↓懐かしい♪昔カラオケでよく歌っておりました(笑)
アレクサンドル・デュマの「三銃士」のことを初めて知ったのは、アニメでだったと思います♪
それで、アニメのほう、「面白いなあ~」と思いつつ途中まで見てたんですけど……アンヌ王妃のダイヤモンドの首飾り事件と言いますか、これをダルタニャンや他の三銃士たちが解決しようとするという、その途中くらいまでしか見た記憶がなく――その後△□年したある時、ふと思ったわけです。「そーいや、ダルタニャンはどうやってあのでいやもんどのネックレスを取り返したのかなあ?」と。
「♪でいやもんどだすと、火のように凍れ、でいやもんどだすと、ひょおげんのきこおしよお~」という、わたしが同時期に夢中になってたアニメはこっちのほうで(笑)、三銃士は何故か途中から見なくなってしまったやうな。。。
あ、でいやもんど繋がりでちょっと思いだしたというだけで、そうそう、今回せいんとせーや☆関係ないのです(でもかなり前にイタリアの方が「好きなアニメ」について、「「セイントセイヤ」に「ツリキチサンペイ」ネ」みたいに答えてるのを見て、時代は本当につくづく変わったなあ~と思いました。いや、それでも星矢についてはなんとなくわかる。でも、「釣りキチ三平」の面白さがわかるって、なんかすごくないですか?笑)。
「三銃士」、その△□年後、「結局アニメでどうなったんだっけ?」と気になり、原作を手に取って読んでみることにしましたでも、アニメと設定の違うところがあったりして、自分的に結構驚きだったのです。まあ、当時アニメディアとか読んでて(年がバレますなあ・笑)、アレクサンドル・デュマの原作とは設定違うとか、コンスタンスは原作では本当は人妻だ……など、実際に原作読んでみるとアニメの印象とかなりのところ違ってて、すごく驚きました
そして、何よりもミラディー!!アトスのことを女性不信にした張本人にして、ダルタニャンとも体の関係を持っただとぉ!?と思い、本読みながら結構驚きましたですよ(笑)。まあ、それはさておき、↓のお話のことです。フランシスをメルガレス城の伯爵妃づきの衣装係……という設定にした時から、わたしの頭の中にはコンスタンスのことがちらっと頭にあったような気がします。
それで、↓に関して、特別クロードとアゼルとユ―リスについても、三銃士のイメージがあるというほど恐れ多いことではなく、このことについてもちらっと頭の隅にイメージがあるよーな、ないよーなくらいな感じのこととしてある……くらいな感じだったんですよね(^^;)
まあ、三人とも脇役中の脇役だし、そんな大袈裟なことではまるでないものの――ただ単に、「いいよなあ、デュマの『三銃士』♪」という、単にそれだけのお話だったりします
それではまた~!!
↓神がかった素晴らしい演出。「兄すわ~ん!!」(笑)
惑星シェイクスピア。-【63】-
「ヴォーモンさま、今日のお勤めのほうはもう終わりでよろしいので?」
セシル=ヴォーモンは近衛隊の隊長であるクロード・ベルナールに、メレアガンス最高法務院の裏口にて、そのように声をかけられた。大法官という地位にある彼は、裁判に対する逆恨みその他により、その身に危険の及ぶ可能性のあることから――メレアガンス伯爵より近衛隊をつけるよう勧められ、最高法務院の行き帰り、その他私用の際においても、彼らの警護する馬車を利用することが多かった。
この近衛隊というのは、聖ウルスラ騎士団の騎士、それに警護院の巡察隊士、あるいは軍所属の守備隊士など、セシルの気に入った人物によって構成してよいということになっていた。といっても、彼としては自身の身辺警護になど実はさして関心などなく、メレアガンス伯爵の御好意を無碍にも出来まいという理由により……友人だったサイラス・フォン・モントーヴァンが推薦してくれた騎士のクロード、それから同じく警護院の巡察隊長の推薦により、アゼル・アデルヴァイゼン、そして最後のひとりが、クロードとアゼルの共通の友人で、当時夜警団の守護隊士として働いていたユーリス・ヴォアギロスの三人で構成されていた。
