ありふれた人生
もう何も考えまい
君が欲しかったものも
僕が欲しかったものも
生きていくことの愚かささえも…
○○くんのおチンチン
腫れて痛いらしいから
お医者さんに連れてってと…
いつものように朝の7時過ぎ
初孫くんを連れてきたチャラ息子から…
(マジかよ〜!)
(ジジイひとりで連れてくのかよ〜?)
お医者さんの顔を見ただけで
必ず泣き喚く初孫くんの面倒
ジジイは見切れるだろうか?
紙オムツを脱がせてみると
初孫くんのおチンチン
赤く腫れて…
おチンチン
痛いの?
そう訊いただけで
泣き出す始末の初孫くん
大丈夫だろうか?
ジジイひとりで病院まで…
まるで修羅場のような診察室
本当に…
ジジイと先生と看護師さんと3人で
泣き喚いて暴れ出す
初孫くんの身体を抑えつつ…
すごい脚のチカラですね!
看護師さんの驚く声の中で
先生も呆れて…
まだ言葉も覚束ない2歳児
チンチンのどこが痛いのか訊かれても
もちろん答えることも出来ず…
それでも
おチンチンの腫れ具合は
朝方よりは引いたようで
オシッコ検査も異常なく…
原因もわからないまま
小児科をあとにしたけど…
初孫くんをこども園へ送り届けたあと
この秋一番の寒さの中
日課の7キロジョグ…
昨日の14キロジョグの疲れが残ったまま
重い脚をなんとか進めながら
ウィンドブレーカの下は汗だく…
こんなに寒いのに
ジジイのオンボロ身体
どうなってんだ?
汗だくで走りながら
初孫くんのおチンチンの腫れって
まさか
これまでのジジイの悪事の代わりに
バチが当たったのかも?と…
(そんなことはないだろう…)
(まさかのまさか…)
ジジイのおチンチンも
すっかり縮み込んで…
寒さのせいなのか
それとも…
枯れたのは…
19歳…
そんなタイトルの歌を
19歳の誕生日に作った
半世紀近くも前のこと…
になるか?
今でも大体は覚えてる
稚拙な歌詞と
ありふれたメロディ
そして
下手くそなギターと歌…
それをカセットテープに録音して
当時付き合っていた彼女に贈った
彼女は女子大の同級生たちに
下手くそな僕の歌を聴かせたらしく
みんなからナマで聴かせてよと
チョットだけ評判になったらしい(笑)
もちろん
ナマで聴かせることはなかったけど…
遠い昔のこと…
そんなことじゃなくて…
僕が触れたかったのは…
19歳の誕生日を迎えた今日
実業団駅伝にデビューした
期待の新人ランナーりりか…
第1区の区間新記録も達成し
チームも3年ぶりに優勝して…
MGCのアユコは走ったけど
ハナミもリナも走らないのに
優勝できるなんて…
毎日の努力のタマモノ
それに比べ
ジジイは…
日々のジョギングで痛めてる膝を
両手でさすりながらのテレビ観戦…
ハラハラドキドキのゴール前…
無味乾燥した毎日に
刺激を与えた一日?
になった?
かも…
ジジイがイチオシの
セキスイのサヤカも
MGCチャンピオンのホナミと同タイム
エース区間3位のまずまずの走り…
最近
強くなってきたな…
それにしても
いいよなぁ〜
若いってさ…
19歳は到底無理だとしても
もし20代に戻れるのなら…
って…
19歳も20代も同じだろ!
60代のジジイなのに
ナニ考えてんだか…
もはや
5ヶ月前になる
かつての勇姿?
茶髪に染めた白髪が痛々しい…泣
どいつもこいつも
ジジイとババアばっかり…
60代の僕が
まるで若造に思えるほど…
まぁ
内科医院の待合室なんて
そんなもんか?
いや
やっぱり今日は
いつもより特にそんな感じがする
好天のせいだろうか?
異様なほど多い
ジジイやババアの色
受付のお姉ちゃんたちに至っては
さながら小娘に見えてしまって…
受付の手続きを終えて
待合室のソファに座ると
偶然にも先に隣に座っていたのは
少し見知った老夫婦連れ…
家でも四六時中顔を突き合わせているのに
病院まで一緒に来てるのか?
仲が良くて
よろしいことで…
僕にはとても
同じ真似はできないだろうけど…
どこか悪いのかい?
