巨大な国があった。その国を治める大統領は他国を征服したがっていた。自分の国の暮らしは最高なので征服された方が他国に住む人のためになる。そう考えた▼次々と侵略し、残るは一国。小さく、軍隊もない国である。攻め入るとなぜか歓迎してくれる。人々は兵に料理をふるまい、土地の歌や昔話も聞かせてくれる▼こうして侵略は終わったが、やがて、巨大な国には小さな国の料理のにおいが漂うようになる。小さな国の服も流行する。ある夜、大統領の子がなにか歌ってとねだった。大統領が歌ったのは小さな国の歌だった▼原題は『THE CONQUERORS』(征服者たち)。「征服」したのは、小さな国の人々だったのだろう。日本語訳の題名も良い。『せかいでいちばんつよい国』。作者の英絵本作家のデビッド・マッキーさんが亡くなった。八十七歳▼ロングセラー『ぞうのエルマー』(一九六八年)の方が有名か。鮮やかな九色のゾウ。エルマーは他のゾウとの違いに悩むが、同じでなくてもかまわないし、その方が楽しいと気づく。自分の国と同じになればみなが幸せと勘違いした大統領もそうだが、作品が子どもや大人に伝えていたのは多様性を認め合う穏やかな心であろう▼考えてみれば、絵本の大統領にも少しは良いところがある。小さな国の文化を憎み、根絶やしにするようなまねはしなかった。