彼らの給与のほうは市庁舎から出ているため、セシル自身の懐が痛むということはなかったが、彼は当初から「僕の警護のことなどは形程度で構わないから、おのおの副業に励むなど、好きなように過ごしてくれて構わない」と通達していた。セシルが今の役職に就任して五年近くになるが、確かに逆恨みその他、彼が思い及ばぬ理由によって暗殺される可能性というのはゼロではなかったろう。けれど、その場合においても「それは君たち近衛隊のせいではない」と、先にそう申し伝えておいた。「僕はおそらく、その場合においても誰のことを恨むでもなく死んでいけるだろう」ということを……。
というわけで、三人は常に金魚のふんよろしくセシル=ヴォーモン卿の後ろをついて歩くようなことはせず、主人の朝の出勤時と退勤時には三人が必ず集まることになっていたが、それ以外では誰かひとりが常時ヴォーモン大法官の執務室、あるいは裁判の座席のそば近くに立ってお守りすることになっていたわけである。
さて、その間残りのふたりはどうしていたかといえば、愛妻家のアゼルは妻が針仕事をする間子供の面倒を見、ユーリスは軍隊仲間と競馬やトランプなどの賭け事に興じる傍ら情報収集をし、近衛隊長ということになっているクロードではあったが、彼は所属のほうが聖ウルスラ騎士団であるため、そちらの武術訓練のほうへ参加したりするわけである。そして、これらの他に三人は、セシルが裁判の判決その他のことで頭を悩ませることがあるらしいとわかるなり(それは、執務室に出入りする人間との会話や、裁判を傍聴する立場になることからも、すぐそれとわかることだった)、彼ら自身にしか持ち得ぬ蜘蛛の巣のような情報網を駆使し、主人が欲しいであろう確かな筋の情報をもたらすことに時間と力を費やすのだった。
「そうだね。待たせてすまなかったけど、そろそろ帰ることにするよ。まあ、判決について頭を悩ませることなら、屋敷に帰ってからでも出来るというわけでね」
クロードもアゼルもユーリスも、青を基調とした近衛隊の制服を着ており、それは伯爵の近衛の制服と同じものであった(というのも、メレアガンス伯爵がそのように制服を支給するよう取り計らってくださったのである)。唯一違うといえば、彼らの胸元には近衛隊士の徽章の他に、大法務院の徽章、それからヴォーモン家の家紋などが並んでいたことだったろうか。
大法官専属の近衛隊である三人は、唯一主人であるヴォーモン卿が最高法務院へ出勤する時と退勤するという時のみ、いつも以上に緊張して周囲に気を配るということになる。今まで、裁判の判決を不服として(それがセシルが直接下した判決でなくても関係なかった。何故なら彼は、その判決を下した判事らの上官なのであるから)、一体何人の人間がヴォーモン大法官のことを最高法務院の広い階段のところで待ち受けていたことだろうか。
「僕は思うんだけどね」と、セシルは何度か、苦笑気味にこう言っていたことがある。「メレアガンス伯爵のお申し出は確かに有難いものだったし、感謝もしている。けれど、君たちがそんな目立つ格好をして僕を警護し、さらには立派な箱馬車へ毎回案内してくれるがゆえに……『あっ、あすこに大法官の奴がいるぞ』なんて、わざわざ知らせることになっちゃうんじゃないかな。だって、前まではこんなこと、一度もなかったんだよ。最高法務院の廷吏専用の戸口からそっと外へ出て、すぐにも人ごみに紛れてしまえば――『あっ、あすこに今日の裁判でオレを負かした大判事先生がいるぞっ。こんにゃろうめ、目にもの見せてくれんっ!!』なんてことは、ほとんどないくらいだったんだから」と。
