ありふれた人生
もう何も考えまい
君が欲しかったものも
僕が欲しかったものも
生きていくことの愚かささえも…
早速
風邪を引いちまった
得てしてこんなもんだ
気が緩むと…
すぐに…
春なのに
思いのほか寒いせいもあって…
近所のドラッグストアで…
カミさんが出かけて２日目
今頃はもうパリの空の下？
グウタラ娘と一緒に…
パックじゃなくフリーらしいけど
グウタラ娘が一緒じゃ
テキトーな旅行になりそうな…
まぁ…
僕の知ったことじゃない
行きたいところへ行けばいい
それより
出かける前に用意された
昼メシや晩メシのいろいろ
作り置きの
カレーやハッシュドビーフのシチュー
おでんやほうれん草の胡麻和えに
サンドイッチやお好み焼きの冷凍などなど…
加えて
インスタントラーメンや
晩酌のつまみ類も…
用意された料理
全て処理するのも大変だぜ
どっちかといえば
そんなものより現金を渡してくれて
好きなものを食べれる方がありがたかったのに…
僕の性格をよくわかってて
現金を渡せば
どうせロクなことに使わないだろうと…
でも
こんな時だからこそ
一生に何度あるかないかわからない時だからこそ
メシの心配などせず現金を置いてってくれた方が…
気が利くように思えて
全く気の利かないヤツだ
抜け目がなさすぎる
わかってるけど…
（もっとも…信用されてないオレもオレだが…）
（グウタラ娘のダンナはどうしてるんだろう？）
（ダンナの方が料理上手だから全く心配不要か）
近所のドラッグストアで風邪薬を買って
家のすぐ目の前まで歩いて帰ってきたとき
白いワゴン車が横付けするように停まった
今日はウォーキング？
運転席から顔をのぞかせたのは
ひとつ年上の隣町の建築会社の社長
社長というよりも親方みたいな？
いつだったか屋根の庇を修理してもらって…
おお〜ッ
誰かと思えば…
この間のロードレース
ハーフだっけ？
走ったの？
いや…
その前にあった○○マラソンに出たから…
毎年似たような時期でさ
オレはフルの方を走ることにしてるんだ
なるほどね
それにしても
毎日時間持て余してんじゃないの？
歩いたり走ったりさ…笑
（いつも見られてんのか？）
まぁね…
社長みたいに働き者じゃないから…笑
最近プータローがすっかり板に付いてきたよ
もったいないねぇ〜
その若さで…
若くはないさ
それに４月からは
孫守りで忙しくなるんだよ
へぇ〜
ジイちゃんのお仕事
あるあるか？
ガンバレよ〜
社長は笑いながら
手を上げて去っていった
忙しくはならないだろうけど
こども園とやらの送迎
毎日初孫くんと顔を合わせるのも
なんだかな〜
年度替りで忙しいはずの最中に届いた
チームの某メンバーからのLINE
どこかでヨタヨタ走るジジイを見かけたらしく…
６月のウルトラに続いて
またもや９月のウルトラの誘い
９月は２週連続走る予定だと…
地元の大会と隣県での大会を…
100キロのウルトラだぜ？
２週続けての100キロ！
バカじゃないのか？
バカなジジイも
走りたいのはヤマヤマだけど…
６月のウルトラをエントリーしたところだし
それもまだ足首や膝が全然治ってないのに…
なんだかな〜
（そんなことより風邪！）
やったぜ〜ッ！
なんというカイホーカン！
ついに…
ついに〜
天国っていうのはこのことか？
このことだろう！
これしかないさ！
何もかもが素晴らしく感じられ…
口では言い表せないほど…
小雨が降り始めた暗い春の空だって…
効き目が悪くなったワイパーだって…
治りそうにない左足首の痛みだって…
何もかもが…
いまは…！
神様…
ありがとう！
本当にありがとう！
やったぜ〜！
ミ〜ちゃん！
やったぁ〜！
コンニチハ〜
11〜12キロ地点
左横から追い抜きざまの声に驚かされた
思いもかけなかったから…
耳にイヤホンを差し込んでたせいもあったが
少し前に交差点を渡って後方を確認したとき
僕の後ろには誰も走ってなかったはずだし…
顔を見ても
一瞬
誰だかわからず…
サングラスをかけた横顔が
何故だか色白の少年のように見えて…
（ジジイの視力…最近劣化が激しく…）
（劣化というより老化ということか…）
よく見ると
ラン友の某女史
アラフィフの…
ラン友といってもチームも違えば
一緒に走ったことも全くなくて…
一緒には走れない…
何故なら
彼女の方が断然速いから…
レベルが違う
クラスが違う
もちろんキャリアも…
今は影を潜めてきたけど
若い頃はいろんな大会で
何度も入賞していたはず…
よお〜ッ！
オツカレ〜
声をかけた途端
彼女は手を振って僕を軽く追い抜いて行った
そう…
軽く…
何しろ速いから…
目の前から
あっという間に遠ざかりつつある彼女の後ろ姿
