10月18日(日)大阪府立大学りんくうキャンパス獣医学舎で行われた
日本小動物獣医学会近畿において当院から那須獣医師が学会発表を行いました
以下に口演要旨を掲載します
胃幽門部にポリープを併発したリンパ球プラズマ細胞性腸炎の一例
○那須知尋、盛田耕作、盛田千里、茂山尚佑、丸岡加央梨
大正動物医療センター・大阪市
1.はじめに:
リンパ球プラズマ細胞性腸炎(LPE)は炎症性腸疾患(IBD)に最も頻繁に認められるパターンであるが、その病理発生は未だに十分に理解されていない。今回、胃幽門部にポリープが発生し胃停滞、嘔吐を呈した症例においてLPEを認め、外科的切除およびステロイド投与により良好な経過が得られたので、その概要と経過を検討した。
2.材料および方法:
チワワ、未去勢雄、9歳齢、既往歴なし。頻回嘔吐、食欲不振を主訴に来院。初診時、体温38.5℃、体重3.0kg(BCS3)、腹部触診で圧痛は認められなかった。血液検査ではWBCの上昇(25,000個/?l)、ALPの上昇(445 U/L)、レントゲン検査において胃幽門部付近に透過性の低下を認めた。腹部エコー検査上で幽門部内壁に複数のmass、運動機能の低下、胃内に液体の貯留が確認された。内視鏡検査を実施し、幽門部を狭窄していた複数の塊状病変および粘膜面の発赤を呈していた十二指腸よりバイオプシーを実施した。制吐剤による対症療法を行ったが嘔吐は続き、さらなる状態の悪化が予想されたため、病理検査結果に先立ち開腹手術を行った。腫瘤は肉眼的に十二指腸には及ばず幽門部に限局していたため、幽門部のみを切除し、ビルロートⅠ法により十二指腸と吻合した。
3.成 績:
術後も間欠的な嘔吐が続き、腹部エコー検査では胃運動の低下および胃液の停滞が継続した為、消化管運動賦活剤を使用したが症状の改善は認められなかった。病理検査において、胃幽門部の病変は非腫瘍性の過形成性ポリープ、十二指腸ではリンパ球、プラズマ細胞の浸潤を伴う炎症が認められたと診断されたため、プレドニゾロン、メトロニダゾールの投与を開始。投与開始より徐々に症状は改善し、現在まで良好な経過が得られている。
4.結 論:
本症例では、胃幽門部の腫瘍性疾患を疑い外科的手術を実施したものの良好な経過が得られず、ステロイドの投与により症状の改善が認められた。リンパ球、プラズマ細胞の浸潤は臨床症状を示さない犬においても認められることがあり、今回は胃ポリープ切除時の病理診断により、初めてその存在が明らかとなった。慢性的な炎症が存在し、その刺激が胃ポリープを誘発したとも考えられるため、症状の消失後も食事療法あるいは薬剤の継続投与を考慮に入れた、注意深い経過観察が必要であると考えられる。
この発表の詳細は「こんな症状の時は?」の「吐き気や嘔吐」の「腸炎」に掲載していますhttp://tamc.blog.ocn.ne.jp/syourei03_03/
大正動物医療センター http://www.taisho.animal-clinic.jp/