第二次大戦で当時のソ連は、不可侵条約を破って攻めてきたナチス・ドイツを退けた。ロシアは「大祖国戦争」と呼び、国を守った戦いを誇るが、序盤は劣勢。スターリンの独裁が響いた面がある▼ドイツの侵攻近しと伝えるスパイ情報も多数あったが、独裁者は「あるはずがない」と相手にせず、警戒を怠った。多くの党員、官僚、軍人らが粛清されており、トップの先入観が国の方針になった。大木毅氏の著書「独ソ戦」(岩波書店)に教わった▼ウクライナに侵攻するロシアのプーチン体制にも、独裁の弊害がみられると米国が指摘している▼米情報機関の分析のようだが、側近らはプーチン大統領を恐れ、戦況などについて真実を伝えていないという。今回の侵攻も一部の側近と決め、蚊帳の外だった幹部もいるとの報道も。皇帝とも呼ばれる指導者は情勢を正確に把握しているのだろうか▼戦争に勝ったスターリンは死後に圧政を批判されたが、プーチン時代には博物館に胸像ができるなど復権が進んだ。ヒトラーの野望を砕いた歴史こそが国民を糾合し、強いロシアの礎になると政権は考えているようだ▼ウクライナ侵攻でロシアが、対独戦勝記念日の五月九日までに「勝利宣言」するとの観測もあるが、そんな簡単にいくだろうか。大祖国戦争と違って侵攻を始めたのはロシアで、祖国防衛に燃えるのは相手の方である。