サードウェイ(第三の道) ~白井信雄のサスティナブル・スタイル

地域の足もとから、持続可能な自立共生社会を目指して

飯田市民の環境配慮意識・行動の形成要因~環境施策等と社会関係資本に注目して

2011年10月24日 | 環境と教育・人づくり

1. 研究の背景

 

 環境負荷の発生源が不特定化・広範化している今日,環境問題の解決のためには,あらゆる主体への環境配慮の普及が求められる.地球温暖化問題では,チームマイナス6%と銘打ち,国民運動(キャンペーン)が進められ,クールビズの普及等において,一定の成果が得られた.さらに,2020年にGHG25%削減を合言葉に,省エネ機器・設備の普及等を進める国民運動も始まっている. 

  

 国の施策とともに,地域における普及啓発事業も活発になっている.普及指導員制度や家庭の省エネ診断,地域独自のエコポイント事業等が進められている.地方自治体では,生活者に近い目線から,地域に密着した普及啓発施策が可能であり,民生家庭部門の二酸化炭素排出量の削減において地域政策の役割が重視されてきた. 

 

 しかし,地域施策において重要なことは,普及を直接的な目的とした施策(いわゆる普及啓発施策)を実施することだけではない.地域における環境関連計画への参加や環境保全活動の協働等を住民の環境配慮意識・行動を変容させる機会とし,環境保全と地域づくり・人づくりを一体として捉えた取組みを時間軸で積み重ねることが重要である1).また,住民の意識・行動は,人間関係(社会関係資本)を基盤として,人と人の相互作用によって形成されると考えられることから,社会関係資本の形成を環境配慮の普及という観点から位置づけていくことが重要である. 

  

 関連する既往研究としては,環境配慮意識・行動の規定因を環境問題の認知と環境配慮行動の評価といった2つの側面で説明する研究や,環境配慮行動を類型化し,類型毎に基本属性やパーソナリティ要因との関係を分析した研究がある.社会関係資本と環境配慮意識・行動の関係については,環境心理学等の分野で研究が実施され,その関係性が実証されている. 

 

 しかし,地域における環境施策等が環境配慮意識・行動に与えた効果を測定した研究は十分に行われていない.例えば,環境省「環境と経済の好循環のまちモデル事業」では評価手法のガイドラインを作成し,地域における温暖化対策のハード及びソフト事業について,住民意識の変化等の効果測定を求めたが,十分に調査が実施されているとは言いがたい.また,環境施策等が活発に実施されてきた地域に密着して,地域における環境施策等と社会関係資本,住民の環境配慮意識・行動の関係の全体像を構造的に分析した例はない.

  

 以上の背景を踏まえ,本研究は,地域における環境施策等と社会関係資本が地域住民の環境配慮意識・行動の形成に与える効果に着目し,その検証を行うものである.

 

 

2. 研究の目的と方法

 

 

(1) 研究の目的

  

 飯田市における環境意識・行動の形成要因について,特に次の4点の解明を目的とした.なお,市民の環境意識・行動は,環境配慮行動全般を捉えるとともに,飯田市が近年,環境モデル都市の指定を受けて推進している地球温暖化防止あるいは太陽光発電の設置等に係る側面を中心に捉えることとした.

 

 a) 環境施策等の先進地として認められる飯田市において,市民の環境意識・行動はどのような実態にあるか.特に,市民の環境配慮行動の実施度は,全国平均と比べ,どのような実態にあるか.

 b) 飯田市において,これまで積み重ねられてきた先進的な環境施策等は,飯田市民の環境配慮に係る意識・行動にどのように影響を与えているか.

 c)地区公民館活動が活発な飯田市において,地区活動の程度を反映すると考えられる社会関係資本の程度の違いは,飯田市民の環境配慮に係る意識・行動をどのように規定しているか.

 d)a)c) を踏まえ,飯田市民の環境配慮意識・行動の規定要因は,環境施策や社会関係資本度を含めて,どのような構造で捉えることができるか.

 

(2) 研究の方法

 

 飯田市に住民サンプリングを依頼し,信州大学を実施主体として,アンケート調査を実施した.表-1にアンケート調査の実施概要,表-2に年齢別の回収数と発送数の比率(年齢別の回収率)を示す.

 

 年齢別の発送数は,全市からの無作為抽出であるため,年齢別の母集団の人口に全体の抽出率(1,500人/85,845人)を乗ずることで求めた.全体の回収率は52.9%である.年齢別の回収率でみると,50歳以上では60%を超えるが,20歳代では31.9%,30歳代では40.2%と,相対的に回収率が低い.

 

 アンケート調査結果に基づく分析は,上記(2)のa)d)に対応して,次のような方法で実施した.

 

 a) 環境省「環境にやさしいライフスタイル実態調査」により,高年齢層ほどに環境配慮度が高い傾向があるため,本研究においても飯田市調査の結果を年代別に集計し,年代別の差を分析した.さらに全国調査と飯田市調査より,年代別の環境配慮行動の実施状況の集計結果の差を求め,飯田市の環境配慮行動の程度を把握した.飯田市で実施したアンケート調査では,環境配慮行動の実施度について,環境省の全国調査と同じ設問内容とした.また,環境配慮行動の実施度の分析では,設定した行動項目の実施度の差を比較するのではなく,因子分析により行動の類型化を行い,行動類型毎の実施度の差を分析し,全体的な傾向を把握した.

 

 b)アンケート調査において,「これまで影響を受けた環境施策」を選択してもらい,その結果をもとに住民への影響度が高い環境施策等を抽出した.抽出した主な環境施策について,その影響有無と環境配慮行動の実施度,地球温暖化に関する解決意図あるいは行動意図,太陽光発電の設置意向,市民共同発電事業への出資意図の関係の有意性の検定を行った.環境施策等の影響有無は名義尺度であり,それとの関係を分析する変数が連続尺度である場合はt検定,順序尺度である場合はMann-Whitney 検定を行った.

 

 c)Putnamは,社会関係資本を結合型(bonding)と橋渡し型(bridging)2つに分類した.結合型社会関係資本は家族や近隣等の同質性が強い結びつき,橋渡し型社会関係資本は組織や地域を越えた異質性を結びつける .この2つの類型があることを前提にして,アンケート調査における社会関係資本に関する測定項目とした.アンケートの回答結果の因子分析により,社会関係資本に関する測定項目が想定した2つに類型化されるかどうかを確認したうえで,b)と同様の方法により,社会関係資本と環境配慮行動等の実施等の関係を分析した.ここでは,地域における社会関係資本の程度ではなく,社会関係資本への個人の接続の程度を測定している.以下,本研究における社会関係資本に関する設問あるいは変数は,すべて個人の社会関係資本への接続の程度を示している.

 

 d) b)とc)分析を統合化するために,パス解析を行った.パス解析により,変数間の相互影響や複数の影響経路,全体構造を捉えることができる.パス解析を行うモデルは,b)とc)の結果を踏まえて設定し,解析の結果,適合度を基準として,モデルの修正を行い,影響構造を示す適合度の高いモデルを決定した.

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