読書の記録

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アップル帝国の正体

2013年09月18日 | 経営・組織・企業

 アップル帝国の正体

 後藤直義 森川潤

 スティーブ・ジョブスの栄光だけに注目が集まりがちなこの世界において、本書はなかなか野心作といえる。

 本書の中身は、オビにある通り、日本企業は、メーカーも家電流通も携帯キャリアも、みんなアップルという会社の下請け、もっといえば植民地になっていたという話。

 たとえば、あのシャープの亀山工場、いまやiphoneの液晶ディスプレイ専用の工場になっていたなんて、知らなかったなあ。しかもアップル以外のものを製造してはいけないらしく(少年ジャンプの漫画家しばりのようだ)、増産も減産も、それどころか発注停止もアップルの意のままということになっているらしい。
 また、家電量販店にいくと、これでもかというくらいケースカバーを売っているけれど、iphone本体ではまるで利益が出ないので、こういう周辺パーツで利幅を確保するのだそうだ。しかも亀山市の家電量販店にはiphoneは売ってないのだとか(田舎すぎてアップルが売らせてくれないのだとか)。
 携帯キャリアに関しても、そうとうアップルに有利な条件がついているらしく(まさか、月々の通信料からも一定率の上納金があるとは)、本書刊行の時点でドコモの参入は決まってなかったわけだが、ついにドコモが条件を飲んだということだ。

 興味深いのは、アップルは自社の儲けを最大限にするために、取引先の利幅を極力とらせないようにしてきた、ということだ。大量に発注するから一件あたりの利益率はぎりぎりまで詰めさせ、さらに独占契約をさせて他社と商売させなかったり、かなり高レベルの秘密保持契約を結んで、決算書にさえアップルの名前が出てこない(つまり、アップルと取引していることを宣伝に使えない)、とか、とにかく取引相手にスキを与えない、というか商売の余地を残さない徹底ぶりがすごい。

 ここらへんの発想はやっぱ肉食人種だなあと思う。ヤマダ電機もそうとうメーカーをいじめていたとされているが、他店と商売させないところまではなかったのでは。

 

 ただ、アップルの市場インパクトのすごかったところは、やはりさまざまな家電カテゴリーを淘汰してしまったところだろう。確かにさいきんデジカメもムービーも買う気もないし、電子辞書だって必要ない。専用のモバイルオーディオもいらない(ipodさえ必要ない)。僕はほとんどゲームをしないけれど、DSもPSPももはや今後買うとは思えない。非常に高いクオリティのところでオールインワンの製品をつくりあげてしまうこの力技は、日本の総合家電メーカーのように縦割りカンパニー制をとっていたところがもっとも不得手なところであった。

 一方、こうやってみてみると、日本の家電メーカーはほんとにもう元気がないんだなあと思ってしまう。
 ソニーは言うにおよばず、パナソニックもシャープもここのところいい話をまったく聞かない。10年くらい前までは、ソニーブランドの力はすごいものだったのに、先だって二十代の人と「たいした実力でもないのに偉そうにしているブランドってどこかな」って話したら、真っ先に返ってきた答えが「ソニーですかね」だった。
 そして日本の中にいるとなかなか実感わかないが、世界的には韓国、台湾、中国のメーカーが席巻しているのである。

 

 あらためて思うに、資本主義というのはガッツのある奴が勝つのだなとつくづく感じる。「勝つ」というのは、ライバル会社だけでなく、取引先の生殺与奪の権を握る、ということに他ならず、WIN-WINなんてきれいごと言っていると呑まれてしまうということなのである。スティーブ・ジョブスという天才にして偏執的ともいえるガッツ野郎の登場で、われわれ生活者はすばらしいツールを得ることになったわけだが、供給サイドの事情はまた別なのだ。(ただ、ジョブスが生きていれば、iPadminiやiPhone5cは許さなかったのではないかという本書の指摘はアップルの今後を考える上で示唆に富む)

 ドコモのiphone参入により、これでもう国内の携帯メーカーはほぼおしまいな気がする。これで、iTVが発売されたら市場はどうなってしまうんだろう。

 


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