さて、昨日までの記述内容をまとめますと、軍事研究を成功させるためには民主主義国であることが第一条件で、ナチスドイツや軍国主義日本の軍事研究は失敗し戦争には必ず敗北することが運命づけられているということになりそうです。はたしてそれでよいのでしょうか?もちろんナチスドイツや戦前の日本が大戦に敗北し、そのような体制が継続しなかったことは良かったとは思います。誰だってそう思うでしょう。しかし、それでは米国のマンハッタン計画による原爆の開発と日本への使用が正義であったとまで認めてしまうことになりそうです。米国のような民主主義国であれば原爆を作って人間に対して使用してもよいとはいえないでしょう。実際にマンハッタン計画に従事した物理学者の少なからぬ人々が原爆の開発と広島と長崎への投下を後悔します。最初に原爆開発をルーズベルト大統領に手紙で進言したアインシュタインはその代表です。
アインシュタイン自身は直接マンハッタン計画には参加しなかったのですが、広島への原爆投下のニュースを聞いて、「O weh!(ああ、なんということだ!)」・・・と短く呟いて絶句したと伝えれられています。戦後アインシュタインはラッセル・アインシュタイン宣言を世界に発し(実際には宣言起草直後にアインシュタインはこの世を去って、共同起草者の哲学者バートランド・ラッセル一人によって宣言された)反核運動の先駆けとなります。
またマンハッタン計画を先頭に立って主導したオッペンハイマーは、核軍拡に反対し、マッカーシーの赤狩りにより公職を追放されました。先ず原爆研究に従事した多くの科学者が、自分の行動を後悔し、「科学者の社会的責任」(上の書物では、このことを詳細に検討しています)という研究者倫理を問う端緒となったのでした。
以上の歴史を見る限り、民主主義国の軍事研究だから「善」とは言えないと思います。