無言のまま 1枚の書類を差し出す
ロビーに落ちていたというその書類を なぜチェ専務が?
書類を見たキム・ドンシクが凍りつく…!
裏紙にしてはダメだと あれほど言ったのに
チャン・グレが 領収書を貼ろうとした“起案書”がなぜ?!
情報漏洩については どの課も厳しく通告を受けている
企業秘密とも言える“起案書”が あろうことかロビーに…!
さらには運悪く チェ専務がそれを拾ったようだ
微笑みを浮かべながら チェ専務は立ち去った
うなだれるチャン・グレ
キム・ドンシクは オ課長に無視されるグレを気にかけ
些細な仕事でも割り振るよう 配慮を重ねてきた
しかし… こういうミスが起きるならば
やはり オ課長の判断が正しかったのかと思わざるを得ない
『今すぐ出て行け!!!』
フロア内に響くほどの大声で グレを罵倒するオ・サンシク
静まり返るフロアで オ課長の次の言葉に注目が集まっている
『これだから機会はやれないんだ 資格が無いからな!
何してる 出て行けと言ったはずだ!!!』
見かねたドンシクが グレを屋上へと連れ出す
もう グレにかけてやるべき言葉もない
新人だから 未経験だから 無資格だから…
それで許されるミスの範疇を はるかに超えていた
情報漏洩という重大さすら チャン・グレには理解出来ないだろうと
日が暮れても グレはオフィスに戻って来ない
重い空気が流れる中 営業2課に歓声が沸き起こる
キム・ソッコが 20億ウォンの受注を決めたと…!
深いため息で 隣の歓声を聞くオ・サンシク
ふと デスクに置かれた“起案書”に目をやる
チェ専務が拾ったという“起案書”
その起案書のサインを見ると… キム・ソッコの名が…!
喜びに沸き立つコ・ドンホが オ・サンシクをタバコに誘う
仕事が遅くミスも目立つが やることは丁寧だと絶賛する
あんなにけなしていたソッコを 掌返しで誉め立てるドンホ
『長男だからと早くに結婚させられ 歳をくってからの入社だ
年齢的には 代理になってもおかしくない
妻子を養うため 何が何でも今回は採用されなければならない』
そんな事情だから 頑張らせたいというドンホ
おそらく“起案書”は キム・ソッコの不始末だ
しかし 今はそれを持ち出す空気ではない
屋上でランニングを続けていたグレが フラフラになって戻る
そこへ 見知らぬ青年が現れ 親し気に声をかけてきた
繊維2課のインターン社員ハン・ソンニュル
本人たっての希望により 蔚山(ウルサン)の工場で勤務しているという
初対面で いきなりパートナーにならないか?と誘って来る
見るからに遊び人の風貌で お調子者のキャラを隠そうともしない
さっきまでランニングしていた屋上へ行き 話だけでも聞くことに
課長オ・サンシクは 証拠となる起案書を シュレッダーにかけていた
歳をくった妻帯者のキム・ソッコは れっきとしたインターン社員
たとえ無実でも チャン・グレが生き残れる可能性は 限りなくゼロだ
そんなグレの無実を証明するより ソッコの未来を守るべきだと
屋上では
ソンニュルの 自信過剰なまでの自画自賛が始まる
いかに自分が有能か そして採用はもう決まったも同然の立場だという
熱く語るソンニュルを置き去りにし グレはオフィスへ戻る
(採用されたも同然だから 無能の自分をパートナーに?)
なぜこうもうんざりすることばかり続くのか
グレは 何もかもがどうでもよくなっていた
デスクに戻り 大したことはない私物と荷物を持ち 深々と一礼する
キム・ドンシクが『何のマネだ!』と怒鳴る!
それを止めたのは オ課長だった
ドンシクの やりかけの仕事を中断させ 『飲みに行くぞ!』と叫ぶ
自分には関係ないことだと 最後まで無視されながら 帰ろうとするグレ
『何してる! 飲みに行くぞ! お前も来い!!!』
『え?』
聞き間違いでなければ グレも誘われている
ドンシクも 行くぞ!と目くばせし さっさと行ってしまった
オ・サンシクは まるでひとり飲みしているかのように手酌で酒を煽る
何も 2課に実績を挙げられて悔しいわけじゃないと
確かに悔しい思いはあるが だから酔っているんじゃないという
『こいつの分類は分かりやすかった! あれならみんなが納得する
合理的で! 効率的で! しかし使えない!!!』
唐突に グレを褒めるサンシクに 2人とも面食らう
そして最後にサンシクは 『こいつは無実だ』と呟いた
直属の部下ドンシクにも 今回の当事者グレにも
それ以上を語ることは出来なかった
しかしそれでも グレを庇わずにはいられないサンシクだった
何がどうなっているのか分からないまま 酔いつぶれた上司を介抱する2人
もう飲めないだろうと サンシクを抱え店の外に出る
すると向こうから 2課の連中が上機嫌で歩いて来た
大型契約で祝い酒に興じた一行と やらかしてヤケ酒を煽った一行
コ・ドンホは 浮かれ気分でサンシクに慰めの言葉をかけた
『これだけは言っておく もう備品を借りに来させるな』
『何なんだ? 俺の手柄が不満か? 不愉快なのか?!』
オ・サンシクとコ・ドンホは 決して仲が悪いわけではない
互いに 課を率いる長として切磋琢磨してきた
だからこそサンシクは シュレッダーに“証拠”を飲み込ませたのだ
『お前の部下に 備品を自由に使わせろ!』
『お前の課に関係ないだろ!』
『お前の部下に貸したから うちの奴が怒られただろ!!!』
『何でこいつは備品くらいで騒ぐんだ!!!』
互いに泥酔している2人は 子供のケンカのように怒鳴り合う
しかし キム・ソッコだけは気づいた
『チャン君 ごめん!』
祝い酒の酔いも醒め ソッコは グレに向かって深々と頭を下げた
グレは 状況を把握し切れないまま茫然としていた
課長オ・サンシクの “うちの奴”という言葉だけが心に突き刺さる
出社初日も 長い一日だったが 2日目の今日も過酷だった
チャン・グレだけでなく すべての社員に帰宅後の“日常”があった
独り暮らしのねぐらに帰る者
泥酔し 寝静まった子供たちを起こし 妻に小言を食らう者
戦場のような激務に立ち向かい 守るべき家族のもとへ帰る者
グレは オ課長の言葉を何度も思い返し “共同作業”の意味を噛みしめる
“うちの奴”という“居場所”が出来たことは この上ない喜びだった
翌朝
チャン・グレは 真っ直ぐに繊維2課へ向かう
ハン・ソンニュルの パートナーの申し出を受けると決めたのだ
グレの表情は これまでになく自身に満ち溢れ そして積極的だった