(※アニメ「ようこそ実力至上主義の教室へ」に関してネタバレ☆があります。一応念のため、ご注意くださいm(_ _)m)
よう実のアニメ、シーズン3まで見終わってしまい、現在軽くロス状態です
とはいえ、続き知りたきゃ漫画or原作小説を読めという話ではあるのですが、まあ本については何かと読まなきゃなんなかったりするものが積んであるので……暫く溜めておきたいと思います、この迸る萌えの滝が噴水の如く溢れるがまま(なんだそりゃ☆)。
その~、今回もまた早速ネタバレ☆で恐縮なのですが、3の最終回オイラびっくりしたら!!(だから、誰なんだっての・笑)今回のシーズン3で1学年は終わり、次のシーズン4から2年生編ということなのかなと思うものの――ななな、南斗水鳥拳ッ!!ではなく(古っ!)、我らがサイコパス主人公綾小路清隆くんは……ギャル系女子の軽井沢恵とつきあうことにっ!!
いやまあ、って絵文字はなんか違うか(笑)。というか、このあたり他の読者さんや視聴者さんなどはどう思ってるものなんでせうね。そこらへん調べてないのでわからないものの……とりあえずわたし、シーズン2見た時点で、一応次のようには思っておりました。。。
きよたんママ(ニセモノ):「あんた、恵ちゃんと責任とって結婚しなきゃダメよ」
きよたん:「けっこんて……俺、あいつとキスもしてないと思うんだが」
きよたんママ(ニセ):「だってあんた、あの子に「股を開け!!」って命令してたじゃないの」
きよたん:「ああ、あれか……(死んた魚のような目☆)」
いえ、わたしがもし恵たんママならそうだろうなって話なんですけど(笑)、あのシーン見た時から綾小路くんが「人間らしさ」、「年相応の男の子らしさ」を持つに至る可能性って、もしかしてなきにしもあらずなのかな……と思わなくもなかったわけです。
それで、このシーズン3でも、「なんだかんだ言って青春しちゃってんじゃん、きよたん!!」みたいに感じられるシーンっていうのは散見されるわけでして、「もしかして、最終的に着地点は>>「♪ぱぱやぱ~(レベルの上がった音☆)あやのこうじきよたかはレベルがあがった!!【にんげんらしさ】のレベルが上がり、【ほんとうのにんげんらしさ】をかくとくした!!恋をしたことにより、【にんげんりょく】も上がった!!恋愛経験値、21ポイントアップ!!」とか、そーゆー方向に物語が落ち着く可能性というのも――あるのかもしれないなあと思っていたところ……。
ぜ・ん・ぜ・ん・ち・がっ・た……!!(ぱりーん☆という心の鏡の割れる音)
よう実には色んなタイプの女の子が出てきて、みんなそれぞれきゃわゆいのですが、綾小路清隆くんはめっぽうこっそりモテていて、見てる側基準としては、最初に恋愛フラグ出てたのが堀北鈴音ちゃん、恐怖のヤンデレ女子櫛田桔梗も、今は憎まれてますが、恋愛フラグ自体はシーズン1あたりでは特に結構立っていたそして、シーズン2あたりで突然軽井沢恵と綾小路くんが急接近――みたいな例の展開があって、何しろ「股を開け!!」ですからねえ。見ながら原作のほうではこのあたりのきよたんの心理描写とかどうなってんだろうと気になりましたが、まあ綾小路くんのことだからすべて打算によるものなのだろうとは思います、たぶん。。。
それはさておき、12月という寒さの中、何度水ぶっかけられても最後まできよたんのことを裏切らなかった軽井沢恵……ここまでのいじましいキャラなのにつきあうことはないとか、「きよたか、ひど~いっ!!」みたいになる方のほうが多いのか、わしにはよくわからんのだが、シーズン3になって今度、OPとED変わるじゃないですか。そしたら、A組の坂柳さんが結構メインぽくなってて、「あれ?もしかして本命こっち?」と思ったりしたわけです、わたし的に。
でも、シーズン3見ててわたし、坂柳さんのことは好きになったものの、「人間は鏡に映ったもうひとりの自分を愛しても仕方ない」といった意味では、綾小路くんが坂柳さんと結ばれるのがいいかどうかよくわからないとはいえ――それでいくとまあ、綾小路くんと軽井沢さんって性格真逆なわけですよね。また、坂柳さんは綾小路くんの幼少時からの事情その他をよく知った上で、彼に片想いしており、彼に「人肌のぬくもり」を伝えられたらと思ったりもしている。
いえ、わたしタイプ的に好きなのは間違いなく軽井沢さんよりも坂柳さんで、坂柳さんの愛情が綾小路くんに伝わるなら、それは「人間同士の心のふれあい」として、とても大切なことだと思っています(真顔)。
