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今日の筆洗

2022年04月12日 | Weblog

大リーグに突如現れた無名の投手が「魔球」を武器に大活躍し、ついにはチームをワールドシリーズ優勝へと導く。米映画の『春の珍事』(一九四九年)を思い出している▼この投手、実は化学の大学教授で実験中に奇妙な液体を発見する。これを塗ったボールはなぜか木製品を避けて通る。つまりバットには当たらない。空振りした強打者のきょとんとした顔がおかしかった▼二十歳の右腕が日曜日にやってのけた快挙に古い映画が浮かんだが、こっちは紛れもなく、現実である。ロッテの佐々木朗希投手。対オリックス戦で、完全試合を成し遂げた。完全試合は二十八年ぶり。すごいとしか言いようがない▼最年少での完全試合達成。十三打者連続奪三振は日本新記録。一試合十九奪三振は日本タイ。記録の山も百六十キロを超える速球と落差の大きなフォークボールを見れば、納得か。「令和の怪物」の愛称でも物足らず、長い球史の中でも「最高の怪物」と呼びたくなる▼岩手県陸前高田市出身。九歳のときに東日本大震災の津波で父親と祖父母を失った。中学や高校では故障もあった。悲しみや不運を乗り越えて野球に取り組んだ投手の球に、野球の神様がこっそり不思議な細工をしてくれた気がしてならぬ▼二度、完全試合をした投手はいない。球場で見たかったが、あの投手ならまた機会があるはずだ。春の珍事ではなく。