サードウェイ(第三の道) ~白井信雄のサスティナブル・スタイル

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パッシブなエネルギー利用

2014年04月06日 | 気候変動緩和・低炭素社会

パッシブなエネルギー利用とは?

 

 再生可能エネルギーの利用の仕方には、アクティブ(能動的)な利用とパッシブ(受動的)な利用がある。アクティブな利用は技術や設備を使って、より積極的に再生可能エネルギーを利用するものをさす。

 

 太陽光発電は太陽光の持つエネルギーを、パネルを使って電力に変換するもので、まさにアクティブな利用である。風力や小水力、バイオマス発電もエネルギーを電気に転換するもので、アクティブな利用である。太陽熱温水器や太陽熱給湯システムは、熱を熱のまま利用するが、設備を利用するため、アクティブな利用である。

 

 これに対して、パッシブなエネルギー利用は、設備を使わずに、住宅の構造や住まい方の工夫を補助することで、再生可能エネルギーの利用を図る。自然風、昼間の太陽光、太陽熱(日射熱)を家の中に取り込んで利用する。

 

 また、OMソーラーシステムと呼ばれる技術では、住宅の構造で、自然採光や太陽熱利用の工夫を行うだけでなく、夏は屋根にたまった熱を屋内に取り入れて循環させたり、夏は家の中の熱を屋外に逃がすために、送風機を使って空気を循環させる。この技術は、パッシブなエネルギー利用を送風機という設備を使って、補助していることになる。アクティブとパッシブの中間型ということができる。

 

 パッシブな利用は、伝統的な日本家屋では元々、行われてきた。和紙で張られた障子は太陽光を完全に遮断せずに、屋内に取り入れるものである。縁側廊下は、屋内と屋外の中間にあって、太陽熱の取り入れを調整する仕組みでもある。

 

 京都の町屋では、入り口が狭いものの、奥に細長く敷地が取られる。この敷地の中に中庭が取られ、植栽が施される。中庭は、建物の奥の方の自然採光を図るものであるとともに、屋内に風を流す仕組みである。中庭では、植物や土による蒸発散により空気が冷やされる。中庭と入口の間に風の通り道をつけると、入り口では熱くなって軽くなった空気の上昇気流が発生し、中庭では冷えて重くなった空気が屋内を通って、入り口に抜けていく。この効果を促すために、中庭に打ち水をまくこともされていた。

 

パッシブなエネルギー利用のための住宅設計

 

 自然通風、自然採光、自然採熱のいずれにせよ、開口部(窓)を上手く、配置することが必要となる。敷地が広く、周辺環境にも恵まれた住宅では、窓の設計は容易ですが、建て込んだ都市部等ではこの窓を上手く設置することができない。

 

 そこで、様々な工夫が必要となる。自然通風においては、窓が十分にとれない場合に、サンルームや出窓、あるいは天窓を設け、風上側面に窓を設けることで、屋内に取り入れる。こうした取り入れ手法をウインドキャッチャーと呼ぶ。自然採光においても、天窓や側窓で光を取り入れ、間接光で屋内を明るくする工夫がある。

 

 屋内に取り入れた風、光、熱を上手く、屋内全体に流す工夫も必要となる。このためには、屋内の間仕切りを少なくしたり、2か所以上の窓の配置を工夫して、風の通り道を作る。また、吹き抜けにして、上からの光を下に落としたり、壁で光を反射させて光の通り道をつくる。

 

 熱については、取り込んだ熱が外に逃げないように、窓ガラスや窓枠の断熱性能をよくしたり、昼間の熱を貯めて、夜間に放熱させるような工夫がある。

  

パッシブなエネルギー利用の特徴

 

 パッシブなエネルギー利用は、住宅の構造やちょっとした設備によって行うもので、太陽光発電等のようなアクティブなエネルギー利用と比べると初期投資や維持管理・運転費用が安くつく。

 

 また、外気を取り入れることで、屋内の換気や調湿ができる。屋内空間はできるだけ開放するため、密閉された居室よりも温度差が少ないというメリットがある。室間の温度差は脳卒中等の原因になるなど、健康面で重要な側面である。

 

 住宅内の熱環境の専門である荒谷登先生は次のように書いている。

 

 「窓から入射する太陽エネルギーには、光として室内に明るさと活気を与えるだけでなく、戸外からのさまざまな情報とともに、移り変わる風景の彩りや時の経過を知らせ、植物を育て、花を咲かせ、健康を維持し、最期に熱として室温を保つなどの個性的で豊かな働きがあります。」

 

 窓を通じて、太陽エネルギー(あるいは風)を取り入れることは、室内からみれば外と直接つながっていることになる。密閉された空間での暮らしにない、視覚や聴覚、嗅覚、触覚等に刺激を与えてくれる豊かさや居心地の良さが、パッシブなエネルギー利用の最大の長所である。

 

 パッシブなエネルギー利用には弱点もある。特に、大都市では高層建築によって日照が遮られ、町の中の風の通り道も遮断されてしまう。町屋のような建築上の工夫を行うための敷地を確保することが困難である。また、ヒートアイランド現象により、熱くなった都市では、パッシブな利用をやっても、まさに焼石に水になりそう。大気汚染物質が心配な地域や花粉症に悩む人にとっては、自然通風は好ましくない場合がある。太陽光や太陽熱についても、隣家と密接したり、高層建築により日照条件が悪くなりがちな住大都市部では、利用が困難となる。

 

 このため、現在では、パッシブなエネルギー利用は、郊外や地方で、自然環境が近くにあり、周辺の土地利用の密度が高くなく、敷地面積も余裕をもって取れる場合の方が適していると考えられている。とはいえ、大都市部でも、自然採光に工夫した住宅や太陽熱の出し入れを行う設備をつけることは有効であろう。

 

〔参考文献〕

「京の町家に暮らす (別冊太陽―日本のこころ)」平凡社、2001年4月


国土交通省国土技術政策総合研究所・独立行政法人建築技術研究所「自律循環型住宅への設計ガイドライ入門編」一般社団法人建築・環境・省エネルギー機構、2012年5月

 

荒谷登「住まいから寒さ・暑さを取り除く 採暖から「暖房」、冷暴から「冷忘」へ」彰国社、2013年8月

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