また、B組の欠点のない完璧女子、一之瀬帆波ちゃんも、これまでずっと恋愛フラグがそれなりに立ったり立たなかったりしており……彼女もまた今回、平田くん同様中学時代の過去が明らかになったキャラですよね。ただ、平田くんのそれが黒歴史に近いものであるのに対し、帆波ちゃんの過去の欠点らしきものというのは――「まあ、それでもいい子ちゃんの並歴史ってとこだよね」くらいな感じのものな気がする(妹が誕生日に欲しがってたものを、お金がなくて出来心から万引きとか、べつに誰もどん引きしない・笑)。
でも綾小路くんはその弱みを握られ、つらい思いをしている帆波ちゃんの人生相談にのってあげたりして、わたし、ここ見てて思ったですよ。「そっかあ~。きよたん、結局一之瀬さんみたいな万能女子が好みなのかな~。うんうん、それもまたよしよし」とか、何目線なのか最早わからぬ見方をしとったわけですが――最終的にココも、綾小路くんは「女子としてどうこう」とか、特に思ってない!!ということが終わり近くで判明!!!
そうそう。綾小路くん、誰の悩みごとも黙って共感的に聞き、最終的にその頭脳明晰なIQいくつなのかもわからん頭で導きだした答えを諸方面に処方しとるもんで(そしてみんなこれにヤラれて綾小路くんを崇めたり好きになったりしてしまう)、わたしもつい忘れちゃうんですよね。この男がそんな形で一視聴者をも欺くおそるべきサイコパスだってことを……。。。
んで、綾小路くんが美人でスタイルもよく、性格もいいとか、なんでも揃ってる一之瀬帆波の相談に何かとのってたのは――彼女もまた、B組のリーダー、まとめ役としてトップに立つ人物だからであり(大量のポイント所持者でもある)、そうした利用価値や重要性がなくなれば、帆波ちゃんもまた綾小路くんのチェス盤では盤面から消えるか、元はクイーンだったのがポーン(歩兵)のように役立たない存在になるというそれだけの話らしい
で、何人もの女子と恋愛フラグでまくってる綾小路くんですが、最終的に軽井沢恵とつきあうことにしたのは……高校を卒業したらホワイトルームで指導者になろうと思うというのが、綾小路くんの本当に本当の希望なのかどうかわからないものの、この時点で残りの自由のタイムリミットは2年になったそして、再びホワイトルームに戻ったとすれば経験できないことのひとつに、「恋愛」ということがあり――その相手に軽井沢恵を選んだことにも、綾小路くん的には理由があったわけですよね。。。
これはあくまで一視聴者としてのわたしの予想ですが、綾小路くんにしても映画やドラマなどを見て「恋愛がどのようなものか」については一応理解している。そして彼自身「もし自分が軽井沢恵との恋愛に溺れ、心も体も結ばれはっぴっぴ♪」となれれば、それが一番いい。でも、どっちかっていうとこれはそうした話ではなく……言うなれば、デスノのライトくんがミサを徹底利用し、そのことのために最後には結婚までしていたように――でも本当の意味ではミサのことを愛していたわけではない……のにも近い何かなのだと思う、おそらくは(^^;)
綾小路くん的判断としては、軽井沢恵は自分のことが好きらしいと感じるし、自分も実地で恋愛というものを【学習】するには、軽井沢恵が適任だと思った――ということなんでしょうね、最終回の彼の心の独白を聞いていて思うには。軽井沢恵の心の成長にとっても自分が必要だろうし、綾小路くんにとって、恋愛の教科書の最後の一ページを読み終わるまでの間、彼女はそれなりに恋人として大切にしてもらえるんじゃないかと思ったりもする。。。
「えっ!?それって一体どうなの?」という話でもありますが、わたし自身はこれは軽井沢さんにとっても悪い話じゃないと思うんですよね。何より、綾小路くんにしてもおそらく、平田くんと別れた恵が他の男とつきあうのは嫌だな、と思うくらいの気持ちがあったとしたらいいのですが、恵に新しく他の男が出来ると手駒として動かすのに何かと面倒、それよりは自分の恋人にしておいて、クラスの意見をまとめてもらったりなんだり出来たほうがいい――とかだったら、マジで綾小路清隆は深刻なサイコパスってことになると思うわけで(^^;)
まー、シーズン3はそれだけじゃなく、初めてクラスから退学者が出たりとか、色々あったと思うわけですけど……山内くんは退学しても、「まあ、妥当かな」といったところでした、私的には。役どころについては、「クラスにひとりはいそうなお調子者」ってところだった気がするし、「そろそろキャラ的にうざくなってきたなー」と感じるところもあったため、まあ良かったんじゃないかと(ここ書いたあと、「キング・オブ・クズ」と呼ばれてるのを見て大爆笑しました)。
シーズン4以降どうなるのかはさっぱりわかりませんが、そのうちもし時間できたら漫画で二年生以降の展開を読んだりしてみたいな~と思っています。何より、もっといいのはアニメが速く公開になることですけど!!ヾ(*´∀`*)ノキャッキャ
それではまた~!!