その日は珍しく、よよと泣き崩れながら近づいてくる女性の一団もなければ、腕に覚えありといった筋肉ムキムキ男を連れた商人の一団に取り囲まれるといったこともなく、セシルは周囲を警戒する近衛隊に守られ、なんなく二頭立ての四輪馬車へ乗り込んでいた。その箱馬車のドアの中央にはイチゴの葉に囲まれて、左右に杖に絡まる蛇が、そして真ん中に蜘蛛が月桂樹の冠を戴いているというメレアガンス州の紋章が描かれている。簡単にいえばつまりは、この馬車に乗る者を襲うようなことあらば、それは伯爵に逆らうことだと心得よ、といった意味だったと言えるだろう。
実際のところ、セシル=ヴォーモンの前任の大法官に対しては、メレアガンス伯爵はここまでのことはしなかったのであるから、伯爵のヴォーモン卿に寄せる信頼がどれほど厚いものかは推して知るべしといったところだったに違いない。
クロードとアゼルとユーリスは、メルガレス城砦の目抜き通りででも彼とすれ違ったとしたら――おそらくまったく記憶に残らぬだろうというくらい平凡な容姿のこの主人を、心から尊敬していた。セシルは結婚しておらず、弟夫妻の住む屋敷の離れに数匹の猫と暮らしているのだったが、もしセシル=ヴォーモンという男から<大法官>という社会的地位を奪ったとしたら、彼には「ただの変わり者」という世間の評判しか残らなかったに違いない。このことでは近衛隊の三人の意見は一致している。だが、彼らは自分たちの主人ほど無条件に尊敬できる立派な人物はよそでは決して見つからないだろう……というくらい、セシル=ヴォーモン卿のことを心から尊敬していたのであった。
ヴォーモン大法官は、彼の弟の妻――ようするに義妹のアリシアが「こんなにぼんやりした人、見たことない!!」と、新鮮な驚きをこめて何度も言うほど、普段からぼんやりしている。身の回りの世話に関しては、アリシアが自分の夫と娘と息子のそれを含めて一緒にしてくれるため、セシルはいつでも彼女には頭が上がらないのだった。
だが、クロードとアゼルとユーリスは、セシルがいかに博識で機知に富んだ人物であるかよく知っているし、彼がいかに公正で平等で潔白な人物であるかを彼らほどよく知る人間はこの城砦に他にいないくらいでもあったろう。というのも、最高法務院などという場所で、時折眠くなりつつも、ただ黙ってひとつの裁判に関し最終的に判決が下されるまでの過程を見聴きしているだけでもわかる……何分、ひとつの裁判には恐ろしく時間がかかるもので、大法官の元まで上がってくる案件ということにもなると、大抵が殺人事件など、メルガレス城砦においても極めて重要な案件か、あるいは政治的に複雑な事情が絡んでいる場合が多い。
この点、セシル=ヴォーモンは大法官という地位を得て以後も、それ以前も――どのような政治的有力者のことも、下層階級の人間をも、必ず公正な目で見、平等に扱い、自身の潔白さを保つような形での判決しか下したことはなかったのである。他の判事らが賄賂を誰かしらから受け取ることなど日常茶飯事であったし、証人として仕立て上げられてやって来る人間にしてからが、多額の金をもらい、演技と舌に磨きをかけてから証言台に上がるといった場合も極めて多い。そんな中、彼は法務院にいない間はずっと、自分が関わった裁判に関しては必ず不審な点について自らの手で徹底的に調べて過ごしていた。
こんな彼だったから、昔なじみ以外では友人などほとんどなく、クロードとアゼルとユーリスが見たところ、それどころかセシルはその職業柄、親しい人間を作らぬよう気をつけているようですらあった。近衛隊の三人は、ヴォーモン邸にて彼らの家族全員とよく一緒に食事をしているゆえにわかるのだが――セシルが一度か二度、弟のノリスにこう言っているのを聞いたことがある。「貴族のつきあいというやつを、おまえひとりに任せきりで悪いとは思ってるよ。だが、ああした人たちのパーティやらなんやらに出席したら、なんとかいう知りあいが裁判でかくかくしかじかの事情で非常に困っている……だなんだ、色々言われるに決まってるからね。だから、僕は誰とも距離を置き、なるべく親しいつきあいをしないようにしている。そこのところ、どうかわかって欲しい」と。
