政治介入の制度化は撤回せよ
「日本の学術の終わりの始まりになりかねない」(日本学術会議歴代会長6氏の声明)。政府が国会提出をねらう学術会議法人化法案に対して、撤回を求める声が広く学術界からあがっています。
「法人化」によって学術会議の独立性が損なわれ、政府の意向に沿う組織に変質するからです。学術への政治介入を制度化する法案の国会提出は断じて許されません。
■独立性を壊す悪法
内閣府が説明する「法案の概要」では、現行の日本学術会議法を廃止し、「法人化」のための新しい法律を制定します。現行法の「科学者の総意の下に、わが国の平和的復興、人類社会の福祉に貢献する」(前文)という設立の原点は消し去られ、もっぱら「我が国の発展に貢献することを目的」とします。
新組織は特殊法人として主務大臣(首相)の監督の下に置かれます。目的を達成する仕組みとして、(1)首相任命の監事を置き学術会議の業務を監査(2)内閣府に置く評価委員会が学術会議の活動に意見をのべる(3)外部者でつくる会員選定助言委員会の意見を聴いて会員候補を選定―するとします。学術会議が幾重にも政府の管理下におかれ、政府の意向に沿って活動する組織になります。
これは、「科学者の代表機関」として「独立して職務を行う」(学術会議法)という現行制度の根幹を掘り崩すものです。海外の民主主義国のどこのアカデミー(学術機関)にもない異様な仕組みです。歴代会長6氏の声明は「国内外において、日本学術会議のアカデミーとしての地位の失墜および日本政府の見識への失望を招く」と厳しく批判しています。
さらに、特殊法人化によって現行の国庫負担はなくなり、国からの補助金は「行政改革」による効率化の対象となります。「財政基盤の多様化」の名で、学術会議自らが国や産業界などから資金を集めなければなりません。
その結果、学術会議の発する助言は政府の意向や産業界の利益におもねるものにならざるを得ず、「科学者の代表機関」の役割は失われます。
■任命拒否の撤回を
発端は2020年の菅義偉首相(当時)による学術会議会員候補6人の任命拒否です。「任命は形式的行為」との法解釈を踏みにじって学術会議の人事に介入した違憲、違法の暴挙です。政府は「法人化で主務大臣の会員任命がなくなる」と弁明しますが、それによって任命拒否の違法性をあいまいにすることは許されません。政府はまず、任命拒否を撤回すべきです。
政府は任命拒否を「学術会議の在り方」にすり替え、学術会議の度重なる懸念の表明を無視して「法人化ありき」で強引に立法化をすすめています。学術会議の総会(24年12月22日)では「深刻な懸念がなお解消されていない」との批判が相次ぎました。
04年の学術会議法改正の際、政府は「今後の見直しについては日本学術会議が自ら行う改革の進捗(しんちょく)が基礎になる」と答弁しました(04年4月6日、参院文教科学委員会)。政府は国会答弁を守り、法案の国会提出をやめるべきです。
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