惑星シェイクスピア。-【69】-
聖ウルスラ騎士団、騎士団長フランソワ・ボードゥリアンと副騎士団長フランツ・ボドリネールの大勝負は、クラリオンとトランペットのファンファーレ、一糸乱れぬ太鼓の響き、それにシンバルの高らかな音色とともにはじまった。
普通に考えた場合、副騎士団長の位にある者が騎士団長に打ち勝つということは、ありえぬことだったに違いない(少なくともメレアガンス州の歴史上、今まで一度としてなかったことである)。何故といって、騎士団長というのは最終的に推挙された者と立候補者の勝ち抜き戦によって決まるのであったし、その際副騎士団長というのは、この試合で準優勝だった者ではなく、騎士団長に任命権があったからである。
無論、騎士団内における実力がナンバーワンと目される者が、ある種の謙譲の気持ちから副騎士団長の地位に甘んじるということはあったに違いない。だが、その場合でもこの両者の間はそうした信任の深い関係性によって結ばれているのであるから、よほどのことでもなければ問題は生じえなかったことであろう。
だが、フランソワとフランツの場合は違った。フランツはその実力に相応しくなく副騎士団長の地位に据えられたことで――それも、サイラス派の者たちの勢力を抑え込むという、そのためだけに――以降、随分苦しい思いをすることになった。朱に交われば赤くなると言うが、フランソワ派の思い計ることにフランツは抵抗し続け、その度に意地の悪い恥辱の言葉でからかわれたものである。サイラス派の残りの騎士たちも、フランツでは頼りにならないとして見下すような態度だったし、彼は聖ウルスラ騎士団の副騎士団長という地位にいながら、ずっとここに自分の居場所などないように感じ続けてきた。
にも関わらず、その針のむしろのような場所にフランツが座り続けることが出来たのは、セドリックやクロード・ベルナールといった数少ない理解者の存在があったこと、他には兄レイモンドが騎士を継がなかった今、ボドリネール家の跡取りとして名誉を守る必要があったこと、それから最後のひとつが恋人フランシス・モーステッセンのことだったに違いない。
フランツにとっては、彼女が平民の出か否かといったことは何も関係がなかった。というより、そもそも母が貴族の父と結婚しなかったら、自分もまた平民のままでいたはずなのだ。サイラスの死後、フランツは聖ウルスラ騎士団内における様々な諸問題について、フランシスには何も語って来なかった。というのも、女性には理解が困難であろうと思われたからだし、そんなことで会うたびに愚痴をこぼすというのも何やら男らしくない。だが、自分の本当の悩みについて話せもせず、表面的に明るい振りをするだけの彼女との関係が、フランツには次第に重荷となっていった。フランシスがする話はといえば、相も変わらず狭い家に姉妹十人で暮らす窮屈さと、そこから脱出したいということ(=なるべく早く結婚したい)、それから伯爵夫人のお化粧係や御髪係など、宮廷の侍女たちの陰にある醜い権力争いのことだったろうか。
以前はフランツも、フランシスの話すことのすべてが、聞いていて楽しかったし、愉快だった。彼女は小さなことで文句を言い立てながらも結局は心から家族を愛していると知っていたし、伯爵夫人の侍女たちの派閥争いに関しても、本気で悩んでいる恋人には悪かったが、聞いていて何かと面白いことが多かったものである。また、フランツはお互いの仲を取り持ってくださったのが伯爵夫人だったからという理由によってではなく――間違いなく心からフランシスのことを愛しており、自分が結婚するとしたら彼女以外相手はいないとすでに心に決めてもいた。
だが、心を覆う苦悩の雲と霧が厚く重いがゆえに……フランツとしてはフランシスに一度別れを切り出す以外になかったのである。とはいえ、フランシス・モーステッセンと結婚できないのであれば、相手などすでに誰でも同じ――そう思っていたのに、彼は父の薦める見合い相手である有力貴族の娘、ウジェーヌ・ヴァンセンヌと音楽会の桟敷で引き会わされると、突然にして雲と霧が一気に晴れてくるのを感じたのである。
(僕はフランシス・モーステッセンを愛している!!おお、そうだ。もし、今回の件のすべてにすっかり区切りがついて解放されることが出来たら……僕は彼女にもう一度跪き、プロポーズすることにしよう)
