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今日の筆洗

2021年10月23日 | Weblog

情趣は文学の世界で生きている。そんな絶景がある。秋田の象潟(きさかた)は知られているだろう。鳥海山を背景に、大小さまざまな島が浅い海に浮かんだ景色は、松島と並んで称賛され、古くから歌枕になった▼<象潟の桜は波に埋(うず)もれて花の上漕(こ)ぐ海人(あま)の釣舟>。西行が詠んだと伝わる歌は往時をしのばせていよう。芭蕉も『奥の細道』で美しさをたたえた。その後の一八〇四年に起きた直下型地震で土地が隆起し、潟は埋まってしまう。現在の景観にも趣はあるが、かつての情趣にひたるには、歌や俳句を頼りにする必要があろう▼アフリカの有名な絶景の地にも異変が起きている。地球温暖化が今のまま推移すると、最高峰のキリマンジャロ山など三つの山の氷河が二〇四〇年代になくなり、大陸から氷河が消える。驚きの見通しを世界気象機関(WMO)が先日、公表した▼<全世界のように幅広く、大きく、高く、日をうけて信じられないくらい白く、キリマンジャロの四角い頂があった>。ヘミングウェーの小説『キリマンジャロの雪』の一節だ。映画も印象深かった▼雄大なあの景色にも、いずれ影響は及ぶのだろうか。趣が文学や映画の世界に生きる時がくるかと思えば、切ない▼気候変動とは、かけがえのない景色を一方通行で文学の世界に、やってしまうものかもしれない。失われる絶景は他にもありそうだ。警鐘だろう。