もっとも、この弟のノリス=ヴォーモンは、兄のよき理解者であったから、そのあたりのことに関して問題はほとんどないようだった。とはいえ、彼の妻のアリシアについて言えば、彼女はこの義兄のことをすっかり誤解しているようであった。つまり、セシルは本を読むしか能のないぼんやり者で、貴族同士のつきあいを夫に任せきりにしているのも、人間嫌いで法律と友達であるほうが何かと安全だと考えているそのせいなのだろうと。(もし本当に人間嫌いだったら、あんな裁判なんていう人間関係ドロドロの世界にどっぷり漬かってることはないんじゃないですかね)と、近衛隊の三人は思うのだったが、あえてそう言うことは控えている。というのも、アリシアは彼ら三人という面倒な重荷が屋敷に出入りしていても嫌な顔ひとつすることはなかったからである。むしろ、「セシルのためにあなた方のようなお友達が出来て、本当に良かったわ」と言っているくらいなのだ。
他にも、こうした裏表のないつきあいから、セシルが甥とチャンバラごっこをしてわざと負けてみせたり、姪のことを背中に乗せて馬のようにヒヒーンと嘶いてみせるなど、自分の主人の情けない姿を見た時にも――クロードとアゼルとユーリス、彼ら三人の主人に対する尊敬の念はまったく揺らがなかったものである。
「して、セシルさま。例の件でございますが……」
「例の件?」
今日、御者を務めているのはアゼルだった。そして、馬車の中に主人の護衛として乗り込んでいるのは、クロードとユーリスである。だが、ユーリスに『例の件』と言われても、セシルはすぐにはピンと来ていないようだった。無論、彼らにはわかっている。彼らの主人には<例の件>に相当するものがあまりに多すぎるのだということは。
「ええ。聖ウルスラ騎士団の騎士団長フランソワ・ボードゥリアンのことですよ。セシルさまの御意見としては、『泳がせておき、いずれ自滅するか、それとも尻尾をだすかに任せよ』とのことでしたが……巫女姫さまを穢れた娼館へ引き入れるなど、とんでもないことでございます。それに、あの男はサイラス・フォン・モントーヴァンという、あれほどまでに誇り高い男を死に追いやった男でもあるのです」
この件に関しては、同じ騎士団に所属するクロードのほうこそが熱心に訴えでるべきことであったろう。唯一、この近衛隊の三人とセシル=ヴォーモンとの間で関係が危うくなったことがあったとすれば、サイラスが次の騎士団長選びの試合の際、奸計により命を落としたその時だったに違いない。だが、セシルはその馬上試合を近くで見ていたクロードの証言があってさえ、動くことはなかった。それどころか、「自分はその裁判には関わることが出来ない」とすら言ったのである。
一度は近衛隊の制服を脱ごうとすら考えたクロードであったが、やがて「自分の親しい者のことでは誰しも盲(めくら)になる。ゆえに、冷静に裁定できない以上、僕はその件に関わるべきでない」と言った、セシルの言葉の真の意味について、彼も徐々に理解するようにはなった。また、セシル自身がある種の復讐の機会――いや、三人とも自分たちの主人がそれを復讐と考えていないと知ってはいたが――を窺っているらしきことも理解していた。簡単にいえば、セシル・ヴォーモンは巫女姫を娘に持つ、セスラン=ウリエール卿の反対派なのである。
もっとも、三人がそのことを知ったのは、近衛隊になってそれほどしない頃のことであったから、随分以前のことではある。というのも、セシルがこのように誰にも肩入れせず、公平かつ平等、それに潔白な身を保っていることに感心し、ヴォーモン卿はメレアガンス伯爵の法律顧問である一方、個人的な相談役を務めてもいたからである。
