戦略的に出世する技術
加谷珪一
かんき出版
すげえタイトルの本だが、要は自分自身をひとつの商品とみなし、会社を市場とみなしたうえで経営学の手法を使って出世しようという内容である。
平社員時代は成長戦略を、係長時代はマイケル・ポーターの競争戦略を、課長時代は組織論を、部長時代はマーケティング理論を、そして役員時代はロジカルシンキングを用いる、という具合じ、出世の階段ごとに経営学の様々な分野をあてはめていく。タイトル通りに出世ノウハウ本ともいえるが、わかりやすい経営学の教科書みたいな側面もある。
経済学と経営学は何が違うのかという素朴かつ深淵な質問がある。いろんな人がいろんな答え方をしているが、むかし読んだ本で「経済学は最終的には全員が富を分配される方法を見つけ出すのに対し、経営学は最終的には富を独占する方法を見つけ探す学問である」という主旨のことが書いてあって膝をうった。
そこから連想すれば、すなわち「出世」というのは「会社が成果とみなすもの」をいかに独占するかということになる。最近は360度評価みたいな人事評価もはじまっているし、従来型のピラミッド型組織構造ではない組織体も増えてきたから、効果的な独占と戦略的な分配にはますます頭を使うことになるだろう(本書に出てくる、会社のボスがピラミッド構造をやめて社員のフラット化をはかろうとしているとしたらそれはボスが独裁をねらっている、という話は目ウロコだった)。こうなってくるとマキャベリの君主論みたいな世界になってきそうだが、一方でこういうことに汲々していると、結局は「世界一孤独」と揶揄される、会社の外ではまるで居場所のない典型的な日本のおじさんになっていくようにも思う。成果の独占と引き換えにその人が排他したものはなんだったのか、という問いかけは悪魔の取引のようだ。
要はなんであれ、自分の幸福につながっているかを気にしたいものである。