昭和のプロ野球の審判で、功績が認められて野球殿堂入りした二出川延明(にでがわのぶあき)さんは「俺がルールブックだ」と抗議を退けた話で知られる▼試合を面白くするため最終回には、リードする側の投球への判定が厳しくなったとも伝わる。鉄腕・稲尾和久さんが、ど真ん中に軽く投げた球をボールと判定され、マウンドを降りて文句を言ったら「稲尾君の球として物足りない」と返されたという。スポーツ実況で活躍した元NHKアナウンサー西田善夫さんのコラムに教わった▼先日の試合で、ロッテの佐々木朗希投手のもとに球審の白井一行さんが怒った表情で詰め寄った。ランナーを一人も出さない完全試合達成から間もない若手右腕だが、判定への不満を態度で示したと白井さんは受け取ったらしい▼審判として感情的すぎるなどと批判を招き、日本野球機構にも抗議が寄せられた。審判長が白井さんに「別の方法があった」と指摘したという。態度を注意するとしても捕手を介するなど冷静に、ということらしい▼西田さんのコラムによると、ボールと判定した二出川さんに「物足りない」と言われ、稲尾さんは悪い気がしなかったという。「なんだかほめられた気がして、気持ちよく次のモーションに入りましたよ」▼乱暴ともいえる判定をしつつ、抗議をかわして選手をうまく乗せる−。審判が通ずるべきは人情の機微、だろうか。