今朝の「朝日新聞デジタル」で、「シートベルト、締め付け緩和 国交省基準、圧迫程度2割低減へ」
という見出しの記事があり、内容は「車に乗車中の人が死亡する事故で、致命傷となる部位は近年、「頭部」よりも「胸部」が多くなっている」。
「シートベルトは事故の衝撃がかかると強く締まって体を守る。その締め付けで骨折したり、内臓を損傷したりすることがあるという。」
「エアーバックが普及し、近年の新車には標準装備されているため、頭部の損傷が減少。シートベルトで強く締め付ける必要はなくなってきたため、国交省は性能基準を見直すことにした。具体的には、事故時の締め付けなどによる胸部の圧迫の程度を現行の8割まで低減し、衝撃時にも安全に体を守れるようにする。」
この記事を要約すると、乗員の致命傷となる部位は近年、「頭部」よりも「胸部」が多くなっているということで、エアーバックの普及もあり衝突時のシートベルトの締め付けを強くする必要はなく弱くすると言っている。
確かに、高齢者も増えて骨折したり、内臓を損傷したり、そういうことが起こりやすいかもしれない。
しかし、衝突時のシートベルトの締め付けを弱くする対応で、今度は「頭部」の致命傷が増えるかもしれない。
そんなに、エアーバックの衝撃吸収力に「余裕」はあるのか?
今度は頭部に大きな損傷のでないようなエアーバックにしていく必要が出てくるかもしれないし、ボディ構造も見直しが必要になるかもしれない。
つまり、ベルトの拘束力だけの問題ではなく、「波及」があるのではないだろうか。
しかし、「高齢者は圧迫に弱くそれを救えば、若い人も含めて多くの人に良いはずだ。」
ということだと思う。
それは良い事だが、事はそう簡単では無いと思う。
自動車はある衝突基準にそったテストモードでシートベルトやエアーバックなどの拘束装置の設計をしている。勿論できるだけリアルワールドの事も考えているが。
そうやって作られている拘束装置のシートベルトの部分だけを取り上げて、リアルワールドのデータから、拘束力を弱めるというのが今回だ。
そもそも、リアルワールドでの事故状況を詳しく検証し(「スピードの出し過ぎ」などで終わらない事故検証)、そのデータを多く集め、テストモードに反映して、自動車開発技術者はそのテストモードとリアルワールドを勘案しながら、テストモードの改善や新技術開発していく。という順になると思うのです。
胸部の圧迫はシートベルトの締め付け力もあるが、基本は衝突による衝撃で乗員の体が慣性の法則で前方に行こうとするのを食い止めるから胸部の圧迫が起こる。
その圧迫を少なくするために、フォースリミッターやロードリミッターというベルトの拘束力を少し緩める機構が付いている。
つまり、乗員にかかる衝突エネルギーは、ボディの潰れ方(エネルギー吸収を考えた潰れ方)、エアーバック、シートベルト等を中心にして乗員に伝わる。
衝突エネルギーは極短い時間で乗員に伝わる。
衝突した時から出来るだけ早く乗員を拘束するために、ベルトは乗員の体にピッタリとくっついている必要があるが、そうすると普段の運転に煩わしさが出る。
よって、普段のベルトはそんなに乗員の体にピッタリとせず、衝突時に瞬時にピッタリとなるように「プリテンショナー」という、シートベルトを巻き取る装置が殆どのクルマについている。
これは、エアーバックと同じように「爆発」させて作動さすために「瞬時」だ。
これで、衝突時にだけシートベルトをシッカリと乗員の体にくっつけ(当然この時点で胸の骨がおれたりすることはない)、衝突の衝撃をうけ、結果乗員の体に大きな負担の掛かかりはじめると、フォースリミッターで今度はベルトの巻取り力を緩める。
また、頭部はエアーバックでなるべく長い時間をかけて衝撃を吸収する。
つまり、今のクルマはシートベルトとエアーバックの合せ技で、なるべく乗員へかかる衝撃を緩和している。
しかし、衝突速度が想定より高くなってくると、フォースリミッターの限界を超えてしまう。
自動車の衝突時のコトを語る時には、あるテストモードでの衝突とリアルワールド(現実の、実際の)での衝突は異なるということを理解しておかないと変なことになっていくと思うのです。
つまり、ボディからエアーバックやシートベルトなどは、リアルワールドでのコトを想定した、あるテストモードでの対応であって、リアルワールド全てに勿論対応できません。
リアルワールドでは、正面衝突やオフセット衝突、斜め衝突・・・しかも、一度は斜め左が衝突し、次は右後ろが衝突したりと複数回衝突するかもしれません。
テストモードはできるだけそれらを勘案してつくられています。
リアルワールドがこうだから、シートベルトの拘束力の設定をどうする・・と言うのは、一足飛びすぎるのではないでしょうか。