作家の山本周五郎は頼まれてもめったに結婚式には出席しなかったらしい。その人が珍しく結婚式に出て、祝辞まで述べたことがあったと、作家の山口瞳さんが書いていた▼お弟子さんに当たる方の娘さんの結婚式だったそうだ。祝辞を求められると立ち上がり、壇上ではなく、新婦のところへ向かった。そして耳元で何かをささやいて自分の席に戻ったそうだ▼何を言ったのか。新婦の父が山口さんに教えてくれた。「いま、あなたにオメデトウとは言わない。あと、十年経(た)ち、二十年経ち、立派な家庭を築いたときに、はじめてオメデトウと言います」▼皇室を離れたので「様」ではなく、「さん」と書く。秋篠宮家の長女眞子さんと小室圭さんが結婚された。「ゴールイン」とはよく言ったもので、圭さんの母親の金銭トラブルなど何かと苦労の多かった結婚までの長い道のりである。周五郎さんとは違い、いまオメデトウと言う▼記者会見で、今後も自分や圭さんとその家族への「誹謗(ひぼう)中傷」が続くのではないかと心配していた。晴れの日にこんな不安があるとは、お気の毒だが、お二人の幸せな日が続くことで結婚によい顔をしなかった一部の空気もやがては変わっていくだろう▼なるほど、オメデトウを言わなかった周五郎さんの祝辞の意味が分かる。嫌みではなくがんばれと言ったのであろう。十年経ち、二十年経ち…。