醸楽庵だより

芭蕉の紀行文・俳句、その他文学、社会問題についての評論

醸楽庵だより  442号  白井一道

2017-06-29 15:20:05 | 日記

   昔の浅草で出会ったこと

 棟梁が入って来た。名前は知らない。「棟梁」とママさんも呼びかける。黙って棟梁が私の隣に座るとママさんが左手ですっとビールを出すと同時に右手でツキダシのヒジキをカウンターに置いた。コップ一杯のビールを一気に飲み干すと棟梁はすぐ二杯目のビールをコップに注いだ。満足した面持ちである。何も言わない。黙ったままである。すると突然、今日は賑やかだな、とポツンと言った。
 「そろそろお祭りね」。ママさんが言った。「若いころを思い出すな」。
 棟梁の昔話が始まる。「昔、棟梁はとこで遊んだの」と聞いてみた。「うん、俺の若かったころは浅草が多かったな。そのころの浅草は賑やかだった。今はどうか、知らないけれどね。職人同士で浅草に飲みに行った帰り、仲間とはぐれたことがあった。夜の十時ころだったかな。俺も酔っていたんだな。仲見世の裏通りを歩いているといい女が俺を見つめているのに気が付いた。飲んだ勢にいでな、声をかけた。お茶でも飲みに行くか、というとうなずいて付いてくる。表通りに出るとタクシーに彼女を押し込み、温泉マークに行ったのよ。部屋に案内され、早速スカートを脱がそうとするんだけど、何としても脱がない。あきらめて一緒に風呂に入ろうと言っても黙ったままうつむいている。しびれを切らして、俺は一人で風呂に入り出てくると女は布団の側に足を崩して座っている。細身の体で胸が大きいイイ女なんだ。俺は裸になって「男に恥をかかすもんじゃない」と怒鳴り、スカートに手をかけると「乱暴しなで、脱ぐから」と言うんだ。ブラウスを脱ぎスカートを取った。スリップになるともじもじし始めた。さっさとしろ、と怒鳴るとうつむにいて「お金を頂戴」と言う。「幾らだ」、と言うと「幾ら、幾らだという」。額は忘れてしまったが金を渡すと女はまたもじもじし始めた。頭に血の上った俺はスリップをまくり上げパンツに手をかけると、突然女が「がっかりしないでね」と言う。何を言うのかと思ってパンツをずり下げてみると出て来たんだよ。小さく勃起したチンチンが、俺、吃驚したね。男だったんだよ。オカマに引っかかっちゃったんだ。居酒屋にいた客、みんなが笑った。棟梁も一緒になって笑った。その後、とうしだの、と聞いてみたが、棟梁は何も話さなかった。旨そうにビールを飲むと言った。「いい女には気をつけなくちゃならねぇぞ。酷い目に合うことがあるってことをなぁー」。
 「棟梁は怒って、そのオカマを殴ったんじやないの」と聞いてみたが、ただニヤニヤしただけだった。「棟梁、持て余した体をどう処理したの」と話を向けてみた。
 「やっぱり、ガツカリさせてしまったみたいねとその女は言う。どうしたらいいの。その「女」は気を使うが俺の息子はグンニヤリしたまま、いうことをきかない。それを見た『女』はカワイソウに、と言ったのを覚えているよ。そのとき、不思議なものを見たような気がしたな。女の体に小さな玉がぶる下がっている。それが勃起したままなんだ。俺の方はグンニヤリしてにいるのに、『女』の方が勃起している。不思議だよ。やっぱり、オカマも勃起するんだね。俺のと比べると小さいと思ったがね。『女』は裸のまま、胡坐をかいて酒を飲み、泣き始めた。俺も何となく泣きたい気持ちだったな」。