クロードとアゼルとユーリスは、伯爵と自分たちの主人がメルガレス城の王の書斎にて、親しく話を交わす間、セシルと一緒にいたということもあれば、伯爵の近衛とともに外で待機していたということが何度となくある。メレアガンス伯爵は、政治のことではウリエール卿のことをもっとも恐れているらしく、何よりもまず、ウリエール卿が巫女姫の父親である以上なんの罪にも問えないということを憂え、嘆いているのだった。内務大臣というのはようするに、このメルガレス城砦及びメレアガンス州の警務と軍備の長にも等しい大臣職だったが、何人もの裏町のボスとウリエール卿は結託しており、「このメルガレス城砦の実権の半分は奴のものに等しい」などと、伯爵は悔しげに口にすることさえあるのだった。
他に、メレアガンス伯爵が憂えていることとして、彼の唯一の跡取り息子であるエレアガンスのことがあったろう。「自分は痛風で、心臓の具合もあまり良くないにも関わらず、酒を飲むことをどうしてもやめることが出来ない。何故なら、領主として憂えることばかりがあまりに多く、酒で一時的に頭がぼうっとしている時くらいしか、もはや幸せだと感じることがないからだ。ああ、エレガン……哀れな我が息子よ。ウリエール卿の企みも知らず、息子はあの男の娘のひとりと仲睦まじくしておるわい。こんなことでは、いずれこのメレアガンス州は一体どうなることやら」――というわけで、(あの伯爵の馬鹿息子か)と心の中では思いつつ、決して誰も口にすることはないエレアガンスの結婚相手のことでも真剣に相談に乗ってやり、さらには財務長官カンブレー卿にでも相談すべきことについてまでも、一から百までその心配事を聞いてやり、適切にアドバイスを与えるという、顧問というよりはすでに精神カウンセラーにも近い役をセシルは随分長く務めているのだった。
つい先日、ここにラウール・フォン・モントーヴァンの親書に書かれたことまでもが加わり、メドゥック=メレアガンス伯爵は半狂乱の体に陥っていたのであるが、セシル=ヴォーモンが伯爵のその話をいつも通り辛抱強く聞いたあとの彼の顔を――近衛隊の三人は今も忘れることが出来ない。いつもは穏やかで、ぼんやりしつつも優し気ですらある彼が、最終判決を下す時に時折見せるのと同じ顔をしていたからである。すなわち、「これこそが正義で間違いない」という、確信がある時とまったく同じ、にも関わらずどこかあざといようなしたり顔を……。
以来、近衛隊三人の生活は非常に忙しいものとなった。最初の頃は、あくまで三人は「自主的に」、「お節介とわかっていつつ」、自分たちの主人の裁判に関わる事柄について、秘密裏に調べまわっていた。だが、そうしたことにすっかり慣れてしまうと、セシルのほうでもあれこれ「こうしたことを調べて欲しい」と部下三人に対し頼むようになっていたわけである。
「以前、僕がケツに出来物をこさえたって話、したことあったかな?」
ユーリスとクロードは互いに顔を見合わせた。聞いた覚えがなかったので、それぞれ「いえ、ありませんね」とか「ありませんな」といったように答える。
「そうなんだ。たぶん、その前日に魚釣りをしていたことと関わりがあったんだと思う。何分、裁判官というのは長時間ずっと椅子に座ってることが多いものだろ?僕は普段、他の判事たちよりもそうした意味でもケツの耐久力があるほうだと思い、すっかり自惚れていた。ところが、魚釣りへ行った時におかしな虫にでもケツのあたりをブスッと刺されたんだろうな。椅子に座っている間、そちら側に体重をかけるような座り方をすると、いちいち「イテッ」と痛む。僕は悩んだ。もちろん、一番いいのは医者に見てもらうことさ。幸い、ケツの例の清潔な穴にはさほど近くなかったとはいえ……それでも医者に見てもらうとなれば、「恥かしがらずに思いきってズボンを脱ぎたまえ」と命令されるような、そんな微妙な場所に出来物はあった。僕はね、まず先に薬屋に頼ることにしたよ。腫れ物や吹き出物によく効くという軟膏を何回となく塗りたくり、これで治ってくれればいいと、神に祈った。いや、その後もまるで治らなかったからといって、神さまが悪いというわけじゃない。だが、僕は神を恨みはしなかったが、困ったなと思った。だが、医者には行きたくない……そうこうするうち、僕は出来物のある左側のケツに体重をかけずに長時間座っていられるという特技を編みだした。とりあえずはまあこれでいいと僕は妥協することにしたわけだ。一番いいのは、出来物が出来た最初期にすぐ医者に行って診てもらってることさ。そのことはよくわかってる。だが、今までこれだけ長く我慢してきたんだ。今さら医者になどいくものか……僕はその後も意固地になって頑張り続けた。さて、僕はそののち、一体どうしたろうか?」
