地震とか、津波とか、予言とか、占いとか。この世の中は人智を超えるものが注目を浴びています。
しかし、そんなものを置いてドライブが趣味な私なんです。
そんな私が一度だけ、厄介な運転手に出会ったお話をしましょう。
最近何かと多い、あおり運転です。
これは私が免許を獲得してしばらく後、運転にも慣れてドライブを始めた頃の話なんです。私は慣れてきた運転にテンションが上がって、速度制限ギリギリのスピードで運転していました。
あの時は細い道路に側には山が広がる道を走っていたのですが、前で走っていた車が突然蛇行運転をし始めたのです。
初めは飲酒運転か何かだと思いましたが、私の背後では車が走っていなかったので、蛇行運転やらせておこうと思って。
特に気に留めていませんでした。
けど、急に速度を大幅に落とされたり、信号でない場所で止まったりされた時は、流石の私もイラついたものです。
そして、イライラに耐えかねてクラクションを鳴らしてしまいました。今思うと、やはりこれがいけなかったんだと思います。
クラクションを押してしばらく走った後、突然前の車が停止、運転手が降りてきました。なんだと思った私は、突然窓をノックされたのです。
「はい、なんでしょう?」
クラクションを鳴らしたのは自分なのですが、流石に運転手の方からこちらに来るとは思いませんでした。あおり運転とか、そのような類は人生で初めて経験するので。
「おい、降りろ」
「はい?」
正直、よくわかりませんでした。だって、急に来て急に降りろなんて訳がわからないでしょう。
ですが、とりあえず降りました。その場の雰囲気というやつです。
「お前な、俺ぁ急いでんだよ。んなのにプープー鳴らしやがって」
「いや、蛇行運転してましたし、突然停車するのも少しどうかと......」
「正論言われたら何も返せねぇじゃねぇかよ! あぁ!?」
突然怒られました。しょうもない理由で。その人は威圧で私を一歩、また一歩と後退りさせてきたのです。その人は後退りした私を追いかけるように一歩一歩進んで、本当に気押された感覚でした。
「お前よ、マジで急いでんのわかんねぇの? 早くしねぇとダメなんだよ!」
それだけ言うと、後退りさせた意味がわからないまま車に乗って走り始めました。本当に意味のわからない人です。私もとりあえず車に戻って、今度は少し距離を置いて走ったのです。せっかくのドライブが台無しですよ。
「はぁぁ、なんなの......」
落ち込んだ私は、目の前の光景に度肝を抜かれました。
「なんなの、これ......?」
目の前には、大量の巨大な岩が無数に転がっていました。それを見た私は、車から降りてこちらに向かってくる人影に気がつきませんでした。
「くそっ、お前のせいで遅れたじゃねぇかよ!! ゆるさねぇからな!!」
「......すみません......」
恐らくこの岩は、私が見つけるすぐ直前に落下したもの。なのですが、車に戻ったお怒りの様子の人は、突如訳の分からない事をし始めたのです。
「え、ちょ、まっ─────」
大きな音を立てて、前方の車は爆発しました。あの人は、自らの車内でガソリンを撒いて、そして火をつけたのです。
私を怒っていた気の強いあの人の声が、虚しく弱々しい叫び声に変貌する様子を目撃しました。その声をしっかりと耳に焼き付けました。瞬間全てを理解した私はその場に崩れ、泣きました。
私がもっと話を早く終わらせていれば、こんな光景を見ずに済んだのかもしれない。私がクラクションを押さずに我慢していれば、あの人は苦しまずに済んだのかもしれない。
業火の中叫び続ける人の声は、いずれは消え、やがて無くなってしますのだと知りました。
あの人は亡くなったようです。葬式には参加しませんでした。遺体は見ました。手も合わせました。私のせいでこんな苦しんで亡くなった人に、せめてあの世では安らかに眠ってほしいと、そう思いました。
あれからしばらくが経ちますが、あれ以降あおり運転の類には遭遇せずに平和にドライブを満喫しています。この話をすると時々、頭がおかしいと言われるのですけど。