繁浩太郎の自動車と世の中ブログ(新)

モータージャーナリストとブランドコンサルタントの両方の眼で、自動車と社会をしっかりと見ていきます。

世界に誇れる「技術の日産」再生のキー

2020-04-03 15:26:04 | 日記

世界的に新型コロナウイルスの影響は大きいが、2018年末のゴーン氏の逮捕に始まり、北米の不振、新しい経営体制のトップの転職、さらになど日産自動車にとって負のニュースが多い。

自動車産業は言うまでもなく日本の基幹産業であり、日産の行末は日本人共通の関心事だ。そこで日産の今後を私なりにマーケティングの見地から考えてみた。

 

  • 厄介な、日本企業の共同体体質

さて、ルノーから来たゴーン氏はご存知のように日産再建の立役者だった。多くの日本の企業は体質課題に対して、なかなか自浄作用が働かない。内部で「これではだめだ」と分かっていても、現状の事情や都合が優先してしまい、また共同体意識を重んじて効果のある対策が行われにくい。

高度成長期に成長した多くの製造業が大企業病から抜け出せずにいるのも、体質改革の難しさを物語っている。

 

  • 日産自動車の体質

ルノーからゴーン氏がきた頃、日産の体質課題は次のように大きく2つあったはずだ。

①魅力的な商品を開発する体質

②高コスト体質、後追い体質など共同体意識による硬直化した体質

ゴーン氏は日本の共同体意識に引きずられることなく、強力なリーダーシップで改革に取り組んだ。その結果、②は改革され、結果的に大きな収益を生み出せるまでになった。

一方、①に関しては、バブル以降の日産は、商品の本流トレンドをリードするような商品は少なく、フォロワー商品や支流の商品が多かったように思う(図-1参照)。

 

その中で、「ムラーノ」などは北米向けとして開発され、サイズもデザインも良く、北米のSUVトレンドをリードした。SUVカテゴリーは本流トレンドに乗って成長し、他のメーカーも多くのSUV商品を投入した。しかし、トレンドをリードしたはずのムラーノはモデルチェンジ毎にどこでもありそうな普通のSUVになっていった。その結果、初代ムラーノのブランドは薄れ、大きく育てられなかった。

 

  • マーケットの本流商品の開発

ブランドキープのいい例はフォルクスワーゲン(VW)「ゴルフ」だ。そのデザインは、大量販売という使命を背負いながら開発されるため、時代の先端を行くようなデザインによって先行層を狙うというよりは、フォロワー層の価値観に響くデザインをしている(図-2参照)。

基本的にデザイナーが腕を振るうというよりも、むしろデザイナーの存在を感じさせないようなスッキリとしたセンスの万人向けデザインだ。また、毎回のモデルチェンジに、少しずつ進化させている技は素晴らしい。

 

さて、クルマ商品は、本流カテゴリーと支流カテゴリーに大きく分かれると考える(図―1参照)。支流カテゴリーでチャレンジした商品から、次の本流カテゴリーへと成長する商品の企画は、それが成功すれば大きな先行者利益を得られるが、なかなか狙って出来るものでもない。

やはり、本流のカテゴリーでその先を行く商品企画を成功させることが大切だ。

日産には、グローバルで本流トレンドをリードする商品は少ない。特に、収益源のはずの北米市場では現状は古いモデルが多い。またムラーノの例からみると、商品ブランドを育てることは不得手のようだ。ゴーン氏はもちろん、魅力あるデザイン/技術の開発にも力を入れたようだが、多くの人が「コレは良い」というような本流トレンドの先の商品は生まれなかった。

チャレンジしていた商品の多くは支流で、本流のカテゴリーや本流の商品に成長しなかった。

つまり、トレンドを先取りする先行層(クルマ好き層)に受け入れられ、徐々にフォロワー層に広がるというマーケットをリードするような商品はなかったということだ。

 

  • 日産自動車のEV戦略(技術の軽視)

①の改革が進まなかった理由の一つに、ゴーン氏がEVにのめり込んだこともあるのではと考える。私はこのゴーン氏のEVの取り組みについて、単に「トヨタのHEV」に対する「日産のEV」という図式でなく、ゴーン氏が環境問題を事業戦略として、平たく言うと、近い将来への投資として考えていたのではないか?と想像する。結果は車載電池の技術はまだ革新せずに、EVは未だに本流の商品になっていない。

一方、トヨタやホンダはその生い立ちやマスキー法時代のホンダCVCCの件からも分かるが、戦略の核に「技術」があり、環境問題を技術戦略として捉えていたと思う。両社共にEV(電池)の研究は早くから取り組んでおり、電池の技術開発が難しいことはよく知っていた。一方、ゴーン氏はEVの電池技術は今後開発すればよいと簡単に考え、商売から戦略を考えたのではないか?

こうして、「技術の日産」ブランドはさらに崩壊していく。

しかし、商品・技術と経営とを両方出来る人はなかなかいない。

 

 

  • 日産自動車の改革手法

このような事から日産の今後を考えると、②ももちろん大切だが、①の改革(技術+デザイン=商品)が優先されるべきだ。

現在、日本における日産の主なライナップをみても、マーケットをリードする商品はない(図-3)。

 

 

トヨタにはもちろん「プリウス」があり、「アクア」もSUVもと全方面的だ。ホンダは、「N-BOX」が軽マーケットをリードするブランドになったが、ハッチバック車をリードしていた「フィット」は自滅した。ただ、北米市場に「シビック」「アコード」「CR-V」などの柱になる本流商品があり安泰だ。

日産は「ノート」などに追加した「e-POWER」が国内では好評だが、北米市場で柱となれる本流をリードする商品がない。ちなみに、ノートはフリーウェイの利用が多い北米の走り方では、価格の割に燃費メリットが出にくいので販売できない。

柱となれる本流をリードする商品を生み出すには、技術とデザインの両輪でマーケットをリードする魅力的な商品を創れる開発体質がマストとなる。

 

  • 体質改革は「外の人」?

ゴーン氏がいなくなった日産はまた過去の体質に戻るのではないかという懸念を持つ人は多い。自浄作用が難しい日本の企業の体質改革〜成長には、ゴーン氏の例をみても分かるように、外部からのリーダーが良さそうだ。

昨年話題になった「ノーサイドゲーム」というラグビーチームの成功を描いたテレビドラマがあったが、得意分野を棲み分けた優秀なリーダー2人と潜在的に優秀なプレーヤーがいた。これを踏まえると、リーダーはやはり技術と商売との二人体制が良いのかもしれない。

 

企業が成長していくには、もちろん、プレーヤー(開発者)がお客さんに喜ばれることを目的として良い仕事をすることが大切だが、経営者はそのためのリーダーであるととらえることが必要なのだ。

ぜひ、日産には「技術の日産」という素晴らしいブランド・コピーのように、技術革新を基本に本流をリードする商品を生み出す開発体質を造り、私たち日本人が世界に誇れるブランドに成長してほしいと思う。

なぜなら、私の青春時代に技術の日産は輝いていて、こういうクルマを創りたいという夢をも私にもたせてくれたブランドだった。

サニー1200GX5(クロスレシオ5速)、チェリーX1、ブルーバードSSS,・・・。