ユーリスはぼんやり「さあ……」と言い、クロードのほうでは笑いたいのを堪えつつ、「結局、アリシアさんにでもバレて、医者へ行くはめになったんじゃないですか?」と答えた。
「そうだね。クロードの答えはいい線を突いてる……確かにあの頃、アリシアにはバレそうになってヒヤリとしたことが何度もあった。『この軟膏、なんのために使ってるの?』とか、『もともと猫背なのに、最近ますます姿勢がおかしいわね』とか、色々言われたものだった。でも、答えはそうじゃない。ある殺人事件の裁判中、僕は非常に大切な、しかも似つかわしくない深刻な場面で『う゛あ゛っ!!』と叫びそうになった。何故かというと、ついうっかりケツの左側に体重をかけてしまったからなんだね。しかもその瞬間、鋭く引き裂くような痛みが僕のケツを斜めに走った。これで僕の人生も終わりか……というほどではないにせよ、その後、退廷してから便所へ行き、自分のケツを撫でてみると血が出ていたよ。例の出来物から汚い膿が出ると同時、血が滲んだんだね」
「そいつは痛そうですね……」
ユーリスは「うえっ」とでも言うように、顔を顰めている。一方、笑い上戸の気のあるクロードは「もう我慢できない」とばかり、吹きだしていた。
「アッハッハッ!!そりゃ傑作ですね。それで、もしかしてこれはこういうことなのではありませんか?ここメルガレス城砦には、色々と問題がある……だが、そろそろすべての膿を出し切るべき時が来た。その際、血が流れるかもしれないが、一度そうなった以上は断固として根本から治療すべきなのだという」
ユーリスは三人の中でもっとも勇気のある男だったが(向こう見ずとも言う)、あまり機転の利くほうではなかったから、セシルとクロードの間ですっかり通じている隠喩について、いまいちわかってない様子だった。
「ええと、それで……結局ケツの出来物とフランソワ・ボードゥリアンが巫女姫と通じていることと、一体どんな関係があるっていうんです?」
「つまりさ」と、クロードはセシルの手間を省くため、主人に代わり説明してやることにした。「まあ、俺も難しいことはまではよくわからんよ。だが、セシルさまの中ではある程度駒が揃ったということなんじゃないか?無論、俺たちの間でサイラスに関することでは証拠の手駒なんて、随分前から揃ってはいたさ。だが、セシルさまがこうおっしゃるからには、我々は正義が執行されるために待った甲斐だけのことはあったと……きっと、最後にはそう思うことが出来るだろう。この場合の膿というのは、何もフランソワの奴のことだけじゃない。ウリエール卿の政治的勢力を削ぐことや、そんなことともおそらくは関わりあっているに違いない。ユーリス、もしかしたら我々はここメレアガンス州の政治のみならず、歴史が大きく動くその瞬間を目撃することが出来るかもしれんぞ」
――そうなのである。セシル=ヴォーモンはおそらく、メレアガンス伯爵が唯一心を許してなんでも話せる顧問官であると同時、それまでも名裁判をいくつも行なってきた関わりあいからも、時の大法官としてメレアガンス州の歴史にその名を残してはいたろう。だが、後世の人々が何にも増して重要な人物としてセシル=ヴォーモンの名を思い起こすのは、逮捕された聖ウルスラ騎士団の騎士団長と、彼の愛人であった巫女姫マリアローザを裁判にかけたことによって、ということになるのであったから。
>>続く。