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今日の筆洗

2021年10月21日 | Weblog
老い、傷つきながら大物カジキと必死に闘う漁師、サンチャゴ。もちろんヘミングウェーの「老人と海」である。「手よ、引っ張ってくれ。脚も頑張ってくれ。頭も最後までこらえるんだぞ。おれのためにこらえてくれ」(訳・野崎孝)▼球場に冷たい秋風が吹く。海の中のあきらめぬ老漁師を見た気になる。初球は高めのボール。球速は百十八キロしかない。二球目はなんとかストライク。そしてボール、ボール、ボール。松坂大輔投手の最後のマウンドは四球だった▼ぶざまと見た人はおるまい。かつての百五十キロを超える剛速球は消えた。ボストンを熱狂させた鋭いスライダーもない。肩の痛み、右手のしびれ。四十一歳となった「平成の怪物」が歯を食いしばり投げている▼延長十七回の対PL戦。イチローから三つの三振を奪い「自信が確信に変わった」と語った対オリックス戦。ワールドシリーズでの一勝。大投手の名場面は数々あれど最後の四球こそ一層大きく掲げよう▼制球定まらぬ百十八キロの直球。それは最後までもがき、野球に立ち向かった証しである▼あの漁師はけがと闘う強打者ジョー・ディマジオを自分に重ね、励みとしていた。サイモンとガーファンクルの「ミセス・ロビンソン」のひと節を思い出す。<ディマジオ、どこへ行ったんだい。国中が寂しい目をしているよ>。「怪物」の名に替え、口ずさむ。