経営法務研究室2023

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プロ野球選手の年俸調停

2011-01-30 | (法律)

 西武の涌井選手の年俸調停(参稼報酬調停)の結論がでたようですね。

 2億5300万円(3300万円アップ)のようです(球団側の主張は2億2000万円、涌井選手側の主張は2億7000万円)。


 報道でも、「涌井の勝ち!3300万円増で調停決着」(サンケイスポーツ 2011.1.29 05:04)とされていますね。
(http://www.sanspo.com/baseball/news/110129/bsg1101290504001-n1.htm)、

 また、実際に担当された年俸調停の堀内恒夫委員によれば、「2億2000万円と2億7000万円の数字の間を考えていただけると、勝った、負けたかではなく、どちらがプラスの要素が多く、どちらがマイナスの要素が多かったかが分かると思うし、それを数字で示したつもりだ。(両者の主張の)間を2億4500万円と考えると、(2億5300万円は)66パーセントにあたる。金額については、これが適切であると信じて疑いません。 」とのコメントをされています(日本野球連盟機構「参稼報酬調停に関するコメント」
http://www.npb.or.jp/npb/20110128comment.html)。


選手の実績の評価はいろいろな見方があるので、それはさておき、結論自体は、涌井選手よりという理解でよいかと思います。




さて、今回の結論に関連して、注目するべき点がいくつがあります。


まず、①今回の年俸調停が新制度のもとでの初めてのものであったことです。
これまで、年俸調停(参稼報酬調停)は制度創設後30年経つそうですが、実際にこの調停を利用した選手はあまりおりませんでした(涌井選手以前は6名らしい)。従前の調停委員構成メンバーはコミッショナーのほかセパ両リーグの会長という話だったので、メンバーからして球団側寄りの可能性がある点で、制度の信用性自体が十分ではなく、この点が選手会長等、労組から批判されていたようです。しかし、新しく調停委員の構成を変え、今の制度では、委員3名中2名を元検事、弁護士で構成しています。その新調停委員のもとでの最初の判断が今回の判断でした。改革として行っている以上、やはり従前と違う結論を出さないと意味がないので、その意味で今回の判断は有益だと思われます。


そして、②今回の年俸調停が、選手側の主張よりの結論を出したことです。
これまで利用がわずかだったうえに(過去6回)、その利用したケースを見ても、調停の結果は、ほぼ球団側が主張する通りの結果を出す形でした(1992年オフになされた高木選手の調停だけ選手側のようですが・・・(選手側1億0263万円球団側9330万円のところ9840万円という結論で選手より)) 。
今回、一応の選手側よりの結論という意味では、これによって、今後、選手側にとって調停利用することに一定の期待できるとはいえます(同様の制度はメジャーリーグにもあり、活発に利用されているみたいです。)。


さらに、③今回調停にあたって調停員会側ならびに各調停委員がコメントを公表していることです(日本野球機構オフィシャルサイト 2011年1月28日「参稼報酬調停に関するコメント」 http://www.npb.or.jp/npb/20110128comment.html)。
本来調停委員会や調停委員があえてコメントをしなくても、本来は、社会的な見地から各当事者から記者会見がなされるところであり、あえて手続きに関与する者のコメントを出さなくても良いところだと思います。あえて出したことによって、今後の指針とする意図が見て取れます。

とりわけ、調停委員会として、「プロ野球選手の参稼報酬の決定方法等について」コメントを公表し、報酬の決定方法について明言している点は重要です(日本野球機構オフィシャルサイト 2011年1月28日「株式会社西武ライオンズと涌井秀章選手との間の参稼報酬調停の要旨」 http://www.npb.or.jp/npb/20110128doc.html)。この公表は、選手にとって有益なところであり、今後一つの指針とならざるをえません。そして、その基準は、選手の実績をベースに判断することは当たり前だとしても、「なお、」書きとしてですが、「選手のモチベーション」、「球団の魅力の維持向上」などを考慮し、「他球団の選手の参稼報酬の例をまったく無関係とすることは妥当性を欠く場合がありうる。」と明言した点は、より重要だと思われます。要は、個人の実績だけではなく、ほかの球団の選手の額等を持ち出すことをOKとする余地を認めています。

こうした点は、調停の結論に先立って、参議院議員までされた江本先生が自身のブログで「楽天の田中マー君が8月以降投げずにチームは最下位に。それでもマー君はアップして1億8000万円で、その差は2000万円。因みに涌井14勝、マー君11勝。涌井から見たらとても納得がいかないだろう。」と指摘されていましたが、こうした話も考慮する場合もありうる話なのでしょう。実際のところ、今回涌井選手は、ダルビッシュ投手の資料を提出されたとの報道がありましたが・・・


こうした点からすると、今までとは違って、選手側にとって、一応の指針が示され多少利用しやすい制度へ変わったといえます。



 なお、年俸調停について補足しますと、これは、一般にいう調停とは違って、裁判所が関与しているわけでもなく、あくまでも自主的に内部に制度を設けているというものにすぎません。なので、だれが調停委員をするか、調停委員がどんな権限を持つかも自分たちで決めているところなのです。
 もっとも、選手の実績の評価は、いろいろあるとしても、調停をしたにもかかわらず、出した結論が、球団側が主張している金額とまったく同じという話では、制度の信用自体がゆらぐところではあると思います。だから、今回、構成を変えた新調停委員での調停になったというわけです。
 しかし、こうした制度にも限界はあります。まず、調停委員の数が3名なので、絶対的に不足しているということです。また前提として、次のシーズンに入る前には完全に結論をださなきゃいけない制度であるはずなので、時間に制限もあるのです。このようなことからすると当然何件も処理できません。

 なので、この年俸調停は選手のみんなに利用してほしいという話としてはとらえるべきではないのでしょう。

 このことは、調停委員が「附言」として、「およそ参稼報酬は、双方の誠意ある交渉による合意により定まることが最も望ましい」として、さらに、「交渉の過程で、西武球団側にも、妥結に向けてのもう少し柔軟かつ積極的な姿勢が見られてもよかったのではないかと考える」として、あえてコメントを残した点にもうかがえます(日本野球機構オフィシャルサイト 2011年1月28日「参稼報酬調停に関するコメント」 http://www.npb.or.jp/npb/20110128comment.html)。

 要は、調停委員会として指針をも示しましたが、制度を積極的に利用せよというよりは、むしろ、球団側がしっかりしてください、きちんと話し合いをして、対応も柔軟にせよというスタンスなんですね。




 実際、野球は、サッカーに押されているところもありますしね。こうした問題は、プロ野球全体にかかわる問題ととらえるべきなのでしょう。子供たちも詳細はわからないまでも、何かがあったことはわかりますからね。プロ野球を目指す子供たちが減ったら、プロ野球界に影響もあるはずですし・・・