フランツがそのようにもう一度決意することが出来たのは、モントーヴァン邸に足繁く通い、ランスロットやカドールやギネビアらに厳しく稽古をつけてもらうようになってからだった。彼らは三人ともが本物の騎士だった。ローゼンクランツ騎士団に所属しているからという理由によってではなく、騎士道精神をその胸に宿しているというだけでなく、心・技・体、そのすべてにおいて、腐りかけた果実のような聖ウルスラ騎士団にないものを備えた、まさしく黄金の果実の如き実力の持ち主であった。
こうして、もう一度心に洗礼を受け、騎士としてすっかり生まれ変わったかのような心持ちへと至ったフランツは、ついきのう、フランシスにすべてのことを打ち明けていた。最初は(今回の件に関するすべてが落ち着いたら……)と思っていたフランツだったが、結局のところ逸る自分の気持ちを抑えることが出来なかったのである。それに、フランシスのように美しく、素晴らしい心栄えの娘が、いつまでもひとりでいるとも思われず、伯爵夫人がまた誰か彼女に恋人を紹介しはしまいかと、そんなことが心配でもあった。
屋敷の外へ呼び出された時、フランシスは戸惑った。てっきりフランツが(貴族の娘のなんちゃらと結婚することになった)と、いらぬ報告でもしに来たのかと思ったのだ。というのも、嫉妬心の強い他の侍女たちが、『あなたの元恋人のフランツね』と、特に<元>のところに力を入れて発音し、嫌味をたっぷり塗り込み、こう言っていたからである。『ガブリエラ・ディディエやオーギュスティーヌ・オロールとお見合いする予定だというもっぱらの噂よ』などと……。
だが、フランツは第十六区の広場まで歩いていくと、「待ち切れない」とばかりフランシスのことを抱き寄せ、あろうことか、まるで奪うようにキスまでしていたのである。彼女は、別れていた短い期間に、すっかり彼が変わってしまったのではないかと驚いた。というのも、以前までのフランツは、キスひとつするにも『本当にいい?』とか、『嫌じゃない?』などと、何度も聞いてからようやくその行為に至るという、いつも優しいのだが、強引さの足りない、女性が時々苛立つタイプの男性だったからである。
「どうしたの?ねえ、フランツ……あなた、なんだか前とはすっかり変わってしまったみたい」
「いや、何も変わってはいないよ」と、フランツはフランシスのことを抱きしめたまま言った。「いや、変わったといえば確かに変わったのかな。それもいいほうへね……なんだかずっと、悪い夢を見ていたみたいだ。でも、僕はもう一度君にプロポーズするにしても、その時にはもう騎士ではないかもしれない。フランシス、君はどう思う?結婚するにしても、その時僕はもう、聖ウルスラ騎士団に所属する騎士でなく、ただの優柔不断なつまらない男にすぎないかもしれない。それでも君は、そんな僕のことを変わらず愛してくれるかい?」
「まあ、フランツったら!そもそも、わたしはあなたが騎士だったから愛したわけでも、いいところのお貴族のぼんぼんだからプロポーズを受けたわけでもないのよ。わたしはね……ああ、フランツ。あなたがあなただったから、ただあなたという人を愛したという、それだけのつまらない女に過ぎないのよ」
「ありがとう、フランシス。僕は今度のことで、もしかしたらすべてを失うかもしれない。それでも、本当にすべてこれで良かったと思ってるんだ」
――このあと、心からのお互いの愛を確信しあったふたりは、菩提樹の木の下で、随分長く時を忘れて色々な話をした。まるで、つきあいはじめた最初の頃のように、話したいことであれば尽きぬほどたくさんあった。そして最後にふたりは、「愛してるよ、フランシス。僕のかわいい人」、「わたしもよ、フランツ。ああ、フランツ!わたしのフランツ!!」、「僕のフランシス!!」……といったように、他の誰かが聞いていたとすれば、その甘ったるさに胸焼けを覚えるような告白を何度となく互いに与えあい、こうして幸福な吐息とともにようやくのことで手を離し、別れのキスを交わしていたわけである。
そうしたわけで、今のフランツに怖いものはもう何もなかった。彼は今、馬上試合における死さえ覚悟している。何故なら、これはメレアガンス伯爵夫妻、それに巫女姫を目の前にした御前試合――そこでフランツは、他でもないフランソワ・ボードゥリアン騎士団長の罪を裁こうとしているのだから!!