文字どおり
針金のように細い身体は
バネのように弾みながら
頭の大きさだけが妙に目立っていた
社会人のオトナの娘もいるというのに
そこいらのアラフィフのオバちゃんじゃない
まさしくランナーのフォーム…
（そこだけは彼女が羨ましい…）
（元々骨格が細いんだろうな…）
（オレはとてもなれそうにない）
（いくら走り込んだとしても…）
（いくらダイエット励んでも…）
なんとか
キロ７分半を切れた今日の17キロジョグ
（上々じゃないか…）
７分半で喜んでる場合じゃないのは
重々承知しているけど…
歩くのと変わらない
キロ10分でしか走れなかったついこの間が
まるでウソのようだから…
ヒトの身体って不思議だ
こんなジジイになっても
まだ元に戻ろうとしてて…
（戻ることが良いことなのか悪いことなのか…）
（って…戻るのか？治るのか？ボロボロでも…）
それでも
快方に向かってるのは間違いなく…
間に合うだろうか…
本番の４月のマラソン大会
あと３週間
いつものポニーテールじゃなく
モブ？ってヤツ？
ポニーテールだと
若いのか若くないのかわからないけど…
セミロングのモブだと落ち着いて見えて
やっぱりアラフォーなのかと…
しかも
どちらかといえば40代
いくらウェストが細くてくびれていても…
いくら目鼻立ちがクッキリした美人でも…
だけど美人のＭちゃんと比べても
まだまだ若いような感じがする？
ってことは…かろうじて30代か？
どっちにしても
コケティッシュな看護師さん
今日は会えて良かった
彼女に会わないと通院する意味がない？
できればトモダチに…
（エロジジイの密かな願い…）
相変わらず灼けてますね…
僕の顔を見るなり
懐っこい笑顔を見せた背の高い先生
そうですか？
去年の日灼けがまだ残ってるんですよ…
故障を抱えてなければ
いつものように明るく笑い飛ばしていただろうに…
先生の後ろに立ったままの
コケティッシュな看護師さんを
視野の片隅にボンヤリ感じながら
抑え気味に答えていた
笑顔は見せてるけど
これまで漂わせていた上品な明るさ
挨拶を交わしただけで誰をも癒してくれる…
それが
なんとなく薄れてしまったように感じたのは
エロジジイの気のせいか？
善玉コレステロールが多くて
悪玉コレステロールが少ないのは
いつもと同じですね
そうですか…
尿酸値の方は前回より下がりましたけど
今回はクレアチニンが高くなりましたね
クレアチニン…ですか？
これまではずっと基準値内だったんですけど…
高いってそれはどういう…？
要するに腎機能が低下してるってことです
大袈裟にいえば
人工透析に近づいてるってとこですか…
ホントですか？
ヤバいんですか？
次回の通院まで様子を見ましょう
今回だけなのかもしれないので…
パソコンの画面を見ながら話す先生の横顔
いつになく真剣な表情…
コケティッシュな看護師さんの元気のなさと
先生の言葉がつながっていると感じたのは…
僕の思い過ごしだろうけど…
少し痛み止めを多く出してもらえませんか？
痛風発作の痛み止めは
足首や膝など脚の痛みにも効果が高いのは
日頃の経験から僕にもわかっていた
いいですよ
でも飲みすぎないでくださいね
腎臓に余計な負担をかけますから…
（マジか！）
たしかに最近は飲みすぎ傾向
だからあんなにあったのに残り少なくなって…
この間のマラソン大会も
当日の朝とスタート前と途中のエイド
半日の間で３度も…
そのおかげで
痛みにも耐え完走できたんだろうけど…
帰宅すると同時に郵送されてきた
４月のマラソン大会のナンバーカード引換券
大会まで１ヶ月を切ったということか
あと３週間ほどに…
そこまでして走りたいのか？
両足首や両膝だけじゃなく
腎臓までヤられちまって…
どこかで見かけた誰かの言葉
誰だか知らないけど…
あるわけがない
ワガママで勝手な人間様たちに
満足できる回答など…
手こずっているのは
初孫くんの取り扱い
取り扱いというか…
１歳半のジコチューくん
手放しで喜んだ初誕生から１年半
シナリオのない幼い主役の初舞台に引っ張り出され
年老いた脇役たちは右往左往するばかり
泣いたり笑ったり
心の中は見えないけれど
自分でも主役だと思ってるんだろうな
ずっと…
朝起きてから
夜眠りにつくまで
母親のお嫁さんがつきっきりの日々
それがすでに１年半
甘やかしているつもりはなくても
常に主役の立場
そんな環境に慣れてしまって…
でも
４月からは子ども園
少しは変わるだろうか？
変わってくんだろうな…
変わってオトナになって行くんだろうな
良くっても悪くっても…
オトナへの入り口か…
誰かのような
哀しいオトナへの…
４月になれば彼女は…
ふと思い出した昔の歌
