岩手の酒「菊の司」生酛純米
侘輔 今日は岩手の酒を紹介したいと思うんだ。
呑助 岩手ですか。岩手というと「南部美人」なんていう銘柄の酒がありますね。
侘助 「南部美人」。記憶に新しいところでは、東日本大震災でほとんど被害を受けることがなかったが、災害に負けることなく酒造りを頑張りますというメッセージがうけ、いつもの年より大幅に酒が売れたという記録をつくった蔵かな。
呑助 「南部美人」は岩手のどこにある蔵ですか。
侘助 二戸にあるんだ。
呑助 今日、楽しむ酒は何ですか。
侘助 「菊の司」という銘柄のお酒なんだ。盛岡にある酒蔵だ。一五代続く、二百五十年の歴史をもつ酒蔵のようだ。
呑助 岩手は南部杜氏の地元ですよね。
侘助 今、一番大きな杜氏組合が南部杜氏会かな。
呑助 今日、唎く酒の造りは何ですか。
侘助 「生酛造り」かな。
呑助 「生酛造り」とは、江戸時代から続く昔の酒造り方法でしたよね。
侘助 そうなんだよね。今造られている酒の大半の造りは何と言うんでしたっけ。
呑助 昔の作り方と今の造りで一番大きな違いは酒母の造り方が違っているんでしたよね。
侘助 良く覚えているね。酒母のことを酛(もと)とも言うんだ。まずお酒造りは酒米を精米する。精米すればするほど綺麗なお酒ができる。精米した米を蒸す。蒸米を麹室に入れ、麹菌を振り、麹を造る。麹ができるとその麹で山を作る。そのままほーって置くと乳酸菌ができる。乳酸菌ができているのを確認し、山卸という作業を半切り桶に入れてするんだ。その作業を終えると桶に摺りおろされた麹と蒸米と水を入れ、酵母を入れたものが酒母、酛なんだ。これを「生酛造り」というんだ。この酒造りの過程で乳酸菌の発酵を待たずに化学製品の乳酸菌を入れる方法を「速醸酛」と言って酛の製造過程を大幅に短縮できるんだ。この方法だと乳酸菌の出来、不出来に気を遣う必要がないから、酒造りリスクがない。酒造りの微妙な難しさがない。温度管理や風、湿度様々な気候にあった対応をする必要がないから、速醸酛の造りは安全で安心できる。酒造りの期間を短縮できるしね。
呑助 どのくらい期間を短縮できるんですか。
侘助 「菊の司」酒造の場合、聞いたところによると速醸酛の場合は十二日だそうだが、生酛の場合は五十六日かかっているということだった。
呑助 速醸酛に比べて五倍近い時間がかかっているんですね。だから生酛の酒は値段が高くなるわけなんですね。
侘助 今日、唎酒する酒は「菊の司」だけが生酛の酒だから、他の速醸酛の酒と飲み比べて、その違いが分かるといいんだがね。問題はその違いが分かるか、どうかということなんだけれどね。
呑助 そりゃ、難しいなぁー。一般的にはどのような違いがあると言われているんですかね。
侘助 そう、一般的には、酒質の骨格がしっかりしている。口の中でもたつくことがないと言われているんだけどね。
呑助 切れはどうなんです。
侘助 もちろん、骨格がしっかりしているから切れが良いんだよ。今日唎酒する中では「美冨久」との違いが分かることかな。