博多住吉通信(旧六本松通信)

 ブログ主が2022年12月から居住を始めた福岡市博多区住吉の生活や都市環境をお伝えします。

グリーンランドは誰のものか?

2025年01月24日 | 歴史
 ドナルド・トランプ氏が去る1月20日に第47代米国大統領に就任しました。トランプ氏は就任式の前からいろいろ物議を醸す発言をしていますが、なかでも北極圏にある世界最大の島グリーンランドの領有を堂々と主張しているのは驚きです。その理由が米国の安全保障のためと実にあからさまです。安全保障を理由の一つとしてウクライナを侵略しているロシアのプーチン氏への「当てつけ」なのではとすら思ってしまいます。しかもトランプ氏は前回の政権時の2019年にも同じことをデンマーク政府に提案しているので単なる冗談ではなさそうです。
 グリーンランドは面積こそ日本の6倍近い大きな国土ですが、その8割を分厚い氷河に覆われ寒冷な自然環境のため人口はわずか6万人弱です。16世紀からデンマークの植民地でしたが、1979年にグリーンランド自治政府が発足し、2003年に自治権の大幅な拡大が行われました。自治政府はEUにも加盟していません。ですからグリーンランドが誰のものかと問うならば、グリーンランド人のものに決まっているのですが、トランプ氏は全く意に介さないようです。
 もっとも歴史を顧みますと、実はグリーンランドは第二次世界大戦中に米国に占領されていたことがあり、その後も現在に至るまで米軍基地を維持しています。1940年にデンマーク本国がナチス・ドイツに占領されたため、翌年デンマークの駐米大使が米国にグリーンランドのドイツからの「保護」を要請。これを受けて米軍がグリーンランドに進駐し、各地に軍事基地を設けたという歴史があります。終戦後の1946年には当時のトルーマン米国大統領がデンマーク政府に1億ドルで売却をもちかけたこともあるそうです。確かにグリーンランドはロシアと米国の中間にあり軍事的・地理的に両国にとって重要な位置にあります。デンマークが北大西洋条約機構(NATO)の加盟国でもあることから、米国は戦後の1951年にグリーンランド北部のチューレに空軍基地(上の写真です 注1)を設け、最盛期には1万人の米国戦略空軍(SAC)の要員が駐留していたそうです。2023年4月には米国宇宙軍の管轄になりピツフィク宇宙軍基地に改称されました。この場所で米軍は57年前に大事件を起こしています。1968年1月21日にグリーンランド上空を飛行していたB-52ストラトフォートレス爆撃機の機内で火災事故が発生。チューレ空軍基地の沖合11キロの海上に墜落し、脱出を試みた7名の乗員の内1名が死亡しました。驚くべきことに同機は4発の1.1メガトン水素爆弾B28FI を搭載しており墜落の衝撃で海上で爆発したということでした。不幸中の幸いとして爆発したのは起爆用の爆薬で核爆発に至らなかったということでした。もし核爆発が起こっていたら広島型原爆の400倍(1発で100倍です)の威力を持つ核爆発が起こったことになります・・・核爆発は回避できましたが大量の放射性物質でグリーンランド沿海部は汚染されました。除染作業に携わった作業者の内400人が癌で死亡していたことが1995年に判明し、翌々年にデンマーク政府は賠償金を1700名の作業者に支払ったそうです(注2)が、被害者による訴訟は21世紀まで継続しています。
 こうして見ると80年以上にわたって米国はグリーンランドで好き勝手に振舞っていることが分かります。トランプ大統領が、いま改めて購入する必要もなさそうなのですが。
(注1)チューレ空軍基地の写真はWikipediaから引用させていただきました。
(注2)https://www.kojitena.com/entry/b-52tyu-rebeigunnkiziko/

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