もっともフランツは、騎士としての実力に差がありすぎるあまり、そのような話はフランソワと出来ない可能性もあるとは思っていた。また、セドリックにしても「あまり御無理なさいませぬよう、何よりも御自身のお体を大切に戦ってください」と、ほとんど頼み込むような勢いで、彼の瞳を真摯に見つめていたものである。
だが、紋章官のマルセル・ド・オーヴァリーが殴られて大怪我を負ったのみならず、非常な興奮状態にあることから、紋章官補佐の彼の弟、マルタン・ド・オーヴァリーが騎士としての宣誓を両騎士に求め、試合開始の旗が振られてのち――フランツの身には、驚くべきことが起きていた。確かに彼はここのところ、いつも以上に熱心に鍛錬に励み、騎士としての実力が短期間で上がっていたことは確かであったろう。だが、それもほんの一月にも満たぬ、付け焼刃的なものであることは、フランツ自身重々承知していることであった。
にも関わらず……フランソワが探りを入れるように槍の穂先で打ってくるその打撃をフランツはすべてかわし、彼以上に強い打撃を何度となく繰り出していたのである!!
(これは一体なんだ?フランソワの槍がまるでスローモーションのように、妙にゆっくりと見える……いや、フランソワがこんなに弱いはずはない。ということは、彼はまだ手を抜いているということなのか!?)
試合序盤から防戦一方に追い込まれ、驚いたのはむしろフランソワのほうであったろう。しかも、フランツの動きは明らかに彼の先々の攻撃を読んだものだった。それに、槍の一撃一撃が重いだけでなく、精確に速く、連続して打ち込まれてくる。
(この戦い方は、まるで、まるで……)
フランソワは生唾を飲み込んだ。聖ウルスラ祭における馬上試合は結局のところ出来レースのようなものである。ゆえに、あまり鍛錬に励んで来なかったというのは事実であった。とはいえ、彼は部下たちにしめしがつかぬほど、日々修練を疎かにしてきたというわけではなかったからだ。
聖ウルスラ騎士団内でのことについてなど、ほとんど何も知らないに等しい観客席の市民らは、同じように青い鎧に身を包んだ騎士について――いまや、強く押しているように見えるフランツのほうこそが騎士団長なのでないかと疑っているほどであった。使用している盾に、ペンドラゴン王朝の紋章、それにメレアガンス州の紋章、さらには彼らボードゥリアン家やボドリネール家の紋章などが描かれていることで、実際にはそれでどちらが騎士団長で副騎士団長であるか、見分けるのは容易だったはずである。だが、試合がはじまって十五分とせぬうちから、闘技場を支配していたのはすでにフランツ・ボドリネールのほうだったのだ。
最後、激しく何号となく打ち合った果てに、フランソワの槍の穂先が折れた。彼はすかさず剣を抜いたが、フランツはこの時、まるで自分の優位な立場を捨てるかのように槍を遠くへ投げ、地面に突き刺ししていた。フランツは何か深く考えてそうしたわけではない。単に体が今までの一連の動きと同じく、勝手にそのように動いたというそれだけだった。
だが、剣同士の戦いにおいても、フランソワは互角どころか、むしろ劣勢を強いられた。フランソワにはこの時、いつになくフランツが大きく見えた。何故なのだろう……彼は今の今まで、親友の弟に対してそのような畏怖の感情を抱いたことは一度としてない。だが、この時だけは別だった。フランソワには、聖ウルスラ騎士団の副騎士団長が、青き鎧を身に着けた、自分よりも存在の大きい不気味な怪物か何かのように感じられて仕方なかったのである。
(こいつは、本当にフランツなのか!?)
