よみがえるケインズ

ケインズの一般理論を基に日本の現代資本主義を読み解いています。
カテゴリーが多岐に渡りすぎて整理を検討中。

56:第17章 利子と貨幣の本質的特性:ケインズの貨幣論-諸商品のなかで貨幣を貨幣たらしめる条件は?

2021年03月03日 | 一般理論を読む
 前回「難解と言われている一般理論の中でも超難解」と書いてしまったが、マルクスの貨幣に対する物神崇拝論を読んでいると難解でもなんでもない。人々はなぜこんなに貨幣が好きなんだろう、という話である。



 第4章末尾で指摘しておいた「一般理論の中でも後に詳述されるので、ここではこれ以上触れないが、貨幣が様々な財やサービスの一般的等価物である、ということは一般理論の重要な前提となっている」の解明である。全ての商品にはその商品固有の利子率がある。しかし貨幣利子率だけが資本の限界効率の下限となるのはなぜだろうか?ここから利子率の本質について流動性選好とは違うアプローチから迫っていく。

「商品利子率」とは何だろうか?商品に「利子」は発生するのか?

 ケインズは商品利子率を次のように説明する。

今日「現物」渡しされる(たとえば)小麦100クォーターにはそれと同じ交換価値をもつ一年後に先渡しされる小麦のある確定量が存在する。この量が105クォーターとすると、このとき小麦利子率は年率5パーセント、もしそれが95クォーターだとしたら、小麦利子率は年率マイナス5パーセントだと一言ってよい。ことほどさように、どの耐久商品を取ってもそれぞれに自己表示の利子率が存在する。小麦-利子率、銅-利子率、家屋-利子率、あるいは製鋼所-利子率でさえもが。

 引っかかたのは「どの耐久商品を取ってもそれぞれに自己表示の利子率が存在する。」という箇所。自己表示ではなく貨幣表示の利子率ではないだろうか。ただそう言ってしまうと商品利子率という言葉の座りが悪くなる。
 「小麦100クォーターにはそれと同じ交換価値をもつ一年後に先渡しされる小麦のある確定量が存在する。」と書いてある通りである。
 自己表示というと一年後に小麦そのものが増えていると誤解しないように。

 商品Aと商品Bがα:βの数量比で交換されるからといってそれだけでは何の意味もない、ということはすでに指摘されている。ここはこう書き換えるべきであろう。「どの耐久商品を取ってもそれぞれに固有の貨幣表示の利子率が存在する。」これを商品利子率と呼ぶ。この理解で以下の論考は何の問題もない。

小麦100クォーターにはそれと同じ交換価値をもつ一年後に先渡しされる小麦のある確定量が存在する。

 これは正確な表現である。小麦利子率が存在するのは、つまり一年後の価格が変動しているのは、今からの小麦の作柄・作付面積と需要予想による。諸工業製品についてもそれぞれの商品利子率が存在するが、資本ストックとの増加とともに自己利子率は低下していくだろう。

ある資産を一期間にわたって所有することから得られると期待される全収穫は

資産の収益(q)マイナス持越費用(c)プラス流動性プレミアム(L)、

すなわち、q―c+L ということになる。

 この分解はすぐ後に生きてくる。

 これ以下の分析は本文を読んでいただくことにして、筆者的に論理を展開してみる。

 社会には諸商品(A1、A2、A3・・・・)が存在する。諸商品はそれぞれR1、R2、R3・・・・の商品利子率を持つ。Rの高い商品にはより多くの資本が投下され、その結果Rは下がっていくだろう。ただし一斉に下がるのではなくRの高い順に資本が投下されて下がっていくことになる。その結果最後には相対的に一番高い自己利子率を持つ商品に資本が集中する。そのことで他の商品の生産が阻害される、というのがここでケインズが言っていることとなる。それは貨幣なのだが、貨幣を貨幣たらしめる条件は何なのだろうか?

貨幣を貨幣たらしめる条件とは?

 ケインズが挙げる条件は以下のようなものである。

① 貨幣生産の弾力性は民間企業の能力によってはゼロ←通貨当局でないと発行できない
② 代替の弾力性がゼロ←貨幣のみ需要が飽和することがない
③ 貨幣量を人為的に増やせた場合は←一般理論の時代は未だ金本位制
イ)名目賃金の下落により投資可能な貨幣量が増えた場合、名目賃金が一層低下するだろうという期待は、貨幣量の増加を資本の限界効率の低下が相殺する
ロ)そもそも名目賃金は下方硬直性があり、それは「賃金は貨幣で取り決められるときに粘着的になる傾向をもつというのは、貨幣のもつ他の特性、とりわけ貨幣に流動性を与える特性のゆえである。」既得権益層の抵抗のためではない。
ハ)「他の資産であれば数量が同じくらい増加すれば収益はそれに応じて低下するのに、貨幣の流動性から得られる収益は、それがある点を超えると、貨幣量がいくら増加しても他の資産に近いところまでは低下しなくなる、ということである。」先ほどのq、c、lの議論が生きてくる。q、c、lって何?ここは本文を読んでください。ここでは持越費用がゼロだからということです。


 第4章末で触れたように「1)様々な財やサービスの一般的等価物が貨幣であるということ2)賃金が貨幣で支払われるということ3)人が貨幣に対して選好を持つこと」は一般理論の重要な前提であるが、実はこれは資本と賃労働の成立ということである。

 この三つの中で基底的条件は「2)賃金が貨幣で支払われるということ」である。一般理論は「プロレタリア―トの出現」を前提としている。言い方を変えれば、「プロレタリア―トの出現」が一般理論を生み出したことになる。利子や貨幣は古くから存在するが貨幣資本がマルクスの言う「資本」に転化した時代を分析しているのだ。

 マルクス資本論とケインズ一般理論は資本主義の異母兄弟なのだ。母なる思想風土が違うからね。

 

最新の画像もっと見る