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今日の筆洗

2021年10月12日 | Weblog
入門に際しては両親、とりわけお母さんが反対した。どうしてもその道に進みたかった男の子は落ち込み、毎日、壁に向かってぼんやり座り続けるようになる。家の中が暗くてしょうがない。両親はついに音を上げ、男の子を送り出したという▼その道は独自の至芸や人間国宝につながっているんだよ。壁の前の若者に教えたくなる。落語家の柳家小三治さんが亡くなった。八十一歳。「青菜」「小言念仏」。それほどでもない噺(はなし)が小三治さんが演じるとどうしてあんなにおかしかったのか▼噺を覚えるのが苦手だったそうだ。せりふや筋を覚えるだけならさほど難しくはないだろうが、小三治さんの場合は「了見で覚える」▼まず登場人物の心持ちになって、その人の言葉として覚えていくというから、やっかいな作業だったのだろう▼せりふや動きよりも人物の了見を重視した芸は派手さには欠けたかもしれぬが、その分、人間を丁寧に描けた。どんなに滑稽な噺でもその笑いの裏にある、悲しみや寂しさのようなものまでつい想像させる。そんな高座だった。談志さんの「凄(すご)み」や志ん朝さんの「華やかさ」に対し、小三治さんは「深さ」か▼二日の「猫の皿」が最後の高座だったと聞く。以前、最後は「粗忽長屋」でと書いていたので、まだまだ続けたかったのだろう。寂しい。ファンには「小三治」ではなく「大惨事」である。