顔のほうは、冑の面頬が下りているがゆえに、はっきりとはわからない。だが、目のあたりを見る限り、それは親友の弟に相違なかった。それは間違いないはずなのだ。フランソワは盾によってフランツから繰り出される重い斬撃を防ぎつつ、どうにかこちらから反撃する機会を窺った。最早フランソワの脳裏には騎士団長としての誇りある戦い方だの、大衆の面前で格好悪く負けるわけにはいかないだのいう、そんな体面すら遠のいていたといってよい。
と、同時に、観客席の野次やら歓声やら、さらには伯爵夫妻が見ているという眼差しのことも、恋人である巫女姫の姿すら遥か彼方にあるかのように、フランソワには遠く感じられた。まるで何かの呪いにでもかかっているかのように、体がやたらと重い。フランソワはとにかく、なんでもいいからこの試合が速く終わって欲しいと願った。一分一秒でも速く、この円形闘技場から出たい。そして、そのためには上手く相手を打ち負かす以外にはないのだ……。
この時、フランソワは必死に戦いながら、ほんの一瞬、その昔、彼がまだ小さかった頃、父親が話してくれたことを思いだしていた。大罪人同士がこの闘技場で戦い、血みどころになりながら、相手選手の体をいかに残酷に切り刻んだかということを。
『その戦いには、時に手心が加えられることがあった。つまり、何人もの女性を殺した殺人鬼のような男が……その容赦ない冷酷さから勝ち上がってくることがあったが、最後の最後、自由の切符に手が届くかというところで――絶望を味わわせるんだ。観客席の客たちが、血湧き肉踊る戦いに酔いつつも、この男が勝って自由になることを明らかに望まぬような場合、その選手のことを射手が射抜き、相手のほうを応援するんだな。むしろ、その一撃で死んだとしたら、その殺人鬼の男にとっても幸福だったことだろう。だが、矢は急所を外れて肩に刺さった。相手選手はすかさず男に襲いかかる。何分、ここで殺らなきゃ自分が殺られるまでだからな。まったく、容赦のないひどい殺し方さ……』
フランソワは普段から、どんな熱情に身を任せている時でも、頭の芯だけは冴え渡っているような、冷静なところのある男だったが、この時は違った。何故だか、昔父親が話してくれた闘技場での呪われた試合のように、目の前の男を殺さなければ自分が殺されるような錯覚を覚えていたのである。ゆえに、フランツから繰り出される斬撃を防ぎ切り、彼が一瞬馬を引かせると、フランソワは反撃に転じた際――猫に追い詰められたネズミのように、手段を選ぶことはなかったのである。
(死ね!!この亡霊めっ!!)
フランソワは容赦なくフランツの首を狙った。フランツの頭は冑によって、首のほうは鎖かたびらで守られてもいた。だが、フランツの体はその激しい攻撃の一打にかしぎ、馬上でよろめいた。フランソワはさらに、フランツの頭を守る冑の部分を殴打した。馬のほうでも、主人の異変を正確に察してでもいるかのように、この恐ろしい敵から遠ざかろうとする。
おそらく、紋章官マルセル・ド・オーヴァリーであれば、この時点でフランソワとフランツの間に割って入ったかもしれない。だが、彼の弟マルタンは、いつも兄が審判する試合のほうを見、あとからマルセルより何が決勝点だったか、審判としての相応しいふるまいについてなど、解説されるといった教え方をされるばかりで――レフェリーとして十分経験を積んでなかったことから、どうして良いかもわからず、ただ立ち竦むことしか出来なかったのである。
頭部の攻撃については反則ではない。だが、こうした公式の馬上試合においては「騎士らしくないふるまい」として、あまり推奨されてはいないというそれだけだった。フランツは落馬しそうになる体をどうにか支え、ずれた冑を少しばかり調節した。耳のあたりをしたたか打たれたせいで、めまいがするのと同時、少しの間よく物が聴こえぬほどでもあった。
フランソワがこの機を逃してなるものかとばかり、続けざまに襲いかかって来……今度はフランツのほうが防戦一方へ追い込まれた。先ほどまで観客席では「やれ、そこだ、やっちまえっ!!」といったやんやの喝采が上がっていたが、いまや円形闘技場はしんと静まり返っていた。そうなのである。一同はこの段に至って初めて、次のことに思い至ったようだった。つまり、おそらく聖ウルスラ騎士団の騎士団長と副騎士団長の間には確執と呼べるほどの何事かがあり、その決着を今このふたりはつけようとしているのだということを……。