いえ
持病の定期検診みたいなもんです
そちらはどこがお悪いんですか?
糖尿やら何やら
この歳になれば病気の宝庫だよ〜笑
(そんなジジイになるくらいなら…)
(僕は早くに死にたい…いまでも…)
ときあたかも
待合室のテレビでは
今日が良い夫婦の日だと…
11月22日
単なる語呂合わせだけ…
それに軽々に乗っかる
メディアや民衆…
僕も含めてだけど…
笑っちゃうか…
笑っちゃうね…
同じ空なのに
仲良く浮かぶ雲もあれば
霞んでいく雲もあるさ…
眩しかった
思わず
目を閉じてしまうほど…
決して
逆光だったせいじゃない
もちろん
視力が弱ってきたからでもない
なのに…
眩しくて…
微笑みながら話すキミの
目尻の小皺にあらわれた
10年以上の月日の流れ…
もうアラフォーのはず…
初めて見たときはまだ20代?
だったのだろう
たぶん…
相変わらず
ノーメイクに近い笑顔
歳を取っても変わることなく…
キミの年齢は知らない
名前すらもわからない
胸ポケットの名札は目に入るものの
名前を知ったところで…
キミの眩しく輝く瞳と
透き通るほどの白い肌
細く括れたウェストに
プリッと揺れる小尻…
そして
白いスラックスに包まれた
細く長く伸びる脚
それさえ見れれば…
名前なんか知らなくても…
薄い手袋をしていない方の左手の指が
僕の陽に灼けた左腕にそっと触れて…
触れながら
軽く這うように…
それだけで
僕の鼓動は…
不意に
左腕が引き寄せられると
あるのかないのかわからない膨らみを包む
小さな胸ポケットに擦れて…
ウッと
声にならない小さな呻きを
喉の奥で呑み込んだ
世間話のような
他愛もない会話
ふと我にかえって
何かが終わった余韻の如く
溜息にも似た相槌を打つ…
いくつになっても崩れそうにない
魔法のような笑顔の眼差し
話すたびに
後ろで小さく揺れるポニーテール
はち切れる若い子のそれじゃなく
いまの彼女に似合ってる
どうにかなりたいわけじゃない
たまにでいい
大きな瞳の眩しい笑顔と
細く括れたウェストの後ろ姿
たまに目にするだけで…
それだけでいい
コケティッシュな魔法
眩しくて…
後ろから足音を刻むピッチの気配
交差点を曲がったときは
確か誰もいなかったはず…
それでも聞こえてくる
足音の気配…
振り向こうかと思ったとき
不意に右側から現れた
大柄のランナー
速い!
あっという間に僕を追い越した
そのスピードもさながら
彼のスタイルにビックリ…
このクソ寒いのに
短パンから抜き出た長い脚
リュックを背負った上半身こそ
長袖シャツだったが…
短パンから抜き出た脚は
長いだけでなく
ふくらはぎからハムストリングまで
見るからに筋肉隆々…
そして
ジジイランナーより
ゆっくりとしたピッチなのに
とてつもなく長いストライド
バネのごとく弾んだフォーム
圧倒的に
素人のジジイランナーとは格違い
彼が鋼鉄のバネなら
ジジイは折紙のようなバネ?
まったく弾むことのない…
息絶えだえで走るジジイの
目を丸くさせるほどのバネ…
アラフォー…
いやアラフィフくらいだろうか?
脚の筋肉は
マラソンランナーのそれではなく
トレイルランナーだろうか?
まるで短距離選手?
或いは走り高跳び?
それもハンパないクラスの…
それにしても
平日の午前中
仕事は?
ハッキリとはわからなかったものの
僕よりも背が高そうだったのは
ひょっとしてガイジンさんか?
そうなのかも…
背の高さといい
脚の長さといい…
そんなことより
どこから走って来たのか?
どこへ向かっているのか?
ゆったり走ってるように見えたけど
あっという間に姿は小さくなって…
あのスピードなら
おそらくキロ3分台…
4分は軽く切ってる感じか?
キロ6分のジジイを風のように追い抜いて…
追い抜くときだけ
スピードを出したわけじゃないだろう
フォームがいかにもジョグそのもの…
やがて彼の姿は豆ほど小さくなり
僕の視力では判別できなくなった
マボロシ…
のように…
11月中旬の金曜日
雨上がりの午前中
ほんのわずかな時間での出来事
僕は覚えてられるだろうか?
一年後も…
生きていられれば…