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ケインズは古いと言われて久しい。「古い」と言われて50年以上経つだろう。その「古い」と言っている人たちが依拠している経済学は基本的にはケインズよりも100年以上前に確立されたリカード体系だ。ケインズはそのリカード体系を批判したのである。ケインズが意図したのは、「先進国」の経済学である。ケインズはこれを「完全投資下の資本主義」としている。完全投資とは、投資案件が見つけにくく、かつ投資しなければならない貯蓄は巨額に積み上がるという状態のことだ。完全投資の条件下で政府の果たすべき役割は何か?というのがこのシリーズの眼目である。
今回は、このシリーズの概要を掲載する。実際には変わるかもしれないが大枠はこれで行けるはずだ。
主要三部門(家計・企業・一般政府)のGDP寄与度
家計は消費、企業は設備投資+在庫投資、一般政府は消費+投資+在庫投資としてGDPに寄与している。これ以外に民間住宅投資が、企業と家計の中間にある。
まとめるとGDPは消費と投資(+在庫投資)のことであり、すなわち使われたお金のことである。使われたお金は必ず誰かの所得となっている。GDPに直接現れないのは貯蓄と企業の利潤である。この場合の貯蓄はプラス・マイナスの両方を含む。マイナスの貯蓄とは債務の増加のことだ。
2023年第二四半期(4―6月期)のそれぞれの寄与度は、家計消費52.5%、民間住宅3.8%、企業設備投資17.0%、政府消費20.7%、政府投資5.3%となっている。在庫投資は官民合わせて0.4%程度、純輸出(輸出―輸入)-0.1%となっている。政府の消費+投資が家計消費の半分弱となる。これに一般政府の持つ再分配機能も加えて分析する必要がある。個別企業と違って単年度の黒字・赤字を云々しても意味がなく、かえって有害だ。
三部門の資金収支
三部門はそれぞれ消費あるいは投資を行いGDPに寄与している。同時に三部門相互で資金をやり取りしている。
もちろん日本と海外間の資金のやりとりもあるが、日本は赤字つまり海外からの資金流入よりも海外への資金流出のほうがはるかに大きいから当面考慮に入れる必要はない。海外からの投資を呼び込み云々という議論を聞くが「呼び込む」より「引き留める」ほうがはるかに重要だろう。日本の企業が投資しないのになぜ海外資本が投資するのだ。ちなみに不動産「投資」は資金の移転に過ぎず投資ではない。
一般政府の機能と資金調達の分析
中央政府:機能別支出をもとに何をなすべきか・財源をどう手当てするかを論じる。
地方政府:ふるさと納税の廃止と地方交付金の拡充を論じる。
社会保障基金:社会保険制度の安定とは何か。社会保険制度の目的とは何かを論じる
結論的なもの
一般政府が今果たすべき機能 投資と再分配
財源をどう手当てするか 累積債務問題を解決する唯一の方法(*)
再分配の強化について 最も簡単な方法
*トピック:とりあえず「国債の新規発行と国債残高とGDPの関係」
筆者の知っている範囲では、問題となっているのは国債残高とGDPの比率である。
分子に国債残高を置き、分母にGDPをとる。国債残高/GDP比率だ。
ここで国債残高をM単位増やし、GDPがM′増えたとする。M′>=Mなら国債残高/GDP比率は減っていくことになる。
国債残高+M/GDP+M′を考えてみればいい。国債残高100、GDP10としてM=M′=1なら100÷10より101÷11のほうが小さい。嘘だと思ったら計算してみてください。国債残高が(分子が)GDPより(分母より)大きい場合はこうなり、逆の場合は逆になる。
要は国債を財源とする資金の使い方なのである。新規国債発行分は100%以上GDPに反映されなければならない、ということだ。これは難しいと思われているが、投資・消費で使えばいいだけである。需要が不足しているとき(つまり借りられない貯蓄が発生しているとき)には必ずGDPに寄与するから。その意味で全国民に一律10万円配るというのは考え得る最悪の手である。減税もこれに同じ。配るなら配り方がある。
もちろん借換国債というのがあってこの発行分はGDPには寄与しない。
財政赤字をどうするのか、という問題は一般政府の資金調達の仕方で論じる。
ではM′>=Mなら国債はいくらでも発行できるのか?
この問題は本シリーズの結語に当たる部分で触れたい。