「何故貴様は騎士団長になるのに、サイラスに不正を働いたんだっ!!ええっ!?」
「それが今こんなところで話すべきことかっ!!言いたいことがあるなら、もっと早くに他の場所でいくらでもする機会はあっただろうがっ!!」
「はんっ!!こんな場所だからに決まってるだろうがっ。じゃなかったら僕の話なんか、適当にいなして聞く耳すら持つ気もなかったくせに……っ」
ふたりは互いに剣によって一打打ち合う事に、面頬の桟(さん)の奥からそのように大声で怒鳴りあった。ふたりはすでに興奮状態であり、最前列にいる伯爵夫妻と子爵であるエレアガンス、それに巫女姫らにも自分たちの会話が届いているとまではまったく考えなかったようである。
「それで、フランツっ!!結局おまえはどうしたいと言うんだ!?今の今まで目にかけてきたこの俺の恩も忘れ、今度からは楯突こうというわけかっ!?」
「違うっ。それに、目にかけてやった恩だって!?馬鹿も休み休み言えっ。貴様には僕くらいの実力しかない奴のほうが、副騎士団長としてちょうど良かったんだろうさ。サイラス殺害のことに関してやましいところがあるものだから、同じサイラス派のことをまとめるのにちょうどよく利用していたという、ただそれだけのことだろうがっ!!」
「おのれっ!!こいつ、言わせておけばっ……!!」
これがもし別の時であったとすれば(たとえば、居酒屋で酔っ払った時にでも)、フランソワも冷静さを保ち『フランツも言うようになったものだ』と、ある部分感心した可能性もあったに違いない。だが、フランソワはやはり、今目の前にいる騎士に対し(もしここで殺すことが出来なければ、自分のほうが窮地へ追い込まれる)と感じていた。いや、伯爵夫妻の御前で罪の告発をされたからではない。その点についてであれば、フランツの逆恨みであるとして、あとからでも弁解することが十分可能であったろう。
フランツとフランソワの戦いは鬼気迫るものがあり、さらには互いに力と力が拮抗していた。ゆえに、何十度となく激しく打ち合ったにも関わらず、決着の着く気配がまるで見えない。フランソワは審判である紋章官がマルセルではない以上、采配を仰いでも無駄であるとわかっており、彼の弟マルタンのほうには一瞥すらくれることなく、フランツのほうを鋭く見つめたまま言った。
「フランツ、もう一度槍を取れ。こうなったら一騎打ちによって決着を着けよう」
「いいだろう。貴様は誰かに折れた槍の代わりを持って来させるんだな。サイラスの時のようにもう不正など出来ないだろうが、汚い真似だけはするんじゃないぞ」
この瞬間、フランソワの頭には再びカッと血が上った。おわかりいただけるだろうか。彼にとってフランツ・ボドリネールという男は、親友の弟ではあるが、格下の、決して自分に楯突くことはあるまいという安心感の持てる人間であるがゆえに……フランソワは侮っていたと同時、ある種の強い信頼感を抱いてもいたのである。だが、いまやその信頼感を完全に裏切られた――というのは、流石に虫のいい話だったに違いないが、とにかくそのような存在に今度は逆に侮られ、見下すような態度を取られるというのは、多くの人にとって耐え難い恥辱となることではないだろうか。
「わかった、フランツ」と、フランソワは気を変え、じっと眼前の敵を睨み据えながら言った。「そこまで言うのならば、鋼の真槍によって勝負しよう」
「いいだろう」
もしこの場に、マルセル・ド・オーヴァリーがいたとすれば、ふたりの間に割って入り、どうにかしてやめさせたことだろう。だが、マルタンはどうしていいかまるでわからなかった。ただ、騎士団長であるフランソワから「紋章官殿もそれで良いな!?」などと、常ならぬ形相でギロリと睨まれ、「ええと、は、はい……」などと、情けない声を出すのが精一杯だったのである。
ところでこの時、自分の近衛隊とともに、メレアガンス伯爵夫妻の後ろに座っていたセシル・ヴォーモンは、この機を逃さずメドゥックの耳にこう囁いていた。「伯爵さま、僕は今、大法官として聞き捨てならぬ言葉を耳にしてしまいました。副騎士団長のフランツ・ボドリネールは、聖ウルスラ騎士団の騎士団長を決める際の試合のことに言及しているのでございます。またそれは、かねてよりずっと噂のあったこと……僕は、この州の法律に関わる者として、この件について調査せねばなりません。まことに遺憾なことですが」
(セシルさま……!!)
ヴォーモン卿の隣に座っていたクロードもアゼルもユーリスも、自分の主人の言葉に胸を熱くした。これで、とうとう本当の意味でフランソワ・ボードゥリアンの上に正義の鉄槌が下されることになるだろうと、彼らは期待をかけたのである。
だが、実際にはメドゥックはセシルの耳打ちをまったく快くは思わなかったようである。伯爵閣下は不快気に眉を顰めつつ、「よかろう」と、一応の承認を与えはした。「しかしながら、余はボードゥリアン騎士団長の潔白を信じておる。彼は誇り高い、高潔な男であるがゆえにな……おそらく貴公が調べても、騎士団長が潔白の身であることがわかるだけであろうと信じておる」
そうなのである。メドゥック=メレアガンス伯爵はフランソワ・ボードゥリアン騎士団長に絶対の信任を置いていた。むしろ、今回の馬上試合トーナメントにおいては、彼の部下の騎士らの不甲斐なさが目立つ試合が多く、フランソワのことが気の毒になるほどであった。というのも、フランソワは彼の愚息エレガンの幼少時からの剣の師であり、彼が騎士団長に相応しい人柄と実力を有していることは、メドゥックはそれ以前によく知っていたわけであった。
二槍の真槍の用意がなされるまで、十分ほどの時が流れたであろうか。何分伯爵夫妻と巫女姫が共にいらっしゃる御前試合である。聖ウルスラ騎士団の幕営からはすぐにその旨を伝え聞いたフランソワの従騎士、ディロン・ボードゥリアンが真槍を取りに走り(彼はフランソワの四つ年下の従兄弟である)、フランツの真槍については、聖ウルスラ騎士団にある武器庫のほうから、セドリックがよく手入れのなされたものをすぐに調達してきた。
彼らふたりの性格と技量を知っている者たちにとって、この真槍による一騎打ちは、明らかにフランソワに分があるように思われた。というのも、フランソワは騎士団長になる前ではあるが、従軍経験があり、肝のほうも座っている。だが、フランツはやはり、騎士として性格の根底部分に優しさと幼さがいまだに残っていた。彼は稽古熱心であり、日々の鍛錬も欠かしたことはなかったが、それでも命のやりとりまでかかった真剣勝負の経験まではなかったからである。
今までの馬上槍試合で何度かあったように、柄の部分が木製で、穂先のみが鉄製の槍というのは、試合中に折れるということがある。だが、この場合の真槍というのは、柄の部分もすべてが鋼によって出来ており、この鉄製による槍の本気の一騎打ちというのは――肩に受けても大怪我、さらには喉や腹にまともに食らって跳ね飛ばされた場合、そのまま重症を負って死ぬということも、戦場ではままあることだった。
円形闘技場の観客席は、二振りの真槍が届けられるまでの間、長い間ざわついていた。だが、最前列の一隅を占める音楽隊の座席から、試合再開の高らかなファンファーレが鳴り響くと、潮が引くように再び静かになっていったのである。
アスブルモンから殴られ、大怪我を負ったマルタン・ド・オーヴァリーであったが、幕営で衛生官から怪我の治療を受けていると、フランソワの従騎士が慌ててやって来、公式試合では滅多に使われることのない真槍を下ろすのを見て彼は驚いた。だが、ディロンから話を聞き、どういうことかがわかると、「こうしちゃおれん」と、弟のマルタンに何をどうすべきか知らせるため、自身の従騎士を使いとして送ることにした。
「アルゴン、貴様はこの素晴らしい騎士同士の戦いを審判する機会を、この俺さまから奪ったのだぞ。一体どうしてくれる!?」
「わかってるよ。だから、罪の償いになんでもすると言ってるだろうがっ!!」
マルセルとアルゴンの間にあった馬上試合における誤解については、互いに怒鳴りあいながら怪我の手当てを受けるうち、一体何が悪かったのか理解しあうようになっていた。そこですでに和解へ至っていたわけだが、この時アルゴンはマルセルに肩を貸すと、騎士専用の見物席のほうへ一緒に階段を上がっていった。そしてこの時、ちょうど試合再開のファンファーレが鳴り響いたところであり、観客席がいつものように騒がしかったりどよめいたりしてもいなければ、ひとつの野次も飛んでいないのを見て――ふたりはそれだけでも一種異様な雰囲気をあたりの空気に感じ取っていた。
「真槍の槍で騎士のふたりが本気で一騎打ちするとしたら……」
アルゴンは、マルセルの肩から自分の手を外すと、彼のことを座席に下ろした。そして、ほとんど無意識にそこまでつぶやいた友の言葉を、マルセルが引き受けるようにして言う。
「ああ、そうだ。どちらか片方が大怪我をするか、死ぬかのいずれかしかないぞ」
>>続く。